□Fosberg, F.R. and M.-H.Sachet : Manual for Tropical Herbaria, Regnum Vegetabile Vol.39
132pp.+16figs. 1965.
IBPTがUNESCOの援助の下に、世界各地の関係者からの進言を元にして編集したもので、我々温帯の住人にも十分利用価値がある。標本館についてのreference bookとして役立てるために、目次は6頁にわたってくわしく作られている。1章:緒言、2章:性質と機能、3章:建物、4章:採集、5章:標本製作・収納・利用、6章:図書室、7章:運営。記述は、たとえば建物の採光、便所、シャワーから台紙や紙テープの質やサイズ、更には使用人の給料についてまで微に入り細にわたっている。気のついた点を2・3書くと、採集旅行については日帰り、数日がかり長期にわたる場合のそれぞれについて、特に標本の扱い方や輸送法が記されており、遠征に出る人達の参考になるだろう。採集用具は特に変わったものは無いが、水草採集用として放射状のかぎをつけた重錘にロープをつけたものが記されている。また胴乱の記事は無く、野冊のみが解説されているのは熱帯の特殊事情によるものだろうか。標本の乾燥には、ジュラルミン波板又は段ポールにはさんで熱源上に置き、或は通風するやり方がのべられており、吸湿紙交換による従来の方法はとり上げられていない。ラベル記入に当たっては従来のデータのみでなく、花粉媒介の機構、花の斑紋、晴雨の際の葉の行動など、要するにあらゆる観察を記録することが、標本が有効に利用されるために必要だと強調されている。附録として水生植物、バナナ、菌、ヤシ、タケ、サトイモ科、多肉植物、木材標本の採集法、液漬標本の作り方、用語解説がある。
[植物研究雑誌40(9):287-288(1965)]
□Hansen, C. : The Asiatic Species of Osbeckia (Melastomataceae), GINKGOANA No.4
150pp.+20pls. 1977. Academia Scientific Book Inc. Tokyo. ¥5,000.
著者はコペンハーゲン大学のBotanical Museumに属し、このヒメノボタン属の研究はデンマークの東南アジア植物研究の一翼をなすものである。まず特徴となる形質の簡単な説明に続いて、2種類の検索表が示される。一つは目立った形質を目安として種または種の小グループへ直接到達するもの、もう一つは通常のタイプのものである。次に各論に入り、種、変種ごとに同じスタイルの記述が続く。文献の引用は原記載の出典以外は省かれている。その代わり異名についてその基準標本がいちいち引用されている。英文の記相文と著者の見解がのべられ、その後に参照したすべての標本のデータがリストされ、また分布図がつけられている。分類上の大きな異動はなく、変種レベルで3つの新名と7つの新組合せが行なわれている。巻末に学名の索引と共にCollector別の標本の索引がある。新見解を盛った本というよりも、基本データを多く盛り込んだ参考文献である。それにしては引用標本のリストはみな追込みになっていて見にくい。編集の邪魔扱いのような感じだが、小さい活字は経済上やむを得ないとしても、もう少し見易い形式に組んだ方が利用に便利と思う。
[植物研究雑誌52(10):320(1977)]
□Pankhurst, R.J. (ed.) : Biological Identification with Computers.
333pp. Academic Press. 1975. £20.25 (¥7,480).
1973年に行なわれたシンポジウムのまとめで、電子計算機を同定の手段として利用する問題に関し、16編の論文が収められている。電子計算機を用いて「分類」を行なうことは既に20年以上の歴史があるが、いまだに分類学の中に定着したとは云えず、その有効性に疑問を持つ人が少なくない。筆者もその1人である。その最も大きな理由は、形質の評価の基準がないために、いかに精密な処理を行なっても従来のわくを越えることができないことにある。そのために分類学に計算機を導入することは、特にわが国では異端視される傾向がないではない。
しかしながら、分類体系を組立てるという目的とは別に、種の同定作業の道具としての計算機の有用性は、はかり知れない将来を持っている。同定の手段として従来用いられて来た検索表は、論理的な同定法とはとても云えるものではなく、また標本のもつ限られた形質に応じた同定経路を選択することもできない。我が国の高等植物のフロラに関する成書は、既にいくつも出版されているにもかかわらず、同定についてはいまだに多年の経験に基づく名人芸に頼らねばならないのは、有効な同定手段の開発が期待されていることの裏返しに他ならない。このためには従来一緒にして考えられていた分類(Classification)と同定(Identification)を分離して、互にリンクをとりつつ別個な努力を傾注する必要がある。そしてIdentificationの分野に於ては電子計算機の最大限の活用によって、従来にない飛躍が期待できる。これらのことは筆者の意見であるが、本書の中でも多くの論者が触れている点である。
まず、Historical IntroductionとSurveyの項目の下に、従来の同定手段の変遷と展望について概説されている。次のTechniquesは10編の論文を含み、自動同定に関する理論的、技術的問題が論じられている。微生物に於ては、難病原性微生物の迅速な同定は、社会的な要求もあって開発が進んでおり、計算センターに蓄積されたデータとソフトウェアを利用して、遠隔地からの自動同定が行なえるようなシステムが紹介されている。高等植物の自動同定システムとしては、イギリスのCambridgeshire地区のRubus fruticosus類縁種群を電算機と対話しながら同定するプログラムが紹介されている。このシステムは学生教育用の小規模なものであるが、電算機が提示する形質群を手許の標本とくらべて選択して、同定範囲をしぼって行けるようになっている。Taxonomic Data for Identificationには2論文が含まれ、一つは北米のあらゆる顕花植物を同一の検索システムにのせる為に、すべての種の形質を同じ形式で記録するFlora North America Programの書式が解説されている。このプログラムは検索のみでなく植物誌の自動作製をも意図したものである。これなどは莫大な予算と期間、それにすべての分類研究者の大きな苦痛(苦労だけではなかろう)の結果なされるものだろう。もう一つの論文では従来の記載文を自動同定のデータに作りかえるうえの問題点がのべられている。他にStatistical Theory、Teachingの項目で各1編およびDiscussionがあり、最後に文献目録、関係ある電算処理プログラムの目録、自動同定に関する用語集がつけられている。
このシンポジウムが行なわれてから既に5年が経過しており、今日の電算機関係諸技術の急速な進歩を考えると、当時のfutureの多くは実現されている筈であり、この研究分野は遠からず最も活発な動きが期待される。我が国の分類学は系統、進化に重心がかかりすぎ、同定という多分に技術的な面はとかく軽視され勝ちであり、事実この方面の研究者は1人もいないと云っても過言ではない、同定という仕事は学説と違って、よそでいくら発展していても我が国でそれをとり入れるわけにはゆかない。特に同定のもとになるデータベースの作製は一朝一夕にできるものではなく、また研究者ばかりでなくアマチュア多数の努力にもまたねばならない。分類に理解をもち、この方面に関心をもつ若い研究者の出現を期待したい。
[植物研究雑誌53(8):243-244(1978)]
□Holm L' R.J.V. , Pancho, J.P. , Herberger & D.L. Plucknett : A Geographical Atlas of World Weeds
391pp. 1979. John Wiley & Sons. ¥10,500.
約8,000種の雑草を学名のABC順に並べ、世界124ヶ国における存否を5段階に分けて示したリストで、分布図や植物図はないが、雑草の分布を世界的につかむには便利である。5段階とは、S:重大な有害雑草、P:基本的な雑草C:普通の雑草、X:雑草的なもの、F:フロラ中に見られるが雑草か否か不明なもの、となっている。最も広範かつ有害な種はCyperus rotundus(ハマスゲ)で、91ヶ国にわたり、我が国を含めて52ヶ国でSランクに入れられている。こういう調査は情報源が雑多なのでやむをえないことだが、ヒヨドリバナがネパールではこの属の唯一の雑草で、Sランクになっていたりする。緒言は日本語、アラビヤ語、ヒンズー語を含む10ヶ国語で記され、国名の略語表にもこの10ヶ国語のスペルが記されている。[植物研究雑誌55(12):366(1980)]
□Kitagawa, M. : Neo-lineamenta Florae Manshuricae
715pp. 1979. J.Cramer, Vaduz.. ¥ca. 32,000.
本書はわが国の植物研究者の外地フロラ研究の成果として、既に古典の一つにかぞえられるLineamenta Florae Manshuricaeの改訂版である。敗戦ですべてを失い、身一つで帰国した著者が、国内各地に保存されている標本と文献にもとづいて、全体にわたって書き改め追補したもので、これから、大陸のフロラと関り合いが多くなるこの時期、歓迎される文献である。はじめ12頁にわたって満州フロラの概説がなされ、残り673頁は分類順のリストとなっており、多くの異名、和名、分布、ノートが記されている。概してタクソンは小さ目な感じがする。新種の発表は本書ではなされていない。その代わり、主に種内のタクソンで、非常に多くの新組合せがなされており、その数は239におよぶ。また新和名の発表も278に達している。これらの中には日本産植物に関するものも少なくない。例えばボウフウの学名がSaposhnikovia seseloidesとなった。Ligularia subsect. Cyanocephalumの中に、ser. Epapposaeという系が新設されている。この他にPolygonatum quinquefolium(ヒナヨウラク)、Sedum yamatsutae(コバノキリンソウ)、Viola yamatsutai(マンシュウヒカゲスミレ)、Vicia unijuga var. breviramea(エダウチナンテンハギ)の記載文が追記されマンシュウヒカゲスミレと、エダウチナンテンハギのタイブ標本の指定がなされている。索引は属名についてのものがあるが、たくさん出て来る種以下の学名や、和名の索引がないのは不便である。
[植物研究雑誌55(2):44(1980)]
□Berggren, Greta : Atlas of Seeds Part3
259pp. 1981. Swedish Museum of Natural History.
種子の図鑑である。表記の題目に続いてand small fruits of Northwest - European Plant species(Sweden, Norway, Denmark, East Fennoscandia and Iceland)with morphological descriptions. Salicaceae-Cruciferaeとあるように北欧地域の植物の種子および小果実を分類順に記相し、写真をつけたものである。科および属の見出しの下に全体の種子の記述と属、種のkeyがあり、種ごとにくわしい形態学的記述が続く。図版は105あり種子の各方向からの写真、断面、変異幅、図などが並んでいる。ところどころに走査電顕像もある。写真は輪画や稜線に墨が入っていて、時に強調されすぎている感じをうけるものがある。種子断面ではhypocotylの位置に特異性のあるものがあり、興味をそそられる。わが国の植物については断片的な種子図鑑があるが、こういう工合にまとまったものはない。どうもこのような枚挙記載的なものは分類学者の間でさえソッポを向かれる傾向があって残念だが、研究上も実用上も大変有用なものなので、続刊を期待すると共にわが国でも手をつける人が出ることを希望する。
[植物研究雑誌56(12):375(1981)]
□Uppeandra Dhar & P. Kachroo : Alpine Flora of Kashmir Himalaya
280pp. 1983. Scientific Publishers, Jodhpur. India. 200ルピー(¥9,000).
カシミールヒマラヤの高山植物誌である。フロラ要素の分析に主体がおかれ、要素ごとの相対比や科単位での世界の分布との比較が行なわれ、約150種の分布図がしめされている。後ろ3分の1は種のリストで、属の検索表と著者らのコレクションによる標本があげられている。
[植物研究雑誌60(1):32(1981)]
□Mirella, Levi D' Ancona : Botticelli's Primavera. A botanical interpretation including astrology, alchemy and the Medici.
213pp. 1983. Leo S. Olschki Editore, Firenze.
ボッチチェリの「春」はルネッサンスの名画として名高い。しかし時の経過による素材の変質や塵埃の堆積で、制作当時の華やかさは失われていた。フィレンツェの国立修復研究所では、1966年の洪水による文化遺産被害修復の一環としてこの絵に手をつけ、1972年その成果を公表した。本書は「春」の中に描かれている多数の植物を一つ一つ同定し、それが選ばれた意義や当時のパトロン・メジチ家との関連を解釈した労作である。ある人の依頼で、私には不似合いなこういう本を見ることになった。植物の日本名を調べてほしいというのがその目的だった。
本書では部分ごとに原画と見取り図を並べ、一つ一つの花を同定している。この際フローレンス大学植物学教室ハーバリウムの協力を得、その結果40種が同定された。典型的な春の花であるNarcissusがないのはおもしろい。
こういうことをするに当たって基本的なことは、原画が同定に耐えるほど写実的であるかということである。絵画であり、しかも人物中心の絵だから植物の扱いはあまり慎重とは思えない。たとえば殆どの植物は根生葉をもち、茎葉は線状のものが多い。あるパタンのロゼットが異なる花についていたりする。花序の形も画一的である。こういうものを同定するのは花のみに注目して属レベルでやるとしてもなかなか大変である。だから特色のある植物、たとえばHelleborus、Tussilago、Muscari、Bellis、Rosa、Euphorbia、Viola、Irisなどは疑問の余地はないが、小形の5弁花となると矛盾が多く、しかもこういうものが数として多いから始末が悪い。たとえばpoppyが5弁花で花筒や萼があったり、Myosotisが離弁で円錐花序になっていたり、strawberryが5掌状復葉だったりする。こういうのは制作者が気がつかずに矛盾を作り出しているのを無理に同定するのだから、半分は仕方がないとして、明らかに同じ花を絵の部分によって異なった種に同定しているのは著者の責任で、どうもいただけない。どういうわけかCrocusとHelleborusを混同してしまったところもある。こういう仕事をやる人は植物学の専攻者ではなく、文科系の人なので気の毒ではあるが、“ botanical "というからには分類学の専攻者を共同研究者として入れるべきだったろう。本書を提供された人の話では、別に植物学専門家の報告書があり、本書はそれに基づいている筈だというのだが、それにしては矛盾が多すぎる。同定の結果によってその花言葉の意味が違ってくるので、絵の解釈自体が根本的に違ってしまうのだから、同定を軽く見るわけにはゆくまい。botanistがやれば、「写実的」といわれるこの絵の評価は変わるだろう。それとも「当時としては思いのほか写実的」ということだろうか。
ことのついで書くと、我々のところへ他分野の研究者が実験材料の同定を求めることが多いが、彼等はその返事が研究の結果であることを意識していないようだ。とくに困るのは、仕事が終わってから材料の一部を持ち込まれるときである。その名前はわかるかもしれないが、彼が今までそれと「同じもの」を材料としていたかどうかは保証されないのである。「その」名前は分かったとしても、材料全体がそれだったか否かについては同定者は責任をとれない。近頃、文献引用の回数で業績を評価するというナンセンスなソフトウェアが開発されたそうで、そのせいか多数の著者による共著論文や発表がふえているように思う。中には指導教官が学生のやった仕事に共著で顔を出したり、自分の管理する機器を使わせるのに共著を要求する先生もあるといううわさもきく。分類学研究者も、同定の当然の対価として共著を要求したらどうだろうか?
[植物研究雑誌60(3):89-90(1985)]
□New York Botanical Garden : Index to Specimens Filed in the New York Botanical Garden Vascular Plant Type Herbarium
587pp. 1985. Meckler Pub.s, Westport.
1982年に製作頒布されたニューヨーク植物園のタイブ標本ミクロフィッシュの索引で、P.K. Holmgrenほか6人の編集になる。植物名は科ごとにまとめられ、その中は属名のABC順、属内は地域別にまとめられている。この地域別は不便で、全部ABC順の方がよかった。それぞれの学名には著者名、原産地、フィッシュ番号が示されている。科の配列は同植物園の分類順でその索引は巻頭1-8頁にある。本書はさきのミクロフィッシュ購入先に配布されている。この企画は1981年にはじまり、73,000の植物名を取捨検討のうえ5年を費やして出版に至っているが、その間の労働量が序文に示されていて興味深い。1982年7月に1人のパートタイマーがワープロによる入力作業にかかり、9月には2人のスタッフがフィッシュナンバーの記入にかかったが、手にあまったため11月にはさらに2人のスタッフが動員された。それでも間に合わず、さらに4人のフルタイムを4ヶ月やとった。7人の編集者の費やした時間は5,781時間(165週)である。記録作業のための労働時間はわかっていないが、ある1人は2年にわたって週20時間働き、他の1人は10ヶ月間週15時間働いたことがのべられている。われわれの頭では週20時間という労働が記録に値するかどうかわからないが、彼等にとって非常なアルバイトであったのだろう。わが国ではこのような作業は研究の合間にやることで、「こんなに働いた」と公表することはむしろはしたないことといわれかねない。しかし、こういう仕事は思いのほか手間も暇も、当然金もかかるということはもっと広く認識されるべきだろう。
[植物研究雑誌60(12):360(1985)]
□Vaucher, Hugues : Elsevier's Dictionary of Trees and Shrubs, in Latin, English, French, German, Italian
413pp. 1986. Elsevier Science Publisher, Amsterdam. ¥30,000.
さきにMacura, P. によりElsevier's dictionary of botanyⅠPlant names (1979)、ⅡGeneralterms (1982) が出版されているが、本書はそのⅠと似たスタイルのものである。Macura (1979) は植物の英名の下に仏独学名が列記され、別に仏独露学名から英名の見出し番号がたどれる索引がついており、学名にして約6,900件が収容されている。一方本書は学名の下に英仏独伊名が列記され、別にこれらの土名別に直接学名を知ることができる索引がついている。収容件数は学名にして約2,300である。本書はその内容からみてMacura (1979) と重複した、というより引き継いだ部分が多いはずだが、そのことについては巻末の文献欄に引用されているのみである。収容件数の減少についてはなぜかわからないが、前書は隠花植物も収容しているのに対して本書は温帯の顕花植物を主体としているところに理由のひとつがあるようだ。本書が前書と一番違うところは、植物体の大きさとか常緑落葉の区別、栽植土壌の条件、同類の分布域などのごく簡単なノートがついていて、植栽関係の用途を考慮している点のみである。サイズはMacura (1979) が15×23cm、本書が17×25cmとわずかに異なっている。同じ書店の同類の出版物としては計画性にとぼしいもので、なぜ前書の拡張を図らなかったのか、もったいないはなしである。イタリア名に執着しなければ、収容数の多いMacura (1979) で十分だろう。
[植物研究雑誌61(10):320(1986)]
□Oliver-Bever, Bep : Medicinal Plants in Tropical West Africa
375pp. 1986. Cambridge University Press, Cambridge. ¥16,800.
熱帯西アフリカ産の生理活性のある植物が心臓血管系、神経系、抗感染作用、副腎皮質ホルモン、性・甲状腺ホルモン、低血糖作用に分けて効能別に記述されている。どの種についてもL、C、Pの見出しの下に、土俗的用例、成分、薬学的知見がのべられている。最近日本の経済活動の拡大とともに、なじみのうすいアフリカの植物についての質問、それも貿易業務上の質問がふえているので、こういう本を備えることにした。参考文献が86頁にもわたっているが、大部分は薬学的文献である。植物名索引は20頁にわたるが学名索引で、common nameの見出しはあるが、英名ばかりで現地名がほとんどないのは少々もの足りない。
[植物研究雑誌61(6):171(1986)]
□Panday, Krishnakumar : Fodder Trees and Tree Fodder in Nepal
107pp. 1982. Sahayogi Prakasan, Tripureshwar, Kathmandu, Nepal.
ネパールの自然破壊の原因は自然的条件や人口問題が根本原因ではあるが、その直接原因は耕作や飼育動物の放牧とその飼料採取による裸地化にあることは、誰もが指摘するところである。本書は永年ヒマラヤの農村改善に取り組んでいるSwiss Development CooperationとSwiss Federal Institute of Forestry Researchの研修を受けた著者の研究成果で、植物や農村景観の美しいカラー印刷はスイスでなされている。内容はまずネパールにおける現状をのべ、浸食による被害にもかかわらず飼料の需要のまえに植生破壊が進行し、植林の試みはなかなか成功しないことをのべる。ついで主要な飼料植物の記述とその含有成分について、分析結果に基づいた記述がある。最後に飼料植物の増殖について種々の考察がおこなわれ、さらに有用な飼料植物の調査研究についても言及されている。これらの記述は統計や分析による数字的根拠に立ってなされている。われわれも発展途上国での調査に、純学術の上にこういう観点も加えることができれば、一層歓迎されることだろう。普通種のLeucosceptrum canumが学名不明とされているのはちょっとまずかった。
[植物研究雑誌61(10):306(1986)]
□Joshi, S.C. (ed.) : Nepal Himalaya, Geo-ecological Perspectives
506pp. 1986. Himalayan Research Group. Post Bag No. 1, Thallital, NainiTal, India. $50.
インドのクマオン大学の研究者が中心となって編集した、ネパールヒマラヤについての40篇の論文が収められている。内容は6部に分かれ、1. ヒマラヤ、資源と発展、2. ネパールヒマラヤ、生物学的背景、3. 人口学的政治地理学的展望、4. 経済社会学的側面、5. 発展の経営方策、6. 応用研究と探査、の副題の下にまとめられている。論文の内容は著者によりさまざまなレベルであるが、ネパールヒマラヤの自然史的概観を得るために一見を要する。植物学関係は自然保護関係を主として、飼料植物、食用植物、地滑りとシダの役割といったものであるが、植生との関係を論じたり、植物リストがついていたりして有用である。現地としてはこのような応用と結び付く研究が求められるためでもあろう。気象関係では年間雨量5,000mmに達する小地域が中部ネパールのポカラ西北方に存在することが、観測網の整備につれて明らかにされたことがのべられている。ここは地滑りの多発地域で、わが国からも民間ベースによる援助のおこなわれているところである。インドで編集されたものであるが、45人の著者のうち18人はネパール人、17人がインド人、残り10人がそのほかの国の人で、ネパールの研究者を充分尊重している姿勢がうかがえる。日本からは沼田真、飯島茂の二氏の論文がある。末尾にJ.D.Hookerの業績の要約がある。
[植物研究雑誌61(11):348(1986)]
□Klucking, Edward P. : Leaf Venation Patterns Vol.1. Annonaceae
256pp. + 140pls. 1986. J. Cramer, Stuttgart. DM220.
著者はカリフォルニア大学の古植物研究者である。植物葉の遺体の同定には葉脈の細部のパタンが有力な形質として用いられ、系統論にも利用される。これは古植物にかぎらず、われわれが葉1枚でもその種を同定できるのは、葉脈パタンの情報が大きい寄与をしていることは疑いない。その基礎資料として現生種の葉脈標本(Cleared-leaf specimen)の作成と蓄積が行なわれている。本書は葉脈パタンのモノグラフを意図するもので、Annonaceaeの128属のうち104属の記述と葉脈の写真がのせられている。記述は属単位で、Predominant venation pattern、Description、Representative species、Commentsの項に分けてある。「葉脈は正確な計測や記述がやりにくいものの1つである」と書いてあるとおり、Descriptionは苦心の作だろう。Commentは属の特徴となる形質について特記したものである。Predominant venation Patternは葉の生長段階を1. 頂端生長の盛んな段階、2. 支脈を出して横方向に発達する段階、3. 細脈を形成して完成する段階に分け、どの段階が成葉のパタンにどの程度かかわるかを短く述べたものである。Annonaceaeはわが国のフロラにはほとんど関係ないが、海外調査研究、系統論などには有用であるし、このシリーズの先行きによっては分類学、形態学研究室には必備のものとなるだろう。タイプオフセット印刷で、こういう本の出版のむずかしさが感じられる。序文によると著者は10年の勤務に対して1年間与えられるsabatical yearを2回利用して、欧州の標本室で本書に関する研究をしたそうで、日本のわが身の環境とくらべてうらやましいことである。またわが国でもこの種の研究は古生物学者が精力的にやっているのに、分類や形態の研究室では周囲の雰囲気に圧されてやりにくい傾向があるように見受けられるのは残念である。現在やっておられる方々は、あきらめないで押し通してもらいたい。
[植物研究雑誌63(1):12(1988)]
□Pradyumna, P. Karan : Bhutan : Development amid Environmental and Vultural Preservation
155pp. + 1folded map. 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所. 東京. 非売品.
同研究所のMonumenta Serindica No. 17で、飯島茂氏が協力している。ブータンに関心のある人なら著者のブータン全図(1965)をご存知だろうが、本書にはその改訂版といえる約65万分の1の地図(Gyula Pauer制作)が添えられている。内容はブータンの政治経済的発展の基礎となる諸問題を、いろいろな観点から論じたものだが、たくさんの写真(モノクロム)と共に25年間にわたる著者の現地調査の薀蓄をかたむけたものである。本書は研究用の交換、寄贈以外は頒布は行なわないとのことである。
[植物研究雑誌63(4):168(1988)]
□Stephen, G. Haw : The Lilies of China
172pp. 1976. B.T. Bastsford, London. £17.94.
中国植物志14巻百合科(一)(1980年)のうちLilium、Cardiocrinum、Nomocharis、Notholirionの部分(梁松荺LiangSung-yun分担)の英訳が半分を占め、著者による「自然状態の中国の百合」、「中国産百合の増殖と栽培」、「中国の百合の歴史」、「中国のLiliumの分類」の項が付け加えられている。著者は中国語を専攻した人で、自身も園芸植物に関心があり、中国に在住したり、植物調査隊に同行したりして植物分類学に通じており、本書の中ではLilium属の二つの新sectionを発表している。カラープレート8頁つき。
[植物研究雑誌63(4):168(1988)]
□Davis, R.A. & K.M. Lloyd : Kew Index for 1986
195pp. 1987. Clarendon Press, Oxford. ¥5,400.
キュー植物園ではかねてからIndex Kewensisの電算編集を企画していたが、本書がその第1弾である。本年はIndex Kewensis Supplement XV IIIが刊行されたが、本書は今後これにかわって毎年刊行される。これにともない誌名も冒頭のように改められ、またサイズもB5よりやや小さい15.6×23.4cmと、扱いやすくなった。印刷の体裁は元と変わらない。この印刷電算機の直接出力によるものか、ハードコピーを活字組みしたものかは不明だが、後者のような感じがする。内容は属から科までの名前の部、属以下の名前の部の2部のほかに、付録としてシダ類を新たに扱い、科名の部、属以下の名前の部がつけ加えられている。属名の見出しの下にはsect. やser. の名がまず提示され、これに続いてsubsp. 以下のランクのエピセットがabc順に並ぶ。注意すべきはsubsp. 以下のエピセットはランクにかまわずabc順になっていることで、このままではたとえばある品種がどの上位ランクのエピセットに属するのかは知ることができない。例として本誌61巻245-247頁の「シャクナゲの学名(原寛)」は、原文では次のようになっている。
- Rhododendron degronianum Carriére
subsp. degronianum
subsp. heptamerum(Maxim.)Hara comb. et stat. nov.- var. hondoense(Nakai)Hara, comb. nov.
- var. kyomaruense(Yamazaki)Hara, comb. nov.
- f. amagianum(Yamazaki)Hara, comb. nov.
- subsp. yakushimanum(Nakai)Hara, comb. nov.
- var. intermedium(Sugimoto)Hara, comb. nov.
これが本書では次のように表示されている。
- RHODODENDRON
- degronianum
- f. amagianum(Yamazaki)H. Hara
- subsp. heptamerum(Maxim. )H. Hara
- var. hondoense(Nakai)H. Hara
- var. intermedium(Sugimoto)H. Hara
- var. kyomaruense(Yamazaki)H. Hara
- subsp. yakushimanum(Nakai)H. Hara
オートニムが省略されるのはかまわないとしても、この表示のしかたではR. degronianumの下にf. amagianum、subsp. heptamerum、subsp. h. var. hondoense、subsp. h. var. kyomaruense、subsp. yakushimanumがつくられたと解釈されかねず、正しい階層関係をつかむには原文に当たるほかはない。
学名のもつヒエラルキーをそのまま保ってソーティングを行なうことはたいへんむずかしく、やるとしても慎重な設計と大きなデータ領域を必要とする。このようにエピセットを一つ一つ分解すると不可能になるだろう。わが国ではすでに環境庁の自然環境保全基礎調査・植物目録において試みられ、成功しているが、Kewの場合にはおそらくデータファイルの構造設計に過誤があったものと思われる。当然改められるであろうが、さし当たりこのリストを利用する人は、十分注意をする必要がある。一方このことは、学名というものが計算処理のような純機械的な扱いにはマッチしにくいことを示しており、学名の論理構造の再検討のきっかけになるのではないかと思う。一方、この配列は、種内ですでにどんなエピセットが用いられているかを知るには便利である。
The alphabetical arrangement of infraspecific epithets in 'Kew Index for 1986, ' which was compiled by computer for the first time, is misleading as it does not care of the name of upper rank of the epithet. These must be some fault in the planning of data-file structure. Re-organization of data-files and software is desired to shape-up this Index much more useful.
[植物研究雑誌63(4):157-158(1988)]
□Kanda, Hiroshi : Catalog of Moss Specimens from Antarctica and Adjacent Regions.
176pp. 国立極地研究所. 東京. 非売品.
神田啓史氏の編集になる極地研所蔵の約6,000点のコケ類標本のリストで、電算機により記録編集されたものである。1点のレコードは属・種・地域・経緯度・高度・所蔵機関・採集者・採集日付・同定者・同定日付・登録番号など13項目にわたる。リストでは項目の頭をそろえて見やすくしてある。リストは植物区系ごとに蘚類・苔類に分け、その中は科でまとめて属種のabc順に配列されている。科以上のデータは1点ずつのレコードに含まれていないようなので、配列を得るには、裏にかなりの工夫があったものと推察する。またシステム的には必要に応じて項目検索をおこない、さらにくわしい記述のあるラベルの出力も可能であるとのことである。
[植物研究雑誌63(5):178(1988)]
□The Royal Geographical Society & the Mount Everest Foundation :
The mountains of Central Asia1987. Macmillan. London. £14.95.
3,300万分の1地図と地名索引98頁より成る。地図の範囲は東経70-106度、北緯26-42度で、南はヒマラヤ、北は天山、西はカラコルム・ヒンズクシ、東は峨眉山・成都を含む。索引はB5版で約6,400の地名とその位置を経緯度で示す。中国の地名は最近の綴りをとりいれているので、XやQがやたらと目につき、われわれにはひきにくい。最近の主要文献のリストがある。地図は索引のカバーに収納され、現地旅行の携帯に便利にできている。
[植物研究雑誌63(12):415(1988)]
□Duncan, W.H. & M.B. Duncan : Trees of the southeastern United States
322pp. 1988. Univ. Georgia Press. ¥3,900.
本書でのtreeの定義は、少なくも高さ4m、胸高直径7.5cmの多年生の茎をもつ植物としてある。まず葉の形質のみによってAからKの11群に分け、各群内で属、必要ならばさらに種の検索表がついており、ところどころに科や属全体の検索表がある。したがって植物は分類順には並んでいない。同定形質としては徹底的に葉や枝の形質を用い、よほどのことがない限り果実や花の形質は避けている。各種についてはかなり詳しい記述とともに、州単位の分布図を付し、分布量を2つのサイズの点で示してある。カラー写真もよい出来である。日本と関係のある地域であり、本の構成も参考になるので紹介する。
[植物研究雑誌64(1):17(1989)]
□Hayward, J. : A New Key to Wild Flowers
278pp. 1987. Cambridge Univ. Press, London. £25.
いわゆる「二分式検索表」は植物名の同定には論理的に無理であるにもかかわらず、わが国では依然として主要な図鑑や植物誌に用いられている。近頃これ以外の手法による同定を目的とした図鑑類が刊行されはじめたが、まだ不完全である。本書はなるべく単純少数の用語を用いて、野外で植物を同定するために、数多くの試行を重ねた結果作られた。はじめに用語の定義を図解を含めて示す。つぎに科へ到達するための検索表があるが、第1段階では8群に分け、つぎにそれぞれの群の中で科へ到達する検索表がある。科内ではいきなり種や種群に到達できるようになっている。系統などは無関係である。同定に用いる形質はルーペで観察できる範囲に限られている。わが国の検索表は植物を知っている人しか使えないものが多く、同定法が研究の価値ある対象として認識されてほしいと思う。
[植物研究雑誌64(3):84(1989)]
□Sharma, B.M. & P.S. Jamwal : Flora of upper Lidder Valleys of Kashmir Himalaya, Vol. 1
269pp. 1988. Scientific Publishers, Jodhpur, India. Rs. 275.
単行本だが、Jour. Economic and Taxonomic BotanyのAdditional Series No.4ということで、雑誌に分類されていたので、見落とすところだった。対象とされているのは、カシミールの中心地スリナガルの東方50kmにある、5,425mのKalahoi Peakを主峰とする地域である。この渓谷は巡礼地に通じており、観光客も多く、近年の自然破壊の進行から、緊急な調査の必要に迫られたとされ、本書は1976年から1980年の間の調査の成果である。裸子植物と離弁花類のリストが主体であるが、日本やBMの最近の業績が全く引用されていないのは片手落ちである。
[植物研究雑誌64(5):147(1989)]
□Munsi, A.H. & G.N. Javeid : Systematic Studies in Polygonaceae of Kashmir Himalaya, Vol.1
215pp. 1986. Scientific Publishers, Jodhpur, India. Rs. 275.
タデ科は特殊なもの以外はそれほど地域分化はないから、ほかのヒマラヤ地域にも使えるだろう。新種や新組合せも散見される。痩果、花粉、表皮パタン、毛も整理されているが、写真の印刷が悪いのは惜しい。
[植物研究雑誌64(5):147(1989)]
□Stainton, A. : Flowers of the Himalaya, a Supplement
866pp. 128pls. 1988. Oxford Univ. Press. Delhi. Rs. 225.
さきに刊行されたPolunin & Staintonの図鑑の補遺で、462のカラー写真があらたに示されている。なお前者の写真部分を残して記述部分を半分に縮小したConcise flowers of the Himalaya(283pp. Rs.250)もできている。
[植物研究雑誌64(5):147(1989)]
□Stace, C.A. : Plant Taxonomy and Biosystematics, 2nd ed.
264pp. 1989. Edward Arnold. London. ¥5,080.
植物分類学のいろいろな手法や考えかたをコンパクトにまとめたもので、ゼミのテキストなどに手頃である。有用性の高い未知の植物がたくさん含まれているかも知れない熱帯のフロラが、開発によって急速に失われつつある今日、植物分類学のこの地域への優先的アプローチの必要性が主張されている。巻末に綱レベルまでの分類表があるが、最近の大勢にならって原核生物、菌類、地衣類は除外されている。490におよぶ参考文献表がついている。
[植物研究雑誌64(7):224(1989)]
□Gottlieb, L.D. & S.K. Jain (ed.) : Plant Evolutionary Biology
414pp. 1988. Chapman & Hall. London. ¥7,650.
G.S. Stebbinsの流れをくむpopulation biologyの発展を期して、1989年にカリフォルニア大学で開かれたシンポジウムのまとめである。米国を主とし、英国、カナダ、イスラエルの研究者19名が14章を分担執筆している。分子、細胞器官、タクソン、繁殖機構、発生、形態、集団などいろいろなレベルでの事象が進化・系統に結びつけて論じられ、ところどころに編者の意見が挟まれており、読みでのある一編である。
[植物研究雑誌65(2):56(1990)]
□Fiala, F.J.L. : Lilacs, the Genus Syringa
266pp. 1988. Timber Press. Portland. USA. ¥11,990.
著者は牧師と教育家を業とするかたわら、ライラック栽培の専門家としても知られた人である。本書では22種(雑種は含まず)を認めたうえ、韓国から採集されたSyringa debelderiを新種として記録している。種の記述のほか、特に章を設けて花色についてのくわしい記述がある。後半は栽培に関する記述で、末尾に目的別の文献リストがある。
[植物研究雑誌65(2):63(1990)]
□Jones, D. L. : Ornamental Rainforest Plants in Australia
364pp. 1986. Reed Books Pty. Ltd., New South Wales. ¥6,000.
オーストラリアのrainforestは、大陸の北端から東海岸に沿って点在している。著者は栽培家でシダやランについての著書もあり、本書ではそれらは省かれているようだ。樹木の花や果実の美しい写真と簡単な線画、および種の記述と栽培上のノートがある。
[植物研究雑誌65(3):73(1990)]
□Shrestha, B.P. : Forest Plants of Nepal
216pp. 1989. Educational Enterprise, Kathmandu. ¥7,000.
ネパールの森林をforestryの立場から概説したもの。冒頭に森林庁の略史が記されているが、これによるとネパールの森林行政はせいぜい50年前からで、組織的には1950年代からはじまったものである。地域ごとおよび森林型ごとに簡単な記述がされており、とくに見るべきものはないが、ネパール全体をカバーしている。樹種によってはローカルな用途が記されていて、参考になる部分もある。巻末に学名、ネパール名、用途などのリストがある。
[植物研究雑誌65(3):80(1990)]
□Stuessy, Tod F. : Plant Taxonomy, the Systematic Evaluation of Comparative Data
514pp. 1990. Columbia Univ. Press. New York. ¥15,180.
第1部Principles of taxonomyと第2部Taxonomic dataに分かれており、第1部では分類への様々な取り組み方とタクソンの定義が紹介される。第2部では形態、解剖、胚、花粉、細胞、遺伝、成分化学、繁殖、生態の章に分けて、それらのデータの取扱い方がのべられている。全体として分類学につとめて多方面な見方を導入しようとしている姿勢がうかがわれるが、種の定義のところを見ても、特定の主義主張は感じられない。巻頭に以前紹介したことのあるL. Leoniの「平行植物」の図が示されているが、この文献が巻末83頁にわたる豊富な文献表に仲間入りする価値があるとは思えない。
[植物研究雑誌65(10):320(1990)]
□Ehrendorfer, F.(ed.) : Woody plants-evolution and distribution since the Tertiary
329pp. 1989. Springer-Verlag. ¥26,000.
1986年に西ドイツで開催されたシンポジウムの報告で、16件の発表が記録されている。Hamamelidaceae、Fagaceae、Juglandaceae、Rutaceae、Buxusなど、我々になじみのある植物の進化・発達に関する論文を含む。
[植物研究雑誌65(10):320(1990)]
□Bock, J. H & Y. B. Linhart (ed.) : The Evolutionary Ecology of Plants
600pp. 1989. Westview Press、Boulder & London. ¥11,260.
1987年オハイオ州ColumbusでおこなわれたHerbert G.Baker記念シンポジウムでの発表を主体としたもの。このシンポジウムは米国植物学会と生態学会の共催で、内容も進化、繁殖、地理、保護の閑係の発表が多い。紙は中性紙だそうだがザラ紙で細部の出が悪いうえ、活字が大きくて詰まっているので読みにくい。
[植物研究雑誌65(10):320(1990)]
□Malcolm, B. & N. : The Forest Carpet
139pp. 1989. Craig Potton, Nelson, New Zealand. ¥7,900.
林床や樹幹に生ずるコケ、シダ(といってもLycopodiumとLTmesipteris)、地衣の拡大カラーアルバムで、切片の染色像もある。亘理:植物写真集の陰花原色版というところ。細部がよくわかる美しい造形である。
[植物研究雑誌65(10):320(1990)]
□Watanabe, M. and S.B. Malla (ed.) : Cryptogams of the Himalayas. Vol.2. Central and Eastern Nepal.
212pp. 1990. 国立科学博物館筑波実験植物園. 非売品.
1988年、国立科学博物館の渡辺真之氏を隊長として行なわれたヒマラヤおよび関連地域の植物調査のまとめである。主として中部ネパールのランタン、およびジュンベシ地域の、陰花植物に関する16編の研究が報告され、対象となった植物群はラン藻、細胞性粘菌、菌、緑藻、地衣、コケ、シダにわたる。微生物、菌類などはまだ種を特定していく段階であり、今後もますます多くの植物群についてこのような調査がのぞまれる。シダになると染色体や成分の研究や分布図の作成までやれるようになり、ヒマラヤにおけるわが国のたび重なる調査結果の蓄積が思われる。
[植物研究雑誌66(1):62(1991)]
□Sachs, T. : Pattern Formation in Plant Tissues
234pp. 1991. Cambridge University Press. Cambridge. $75.00.
Barlow, Bray, Green and Slack (ed.) : Developmental and Cell Biology Seriesの1冊。物質レベルの研究が生命現象の解明に多くをもたらすことを認めつつも、それらを生物体の形成に当てはめるには、組織のパタン形成の様式を理解する必要があるとしている.生命現象は、物質レベルの素子にまで分解すれば解明できるとする見解は昔から優勢だが、それらの組み合わせ方を知らなければ再構成ができない、つまりいろいろなレベルでの知識が必要であるという意見に私も賛成する。実験や理論ではなく、事実の整理が本書の目的だとし、13章にわたってきわめて概念的な記述が展開されている。
主なトピックを拾うと、発達中の器官の相互干渉、信号としてのホルモン、カルスと腫瘍の発達、組織の極性、管束の分化、細胞系譜、meristemoid発達の一例としての気孔、頂端分裂組織、葉の付着位置、などである。それぞれの章は、他章の引用はあるものの、独自に総説として完結しているので、形態や発生の仕事をする際に全体像をつかむのに役立つだろう。巻末に文献リスト(27頁)、著者索引(4頁)、事項索引(6頁)がある。本書はこれら文献を整理したものであるが、論文というものは法則性の追求が主体となるから、不規則な現象は対象となりにくい。そういう論文から抽出した概念は、必要以上に規則性が強調されていはしないかと心配する。たとえば葉の付着位置の章では、葉序が整然としていることを前提に話が進められているが、実際には例外の方が多いのではなかろうかという気がする。
[植物研究雑誌67(3):183(1992)]
□Engels, J.M.M. et al. : Plant Genetic Resources of Ethiopia
383pp. 1991. Cambridge University Press. Cambridge. $85.00.
エチオピアは栽培植物の起源地として知られている。植物資源や遺伝子源保護の世界的趨勢に沿って、既に1976年Plant Genetic Resources Center/ Ethiopiaが設立され、ドイツの援助で活動している。いわゆる発展途上国の中では早いほうだろう。1986年10月にエチオピアの遺伝資源の保護と利用についてのシンポジウムが、国内外から90名が参加して首都アジスアベバで開かれた。本書はそのまとめで、30編の発表が記録されている。もちろん栽培植物についての発表が多く、スパイス類、オオムギ、コムギ、モロコシ、キビ、テフ(Eragrostis tef)、マメ類、コーヒー、飼料、油料、薬用植物などについて、収集、分類、保護、評価、利用など多方面の議論がなされている。森林やフロラについてもいくつかの発表がある。巻末の索引では土名を学名に対応させてあるので、最近ふえてきたアフリカ植物名についての質問に対応するための1つの参考書となる。
[植物研究雑誌67(3):184(1992)]
□Yu, Cheng-hong and Chen Ze-lian : Leaf Architecture of the Woody Dicotyledons from Tropical and Subtropical China
414pp. 1991. Pergamon Press, London. ¥20,700.
中国南部産の木本双子葉植物の葉脈パタンの図鑑で、96科656種類が記録されている。本文は科、属、種の葉脈パタンの記述に終始し、属単位で検索表がつけられているが、systematicsに関する議論はない。283-403頁は図版、405-414頁は学名の索引である。葉のサンプルは主として標本室所蔵のおしば標本から得ており、栽培品も含まれている。葉脈パタンの研究は、わが国では古植物学者によって進められており、棚井敏雅氏や植村和彦氏によって資料の蓄積が行なわれ、一部のカタログが出版されているが、現世植物の分類学や形態学の研究者は身を入れていない。物質レベルの研究を「本質的」として重視する反動として、記述的、横断的研究を軽んじる雰囲気の中では、こういう研究はやり難いだろう。しかし葉脈も形質の1つだから、いつ迄も知らん顔をしてはいられまい。葉脈パタンの知識は、古植物学、分類・系統学、形態学に必要なだけではなく、民俗学、考古学、生薬学、犯罪捜査、商品開発などの分野でも有用性が高い。こうして中国植物の葉脈パタンの集成が進めば、わが国の研究の遅れが目立つことになるだろう。葉脈標本の保存には、プラスチックシートでラミネートする、いわゆるパウチ方式がとられている。この方法は製作が簡便で標本の扱いに神経を使わないで済むが、永続性や顕微鏡像は問題があるようだ。わが国では硬化プラスチックに封入してガラス坂で挟む方式がとられており、精細な検鏡が可能で保存性もよいが、重量が大きいことやガラスという点で取り扱いに難点がありそうだ。とにかくわれわれにとってよい刺激になる業績である。
[植物研究雑誌67(4):247(1992)]
□Lone F. A. , Khan M. and Bush G.M. : Palaeoethnobotany. Plants and Ancient Man in Kashmir
1993. 278pp. A.A.Balkema, Rotterdam. ¥10,450.
カシミールの古代遺跡のうち、BurzahomとSemthanから得られた植物遺体の同定と、それらによる古植物環境の推論である。年代はBurzahomでは2375BCから200AD、Semthanでは1500BCから1000ADにわたる。2/3以上のページを費やして、同定形質の説明と得られた植物のリストおよびそれぞれについてのコメントが述べられている。植物遺体は種子と材(炭化物を含む)で、主として形態と計測数値により特徴区分がされている。SEM写真も多数示されているが、紙質が合わないため不鮮明なのが惜しい。古代のカシミールで利用されていた植物は、木材や飼料植物のほかJuglans regiaなどは現地産であるが、多くの有用植物は3つのルートからもたらされたとしている。西アジアのハラッパ文明からはオオムギ、コムギ、エンドウ、レンズマメ、中央アジアからはアメンドウ、モモ、セイヨウアンズ、スズカケノキ、カラグワ、それにおそらくキビ、ブドウが導入されパンジャブや西北ヒマラヤはコメ、ツゲ、イチジク類がもたらされたとする。種類の同定のみでなくその産出量から、それぞれの時代の農業形態の推定も行なわれている。その裏付けとして、χ二乗検定をはじめ種々の推計的手法がとられている。
[植物研究雑誌68(3):189-190(1993)]
□Rajbhandari, K.R. : A Bibliography of the Plant Science of Nepal
247pp. 1994. 自費出版. Rs.900.
ネパール植物研究のための文献目録と索引である。著者ケシャブ・ラジバンダリ氏はカトマンズのトリブーバン大学からゴダワリの植物調査所へ移籍し、日本への留学や何回ものヒマラヤ調査への同行で、われわれになじみの植物研究者である。3-164頁は目録で、約2,500件の文献が第1著者のabc順に並ぶ。摘要がついたものが多い。共著者でも参照先がわかるようにしてある。165-205頁が項目索引であるが、その見出し語は実に多様である。たとえばAgriculture、Anatomy、Apple、Chromosome number、Fodder trees、Tannin、Thesis、Vegetation、Virusといった具合で、検索の対象となりそうな単語がみんな見出しとなっている。206-218頁は地域索引で、報文の対象となった地名をabc順に並べ、関係する文献を示す。219-244頁は学名索引で、属または種を見出しとして関係文献を列挙する。これらの索引ではほとんどの文献について、1-数語の内容紹介がついているので、一々目録に戻らなくても、ときには目録ではわからない内容を知ることができる。補遺が3頁ついている。著者の丹念な性格を示す労作で、ネパール植物研究にたいへん有用な必携書である。原稿作りと出版は著者夫人の手になる。
[植物研究雑誌70(1):59(1995)]
□Kimura, Y. and V.P. Leonov (ed.) : C.P. Thunberg's Drawings of Japanese Plants
594pp. 丸善. ¥66,950.
1988年ロシア科学アカデミー図書館(サンクト・ペテルブルグ)は、争乱に伴う火災により150万冊の蔵書を失った。その復興のための国際事業が進む中で、日本植物の図2束がみつかり、このことは事業に協力していた丸善に伝えられた。丸善は1990年木村陽二郎氏らを送り、これを調査したところ、この図はツュンベリーとシーボルト旧蔵の、未公表の資料であることが判明した。丸善は創業125周年記念事業の一環としてこれらを刊行することとし、まず1994年 “Siebold's Florilegium of Japanese Plants" を出版した。本書はそれに続くツュンベリー旧蔵の図と、それに係わる論説を含んでいる。
まず16頁にわたって、これらの資料に伴っていたマキシモウィッチのノートが示されており、彼の東亜植物研究にこの図が大いに活用されたことを示している。このノートを活字に組み直したものは、N. Zabinkovaによって第2部に示されている。これに続いて305枚の植物図が原寸で記録されている。ちなみに本書のサイズはB4である。ここまでが第1部をなす。第2部は論説で、木村陽二郎は本資料刊行のいきさつと、ツュンベリーの日本植物研究の業績を回顧する。W.T. Stearnは欧州の視点からそれを述べるとともに、「日本」の表記としてJaponicaとIaponicaが用いられているが、ツュンベリーは自分の文章にはIaponicaと記したことはなく、Jがラテン語では後発の文字であるため、とくにドイツの植字工は頭文字にJを使わずIを用いた結果であり、語法的にも誤りであるとしている。V.I. Grubov, M.E. Kirpicznikovは、マキシモウィッチが本資料をいかに研究に利用したかを述べる。T.A. Tchernajaは図のそれぞれについて描かれたいきさつを考察し、これらがロシアに入った経過とマキシモウィッチとの関係を記している。B. Nordenstamは、ウプサラのツュンベリーハーバリウムの標本の写真を示しつつ本書の図と比較して、ほとんどが対比できるとしている。大場秀章は図の植物名の同定と学名の出典を整理して分類順に示し、今後の研究に有用な情報を提供している。彼はまた、ツュンベリーが日本に好感を抱いたのは、当時のわが国社会のバックグラウンドであった儒教的教養の反映によると考察している。本書のAppendixは、B. NordenstamによるIcones Plantarum Japonicarumの再検討で、出版の経過を当時の往復書簡によって詳細にたどり、従来のdateに再考すべき点があることを述べ、あわせてIconesと標本をくわしく比較して、どの標本のどの部分から図が描かれたかを検討している。その結果、異なる種類の部分が1つの図に合成された ‘iconohybrid' がみつかっている。最後に詳細な(とくに人名の)Subject index、植物名と図の索引がある。
本書の資料の発見とそのすばやい刊行は、日本や東亜の植物分類学に大きな貢献をするもので、関係者の努力に賛辞を呈したい。ふりかえって、わが国でこのような資料が、長年にわたって無事に保存されるだろうかと考えると、有力な自然誌研究機関でさえ、「利用頻度の低い図書は廃棄してしまえ」と言う館長が実在するような国では、首を横に振らざるを得ない。自然誌研究機関は「研究」ばかりでなく、今は役に立とうが立つまいが、「保存」ということにも同じ比重をかける必要があるということを、公知のものとする必要がある。
[植物研究雑誌71(3):180-181(1996)]
□Temperate Bamboo Quarterly2 (1-2)
60pp. 1995.
この雑誌については山崎 敬氏がさきに紹介したが、このたび最新号(2巻1-2合併号)を手にしたのでもう一度紹介する。本誌は学術誌というよりは同好会誌あるいは同業誌で、日本なら山草会誌に近い性格のものだろう。だから内容は至極肩のこらないくだけた文章で、分類、利用、栽培、園芸、観察記録、文献紹介など多岐にわたって楽しげに書かれている。レターフォーラムなどは、頁のすき間を縫って行ったり戻ったりしながら編集者とのトークが気楽に続けられている。年会のスケジュールを見ても、ピクニック気分である。日本では会誌というと堅苦しくなりがちだが、これはむしろパソコン通信のハードコピーといったところである。見出しを拾うと、食物としてのタケノコ、(テネシーでの)各種タケノコ出芽の観察、竹と修景デザイン、竹利用の新展望、耐候性レポート、ジョージア州サバンナの竹植物園の紹介、アメリカで入手可能な種のリストとその形質……などである。竹や笹の研究・利用・栽培については、わが国には多くのベテランがいるので、情報提供したら喜ばれるだろう。背表紙の写真には竹薮の中の竹垣にはさまれた道に、竹箒と竹杖を手にした翁媼(媼の方がいばっている)が嫁と孫を遠景に写っているが、これはエジソンが白熱電球のフィラメントの探索に世界へ派遣した3人の1人、J. Ricaltonの日本での作品であるそうだ。連絡先はどこにも書いてない。あまりに気軽な会なので必要ないのだろう。
[植物研究雑誌71(3):182(1996)]
□Mapping Sub-Committee, National Council for Science and Technology, Nepal : Index of Geogrphical Names of Nepal
Vol.1. 429pp. (1987), Vol.2. 465pp. (1988), Vol.3. 402pp. (1988), Vol.4. 350pp. (1988), Vol.5. 299pp. (1988) Mapping Sub-Committee, Kathmandu. 各Rs.300(ネパールルピー).
ネパール全域の地名が県(Zone)、(District)でまとめられ、その中はアルファベット順に配列されて、経緯度、高度が示されている。地名数は約46,000件である。ネパールには県が14あり、それらが東から2-3県ずつまとめられて各巻を構成する。カトマンズの属するBagmati ZoneはVolume2である。川の場合にはその長さ、湖では面積が記録されている。これらのデータは1インチ1マイル図(1:63,360)から採録したものである。1国の地名をすべて記録することは、政治的な有用性はもちろんだが、人文科学、自然誌科学の観点からもきわめて応用性の大きいデータベースを構築することになり、その利用価値は絶大である。カトマンズの書店(たとえばS.M. Trading Center, New Baneswar)で入手できるとのことである。地図をはじめこういう地理的データは、とかく秘密扱いされ勝ちだが、発展途上国でもこのように公開されるようになったことは喜ばしい。地名が郡単位でまとめられているので、われわれには使いにくいが、本書はマイクロコンピューターで編纂されているから、フロッピーデータが提供されることは期待できる。とはいっても、ローマ字化された綴りにはわれわれの感覚とはズレるものがある。たとえば「村」はgaonではなくgaunであるが、こういうものは慣れる他あるまい。官製のものだけにEverestはなく、Sagarmathaの後にかっこ付きで出ているのみである。私のつくったヒマラヤ地名索引ed.5(1988)は、ネパール地域に関しては、これでもはや無用のものとなったはずだが、データベースを用いて比較してみたら、ヒマラヤ地名索引の30-40%の地名は、どういうわけかこのIndexに載っていないことを知った。私の索引には調査の途上で聞き書きした地名があり、それには自己流の綴りが用いられているし、スペルの僅かな違い、たとえばchとchhとかlamとlamoのようなものは正誤がわからぬまま並べてある。これはこれで有用性があると思うので、ヒマラヤ地名索引の利用価値はまだあると言っておこう。
[植物研究雑誌71(4):238-239(1996)]
□Yamazaki, T. : A Revision of the Genus Rhododendron in Japan, Taiwan, Korea and Sakhalin
179pp. Tsumura Laboratory, Tokyo. ¥5,000.
日本を中心に、樺太、朝鮮、台湾に産するツツジシャクナゲをまとめたもので、検索表、写真、分布図、参照標本リストを伴う。すべて英文だが和名だけは片仮名である。ローマ字で和名を発表する意義がわからない私には、これは賛成である。新しいタクソンとしては1亜属、6節、1雑種、1亜種、8変種、3品種が発表されている。こういう本が出版社の関心の対象とならなかったことは、たいへん考えさせられる。
[植物研究雑誌72(4):252(1997)]
□Rajbhandari, K R. : A Bibliography of the Plant Science of Nepal. Supplement 1
160pp. The Society of Himalayan Botany, Tokyo. Academia Book Co., Tokyo. ¥9,000.
1994年刊行の同名の文献目録の続編である。1994年から1999年に発表された報文および前目録に漏れていた報文約600件が、共著者を含む全著者名を見出しとして、簡潔な解説つきで並んでいる。全160頁のうち目録は78頁、残り82頁は索引である。索引は前目録をも含む累積型で、Subject Index、Index of Place Names、Index of Scientific Namesの3種類あり、そのほとんどに短い内容紹介がついている。ネパール植物の研究にきわめて有用な作品である。編者がヒマラヤ植物研究の基礎資料を蓄積し、その利用の便をはかるために、今後もこの方針を維持しようとする努力を高く評価したい。その一助として、今後蓄積量が増すにつれて見込まれる、累積型索引についての問題点とその対策について意見を述べておく。初巻は目録162頁に対して索引83頁で、その比は1:0.5であるが、本巻では1:1の比になっていることからわかるように、累積型索引は各巻の目録量にかかわらず急速に増加するので、後になって整理が追いつかなくならぬような工夫が必要なのである。
今回の索引では、前目録と本目録に収載された報文の区別を、年号に先立つ "*" の有無で区別しているが、次回以降はこのやり方はむずかしくなり、"*" の代わりに、さし当たりはかっこ付き数字などを用いる必要がある。さらに、蓄積量が増えればソフト的な検索手段を導入する必要が生ずるので、個々の文献を区別するために固有のコードを与える必要が出てくるだろう。学名索引については、特定の種や属の他に、たとえ種や属が違っても、分類学的に近い種類でもよいからチェックしたいという要求が出てくるに違いない。したがって学名を科や上位群でくくって示す方が、利用価値が高いだろう。同様に地名索引の場合にも、地名がどの地域のものであるかを示す方が、利用価値が高いだろう。ただし外国人としてはネパールの地政学に無知であるから、DistrictやPanchyayat単位でまとめられるとかえってわかりにくい。むしろ地名にはすべてZone名を付加した上、現在のようにabc順に並べるのがよいと思う。日本でもそうだが、同じ地名や綴りが微妙に異なる地名があちこちにあるので、綴りが一致したからといって、それが目的のものであると判断するには、傍証が必要なのである。Subject Indexは前記のやり方でかなり整理されるが、後になるほど複雑多岐になるに違いない。これについてもいくつかの大区分を設け、その中にトピックをまとめることを考える必要がある。
以上を要約すれば、編者が独自のキーワードを設定し、それに文献の内容をあてはめるという方針をとるのがよかろうということである。現在の学術論文は、著者がキーワードを提示することが要求されているが、これは前時代の遺物であって、何の制約なく各著者が書いたキーワードは、検索という観点からはほとんど意味がない。今日のようにテキストデータを用いて全文検索ができる時代になれば、そんな不統一な「キーワード」を使うよりは、表題や要旨、ときには全文を対象として、ユーザーが必要とする単語を入力しさえすれば、目的を達せられるからである。文献データの作成と共に、くくりのためのキーワードを編者が工夫し、それぞれの文献に付与するのがよい。現在でもとくにSubject Indexではそういう工夫がなされているが、これをより階層的なものにする努力が必要である。この作業は楽ではない。文献情報自体のデータ化は、他人にやらせてもある程度慣れれば可能である。しかしキーワードの付与は、編者自身が統一された体系を持つ必要があり、かつ文献をそのどれとどれに割り付けるかを、とっさに判断せねばならないからである。こういう体系があらかじめ出来ていないと、キーワードの割り付けに偏りができる、それを修正して新たなキーワードを作れば、すべての文献に遡って新たにコードを割り付けなおす作業が必要になり、つきあいきれなくなる。したがって、粗雑でよいから全体をカバーできる階層キーワードを、はじめから作っておく必要がある。私の日本植物分類学文献総目録の索引篇は、そういう考え方と苦い経験の上に立ったものなので、多少の参考になるだろう。
本索引はCD-ROMとしても出版の計画があるとのことなので、その際には上記のことを考慮して、仕様を工夫してもらいたい。
[植物研究雑誌76(6):355-356(2001)]
□Bortenschlager, S. and K. Oeggle (eds.) : The Iceman and His Environment, Palaeobotanical Results
166pp. 2000. Springer Verlag, Wien. ¥10,200.
1991年、オーストリア・アルプスの高度3,200mの雪線を越える氷河の中から死体が発見され、着衣や所持品から新石器時代の遭難者と推定された。古代人の遺体は墓や地中に埋葬されたものはいくらもあるが、このように氷漬けのものは、せいぜい400年を遡る程度のものしか知られていなかった。ましてこの遺体は、着衣はもとより、弓矢、斧、背負子などを伴っていて、生活活動をしていた状態のまま保存されるという、画期的な発見だった。インスブルック大学植物学教室は、直ちに各分野の専門家を糾合して研究に着手し、これ迄に3冊の “The Man in the Ice” シリーズを刊行している。本書はその第4報で、遺品の植物学的研究を主体に、腸内容物の解析、当時の環境条件の推定などに関する15件の報告が収められている。まず、たくさんの所持品のC14の測定では、3300-3100BCと結論された。当時の環境の推定のため、新たに付近の森林帯から恒雪帯に及ぶ花粉分析が行なわれたが、別な方法として、気孔密度がCO₂濃度と負の相関があるという事実を利用し、遺体に伴っていたSalix herbaceaの気孔密度を、付近で採集された同種の葉やおしば標本からの計測値で補正し、当時のCO₂濃度の推定が行なわれている。遺体に伴った紐類は、標本と比較検討した結果、Tilia以外のものは使われていなかった。弓矢、斧、背負子、ナイフ、物入れなどの材料の植物学的同定はもちろん行なわれている。Neckera complanataをはじめ28種におよぶコケ類をIcemanは身に付けていたが、これらは遺体の発見場所よりはるかに低高度に産するものであった。
腸内容物の分析からは、彼の最後の食事は小麦粉を主体とし、野菜や肉を摂ったことがわかる。28種類もの花粉が属や種レベルで同定されており、中でもOstrya、Corylusなどが量的に目につく。SalixやPrimulaceaeもあり、それらの内容から、死亡の時期は春から初夏だろうと推定されている。これとは別に、24種類もの珪藻が発見されており、これらはもっと低地で摂った飲み水に由来するとされる。この他に「ほくち」として用いられたみられるツリガネタケ属の菌糸、薬用かまじない用と見られるPiptoporusの子実体を革紐に通したものなどが報告されている。この他に腸内寄生虫や付着した昆虫などの研究もある。
これらはいわゆるethnobotanyの領域に属するが、最新の機器・技術を投入していることと共に注意すべきは、これらの資料と対比すべき標本を十分に活用し、かつ対比すべき標本の蓄積があることである。したがって、いつ何の役に立つがわからない標本を営々と蓄積保存維持するという営為があってこそ、このような事態に対応できるのである。わが国でも蓄積された標本は、単に分類学的研究のみでなく、環境条件の変動を探る手掛かりとなり得るものだが、まだこういう方面の基礎データを築く研究は行なわれていない。その前に、展示に向かない標本蓄積が軽く見られたり、「あんなのは科学ではない」という不用意な言葉に流されて、蓄積の営為が中断されかねないのは、後世に悔いを残すことになるだろう。
[植物研究雑誌76(3):181(2001)]
□Hickey, M. and C. King : The Cambridge Illustrated Glossary of Botanical Terms
208pp. 2000. Cambridge University Press. ¥5,360.
植物の分類や形態の記述に用いられる用語約2,300件に、簡単な説明が付けられている。普通の用語集と違うのは、用語説明が46頁なのに対して、残りの162頁が図に割当てられていることである。図は地下器官と無性繁殖、種子と芽ばえ、葉、毛と鱗片、花の構造…のように、14のテーマでまとめられ、用語説明の中に関係する図の頁が示されている。永年この方面の仕事に関わってきた著者達のことなので、花の解剖図などは詳細で、術語だけでは表現し切れない様態の記述が各所にみられ、参考になる。一方、意識的に「芸術的」になるのを避けたような省略が行なわれた感じで、そのせいか立体感に乏しい図もある。同じ著者の100 Families of Flowering Plants(1988)と共に、有用な参考書である。
[植物研究雑誌76(3):181(2001)]
□Kapoor, L.D. : Handbook of Ayurvedic Medicinal Plants
416pp. 2001. CRC Press, Boca Raton, Florida. ¥23,000.
本書は1990年に刊行されたものの再版とのことであるが、序文や巻末の文献リストを見る限り、改訂増補はないようだ。文献リストには900件が記録されているが、著者順でも年代順でもなく、引用番号順なので使いにくい。250種類の植物について記述されている。66の植物図のほとんどは、Kirtikar & Basu : Indian Medicinal Plantsから転載したものである。どの種類についても11の見出しの下に同じ記述形式をとっていてわかり易い。見出しは、学名、土名、植物の簡単な記相、薬用とされる部分、生薬学的形質、アユルベーダ的記述、アユルベーダ的効果と用法、化学成分、生薬学的作用、医療上の特性と用法、用量である。アユルベーダに関する2つの見出しでは、三体液Vata、Pitta、Kaphaの様態についての原典の用語がそのまま用いられているので、門外漢にはわからない。これについては巻末のBasic concepts of Ayurveda、Introductory notes on the fundamental principles of Ayurvedic pharmacologyの章で簡単な説明がされていて、理解の助けになる。アユルベーダの原典の単語を辞書で引いても、あまりに内容が多様で、どの解釈がまともなのかわからない。これについては巻末のGlossary of Ayurvedic termsが役に立つだろう。
土名の項にはたくさんの言語によるその植物の名前が示されている。これはこの種の文献の定番であるようだが、いろいろな文献から次々とひき写されてきているので、この本について言うわけではないのだが、用心する必要がある。また、本書では130を超える和名が記録されており、多くは妥当なものだが、中には困ったものもある。たとえばAcacia arabica (Indogom)、Albizia lebek (Pabanemunoki)、Bergenia ligulata (Yukinoshita)、Eugenia jambolana (Natsume)、Swertia chirata (Senburi)、Ruta graveolens (Matsukareso)。これらは和名の情報提供者に責任があるわけだが、もう1つの問題は情報提供の仕方による誤りである。たとえばViola odorata (Nioisumaire)、Gloriosa superba (Yurigurama)、Cedrus deodara (Himarayosugi)のような、口移しによる誤りや手書き文字の読み誤りは、情報提供者と受容者の文化や常識の違いで無意識に発生するので、提供側が十分留意せねばならない。外国の標本ラベルから情報を取るときに、誰でも経験することだろう。Matsukaresoも、音写の際の誤りと思う。
文字で書かれた名前を読み上げて別な文字に転記する際にも問題がある。たとえばネパール人がデワナガリ文字を読み上げるのと、同じ綴りを日本でヒンズー語の学習者が読み上げるのとでは、ずいぶん違った音になるということを体験したことがある。土名の項には、われわれが心すべきエラーがまだある。たとえばCucumis sativusのネパール名はTushiとされているが、これはネワール語で、ネパール名はKankroである。われわれが現地で植物の土名や地名を記録する際、それを口にした相手がどんなtribeであるかを気にすることは、民俗学研究者は別として、ほとんどない。そして野帳には、「ネパール名~」と記録してしまう。ネパールとネワールでは言語体系が全く異なるので「ネパール人」の間でさえ通用しない。これからは海外で調査活動をする機会が一層多くなるのだから、他山の石とすべきである。そうでないと、情報が多くなった分、あいまいさが加速度的に増加するだろう。ある英和大辞典の改訂の手伝いをしたことがあるが、いくつかの原書の同じ見出しに含まれる植物名をみんな取り込んで「総合的」にしたつもりでいるので、お手軽に過ぎるのではないかと思ったことがある。
[植物研究雑誌77(1):60(2002)]
□Rajbhandari, K.R. : Ethnobotany of Nepal
189pp. 2001. Ethnobotanical Society of Nepal. Tribhuvan Univ. Kirtipur, Kathmandu. $20(送料共).
ネパール産562種類の植物について、学名、土名、記相、地域ごとの利用法が記されている。多くは著者のフィールド調査の収穫であるが、参照した文献があればそれが示されていって、巻末の文献リスト(約100件)で出典がわかるようになっている。アユルベーダの文献は利用法が概念的でわかりにくいが、本書では具体例が一々挙げられているので理解し易い。個々の薬用成分よりは、植物体を破砕した粘性物質を外用するような利用法が多いような気がする。土名としてはネパール名をはじめ13のtribe名が区別されているが、あえてたくさん並べようとはしていないようだ。文献から拾ってふやすことには先に述べたような問題があるので、現場で確かめられたものだけを集積する方が、有用性が高いと思う。ゲンノショウコやドクダミは、薬用としては日本でのように名高いものではないらしい。
[植物研究雑誌77(2):120(2002)]
□Noshiro, S. and K.R. Rajbhandari (eds.) : Himalayan Botany in the Twentieth and Twenty-first Centuries
212pp. 2002. Academia, Tokyo. ¥9,600.
東京大学の原 寛教授がネパールのDepartment of Plant Resourcesと協同して、ヒマラヤの植物調査を始めてから40周年を記念するシンポジウムが、2001年5月にカトマンズで開催され、私は当初からの生き残りとして参加した。本書はその記録である。東京大学のヒマラヤ植物調査は、初期段階の、募金・すべての用品の日本での調達・船荷・カルカッタでの通関・ネパールへの輸入という経済的物理的障壁の克服に時間と労力を費やす時代に始まり、両国の発展、両機関の協力関係の緊密化、ネパールにおける観光産業の発達、交通手段の進歩などのおかげで、今日では現場への往復については、大した負担を感じることなく実現できるようになった。原 寛教授の後は、金井弘夫、大橋広好、大場秀章と引き継がれてきたが、大場氏の時代になって質的転換をとげ、それ迄のフロラ把握のための広範大量の標本採集から、参加者がそれぞれのテーマを持って調査研究を行なう様態に進化した。また大場氏が主唱してFlora of Nepal Projectが、国際協同研究事業として発足している。
Part1は古参メンバーによる回顧とH.OhbaおよびK.R. Rajbhandariによる歴史的回顧と将来への展望が、多数の文献や地図の引用を伴って述べられている。Part2では、現役メンバーそれぞれの研究テーマによる成果が示され、これ迄の資料蓄積の上に立って、フロラのみならず、モノグラフ、組織、生理、遺伝、文献学など、多様なトピックが披露されている。Part3は調査に同行したネパール人研究者が、それぞれの異文化体験を語っている。本書の冒頭にある私の回顧談も、逆の意味での異文化体験なのだが、日本側主催の調査旅行とネパール側主導のそれとでは、日々に起こるトラブルの中身が全然違うということは、本書の性格上書けなかった。
ネパールでは、不安定な政情を支えてきた王権の衰退による政治機構の変化が、研究体制にも当然のことに影響を及ぼしていることが、いくつかの文の端々に暗示的に示されている。このシンポジウムのわずか1週間後に起こった王室内部の激変と、最近のいわゆる「マオイスト」による地域騒乱は、今後の研究の発展に大きな影響を与えるであろう。日ネ両国の善意ある研究者の努力によって、これらの困難を克服して研究が進展し、あわせてFlora of Nepalの順調な成果蓄積に期待したい。
本書はアカデミア洋書で扱っている。なお本誌76巻6号で紹介したK.R. Rajibhandari : A Bibliography of the Plant Science of Nepal, Suppl. 1とそのCDも、同書店で入手できる。
[植物研究雑誌77(4):250(2002)]
□McManus, M.T. and B.E. Veit (eds.) : Meristematic Tissues in Plant Growth and Development
301pp. 2002. Sheffield Academic Press. £89.
植物の分裂組織についての最近の成果を展望したもので、次の9章が分担者18名によって記されている。各章の見出しは次の通り。1. 分裂組織の形成と機能、2. 栄養器官における分裂組織、3. 高等植物胚発生における頂端分裂組織の形成、4. 生殖器官における分裂組織の遺伝的制御、5. 腋性分裂組織の形成、6. 高等植物の葉序、7. 葉形形成と分裂組織、8. 植物細胞分裂の制御、9. 根の分裂組織。
分類学をやる者にとって、植物の形は最も大事な認識対象だが、それがどのように作られてゆくのか、そこにどんな法則性があるのか、出来上がった植物体を見るだけではどうもよくわからない。同じ種の葉形でも、比較的一定のものもあれば、とんでもなく変異していて、別な種類と見誤るようなものもある。そういう現象の法則性を把握するために、形態学というものは基本的だと思うのだが、少なくとも日本ではこの分野の研究には日が当たりにくい。本書では総計約1000件の文献(その中で日本人の報文は重複を含むが約75件)が挙げられている。多くはいわゆる生理・生化学な観点からの形態形成の問題を扱うもので、我々が目にする「形」との接点はまだ遠い感じがするが、本書によってこの研究分野の世界的な情勢を一望することができるのは、歓迎される。
[植物研究雑誌77(5):313-314(2002)]
□Watanabe, T., Takano, A., Bista, M.S. & H.K. Saiju (eds.) : Proceedings of Nepal-Japan Joint Symposium on Conservation and Utilization of Himalayan Medicinal Resources
368pp. 2002. Society for the Conservation and Development of Himalayan Medicinal Resources.
2000年11月にカトマンズで行なわれたヒマラヤ地域薬物資源の保護と利用に関するシンポジウムのまとめである。参加者約200名、その内日本からは36名、ネパール以外の国から5名が出席し、60件を超えるさまざまな発表が記録されている。シンポジウムの結論としては、ヒマラヤの薬用資源利用の活性化と民生への応用のために、inventory作りの必要性が述べられ、そのためにDepartment of Plant Resourcesが中心となった調査・開発・人材育成などに対する援助・協力が要望されている。差し当たりの資源開発の目標として挙げられている薬物を見るとNardostachys、Valeriana、Ephedraで昔ながらの感じがし、こういう分野でも新しいものを見つけるのはなかなかむずかしいのだな、と思う。
[植物研究雑誌77(6):360-361(2002)]
□Pearce, N. R. and P.J. Cribb : The Orchids of Bhutan
643pp. 2002. Royal Botanic Garden Edinburgh. ¥17,690.
Flora of BhutanのVol.3, Part3に当たるが、B5版と既刊のものよりはサイズがずっと大きく、その理由が序文に記されている。ラン科はこの地域最大の種数を持ち、これ迄の本のサイズでは入りきらないこと、本書がこのシリーズの掉尾をなすものであることなどから、大型にして分布範囲の記述を国外まで拡げ、学名の引用をよりくわしくし、タイプや参照標本をすべて記すなど、既刊のものより内容を拡張した。とくに隣接のシッキムの標本は丹念に引用されている。参照した標本のリストが巻末18頁にわたって示され、東大の採集標本も含まれている。これによって本書はブータンのみならず、ネパールやインドや中国のラン研究に、より有用さを加えることとなった。138枚の線画と32頁のカラー写真を含む。全部で579種が記録されているが、内17%は一点しか記録されておらず、2・3点しか標本がないものまで含めると50%に近い。したがって本書がブータンのランの総まとめというものではなく、研究の余地は大いにあることが強調されている。
[植物研究雑誌77(6): 361(2002)]
□Rajbhandari, K.R. and S. Bahttarai : Beautiful Orchids of Nepal
220pp. 2001. Private Publication. Rs. 1,200.
ネパール産ラン科植物101種をカラー写真を左頁に、解説を右に配してある。カラー写真はすべて一頁大で、拡大し過ぎの感じのもあるが、カトマンズで印刷されたものもとしては、こういっては失礼だが上出来で、その出来ばえは原画の質にかかっていると言ってよい。書名からわかるように、目につく種類を対象にしているので、これから先は植物学的な図譜を目指してほしいものだ。そのとき大事なのはスケッチだが、ネパールの植物図はどうも立体感にとぼしいうらみがある。研究者が自分で描くにせよ画工に描かせるにせよ、この点を意識することが必要だろう。
[植物研究雑誌77(6): 361(2002)]
元・国立科学博物館 金井弘夫 著
菊判 / 上製 / 904頁/ 定価15,715円(本体14,286+税)/ ISBN978-4-900358-62-1
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