How to Make Heat-seal Tape for Mountain Herbarium Specimen
ポリエチレンラミネート紙のテープを、電気ハンダ鏝で熔着しておしば標本をマウントする方法は、今やわが国の多くの標本質で採用されている。この道具は「ラミントン」の名で、双葉商会から販売されてきた。ところがテープ作製の手間が経済的に引き合わなくなったため、先行き供給の見込みがなくなったという情報が数年前から流れ、何とかならないかとの問合せが、開発者である私に寄せられていた。現在の最小6mm幅のテープを元のロールから切り出す技術は思いのほかむずかしく、双葉商会の羽代茂氏が、カット業者(スリッターと呼ばれる)と共に苦労して開発した賜物なのである。私の当初の要求は5mm幅だったのだが、そこまではゆかなかった。こういうテープは他に業務用の用途がなく、おしば用にのみ特性されていたのである。つまり鏝よりテープの方に金がかかっているのだが、テープには元を取れるほどの値をつけられない。「鏝はいらないからテープだけ欲しい」と言う人が多かったが、双葉は鏝を購入した者にのみテープを供給するという方針をとっていた。このため、個人ユーザーにまで普及し難いうらみがあったが、実はこういう背景があったためである。双葉商会によれば、たしかに新しくテープを作ることはできなくなったが、しばらくの間はこれ迄のストックで対応できるとのことであった。標本室をもつ大口ユーザーはすでに十分の量のテープを確保していて、さし当たり痛痒を感じていないようだが、この方法を維持普及するつもりなら、打開策を探っておく必要がある。そこで近い将来に備えて、このテープの自作法を探ってきた。シートを買って細長く切ればよいわけだが、入手もカットも口で言うほど楽ではない。以下に紹介する方法では、出来ばえは双葉製には及ばないので、双葉商会に在庫がある限り、そちらを使うことをおすすめしておく。
テープに用いる加工紙は、金井(1974)ではヒートロン(南国パルプ製)、ラミコート(東京加工紙製)と紹介したが、今回調べてもらったところ、ジャピロンPC(日本紙業製)とのことだった。これはレーヨン紙にポリエチレンをラミネートしたもので、銘柄は5-1715。これは坪量17g/㎡の紙に15μの厚さでラミネートしたものだが、他社の製品でも使えるだろう。現在われわれが使っているテープ状のものの類似品は、メーカーでもちょっと考えつかないそうである。この紙は和洋菓子の包装などによく使われる業務用で、小売り店での購入はむずかしく、製造元でも小口の注文には応じられないという。元のロールの大きさは幅1250mm、長さ1000m(直径25cm)とのことで、われわれではちょっと扱えそうもない。この点からしても、双葉商会が長らく供給を続けてくださったこと多とするものである。
市販品としては、おし花電報で使われているような、アイロンを用いておし花や切り抜き記事を封入する趣味の材料として、「ぴたっこ」(小津和紙博物舗製)という品が販売されている。この商品は75×80cmのラミネート紙1枚で、価格は1000円とかなり割高だが、販売元への直接注文なら、量が多ければ割引があるとのことである。雲竜と無地があり、雲竜の方が繊維が長くてよさそうである。この品は東急ハンズのクラフトコーナーでも販売されている。ミュージアムショップで扱っているところがあるかもしれない。このほかに店頭でもっと安く入手できないかと、東京浅草界隈の包装材料店や和紙専門店を当たってみたが、見つからなかった。菓子製造業にコネがあれば、入手は可能と思う。乾めん類の束にも、このテープの類似品が使われている。スリッターに接触できれば、切り残しのロールを入手できるだろう。これがもっとも安価な入手法である。少量なら、家庭で消費する菓子類の包み紙を再利用すればよい。この紙は思いのほか多様に使われているので商標や文字を気にしなければ、個人の需要を充たす程度にはあるだろう。ただし、紙を重ねて切ろうとしても、シート間で滑ってしまって思うように切れないし、手間がかかり過ぎるので、この点を解決する必要があった。
テープの作り方はまず、シートを巻いて筒状にする。このとき繊維の方向に巻き取るよう注意する。テープとして使うときには長いほうが便利だが、筒が太くなるとカットしにくいので、2-3mmを太めに巻くと扱い易い。ゆるまぬように紙の端を軽く溶着するか、粘着テープでとめる。これをニンジンのように刻めばよい。写真用カッターを使うと楽だが、摩擦で断面がくっつき合ってしまうことがある。しかしこうなるとかさばらないので、しまっておくにはかえって都合がよい。テープの幅は目分量で調節する。こまかい標本のためにラミントンテープを割いて使っていた人には、このやり方の方が便利だろう。切る幅にもよるが、前記「ぴたっこ」1枚で、一人のマウンターの約1ヶ月分の作業量がまかなえるとのことである。この作り方は、歌舞伎の「土蜘蛛」で用いる、蜘蛛の糸製作風景のTVにヒントを得た。
ついでに記すが、ハンダ鏝の電流調節には、コントローラー付の電気スタンドで十分で、スライダックを使うまでもない。これに普通のラジオ用ハンダ鏝をつなげばよい。鏝先部分は市販のままでも使えないことはないが、より使いやすくするにはヤスリで削るなり、チップを引き抜いて加熱し、赤熱したところをハンマーでたたいて、望みの形に加工すればよい。
ラミネート紙について教えていただいた、日本紙業株式会社特殊紙営業部の駒坂則雄氏、試作品のテストをしていただいた、東京大学総合研究博物館の滝沢糸子氏に御礼申しあげる。
追記:製造元にたまたまあった小幅のロールを、とりあえず入手してある。これはジャピロンPC5-1415で、ラミントンテープより一段薄くて頼り無いが、標本貼付には十分使える。
引用文献
金井弘夫 1974 おしば標本の新しい貼付法.植物研究雑誌40:89-93 [植物研究雑誌73(1):52-53(1998)]
編集部注:原文の企業情報等は一部割愛いたしました。
(2)
さきに金井(1998)でこれについて発表したが、その後もう少し容易な自作法があることを知ったので、機材を含めて再び発表しておく。
テープの原紙は前報の如く、工場出荷の大形ロール、あるいはカット業者(スリッター)の裁断余りを入手する方法のほかに、複写印刷機リソグラフのマスターステンシルが利用できる。これもラミネート紙で、交換時に幅30cm長さ90cmほどの端切れが必ず残るので、大量消費しない限りこれで間に合うだろう。マスターステンシルのロール(約100m)を買ったとしても、上記ジャピロンPCの工場出荷ロールよりもずっと手頃である。ただし前報のジャピロンPC5-1415より薄い。いずれにせよ適当な長さに切り出した原紙を折り畳んで(Fig.1A)、使用済みの大型封筒に入れて裁断する(Fig.1B)。封筒は紙質が薄い方がよい。
裁断には、事務機として売られているディスクカッターが適当である(Fig.1C)。ディスクカッターは、紙をレールで抑え、円盤状の薄い刃をレールに沿って滑らせて裁断する道具で、コピー紙なら10枚程度を切る能力がある。従来の写真用カッターよりも紙のズレが起こりにくいうえ、薄紙でも切れるので、封筒に入れたままのラミネート紙を、5mm幅はおろか2-3mm幅にも切ることができる(Fig.1D)。封筒のまま切るわけは、紙送りのとき用紙がバラけるのを防ぐためである。紙送りは手でやることになるので、テープの幅は正確には揃わないが、標本貼りに不都合はあるまい。原紙は長い方がよさそうに思えるが、あまり長いと折り畳んだとき厚くなって、テープに切る作業がやりにくくなるし、できたテープがもつれる心配がある。
ヒートシールに使うハンダ鏝は前報のとおり、ラジオ用の先端(直径5mm)をいったん引き抜いて、平たく加工すればよい(Fig.1E).これはガスこんろとペンチと金槌があればできる。電流調節には、ハンダ鏝専用の小形コントローラーがある。私が購入したものは太洋電機産業製のパワーコントローラーPC-10(200W用)である(Fig.1F)。電灯用の調光器でもよい。これらはサイリスタ式のもので、最近は小形化したうえ安価になった。ラミントンで使われている接触抵抗式のコントローラーは、いつも同じつまみ位置を使うため、接触不良になって発熱することがある。サイリスク式にはその心配はないが、許容量より消費電力の大きい器具を使うと破壊される。またPC-10の場合には電源スイッチがついていないため、使用後はプラグから外しておかないと、常時電力を消費してしまうので注意せねばならない。電流調節はこういう出来合いのものがなければ、光量切り替えスイッチつきの電気スタンドを利用すればよい。
ジャピロンPC5-1415はラミントンテープ(ジャピロンPC5-1715)より薄く、リソグラフマスターステンシルは更に薄いので、強度に不安をもつ人もあろう。そこで手元にあった雑多なテープと共に、破断荷重を室温25℃で測定した(Tab.1)。繊維方向に幅5mmに切ったテープをバネ秤のフックにかけ、たれ下がった両端を指でつまんで引下げ、切れたときの目盛りを読んだ。6回の平均値を示す。べつにどの値が限界だというものではないが、参考まで。リソグラフマスターステンシル(3)はジャピロンPC5-1415(2)より薄く、繊維量も少ないのに破断荷重が大きいのは、ラミネート層の材質が異なるためと思われる。テスト中の感触でも、(3)の強度は繊維よりもラミネート層の貢献が大きいように感じた。ただし(3)は、ラミネート層と繊維層が、とくにテープにしたときには、はがれ易い傾向がある。また(5)、(6)は粘着糊を使っているため、時がたつとテープの縁がよごれるうえ、浮き上がった枝を抑えるような、力が常時かかる箇所では徐々にはがれてしまうので、標本室用としてはおすすめしかねる。
以上のとおり、ヒートシールによる標本貼り付けの問題点はなくなった。テープ原紙の入手に多少難点があるが、工場出荷の原ロールを製紙業者から購入したとしても、量にくらべて価格はとんでもなく安いものなので、共同購入すればよい。筆者のところにはジャピロンPC5-1415の買い置きがあるので、希望者は連絡されたい。前報について、外国から問い合わせがあった。標本貼付法はどこでも悩みがあるようなので、公私を問わず普及することを期待する。
引用した文献のほか、貼り付け法等を述べた報文を示しておく。
引用文献
金井弘夫 1972 ヒートシールによる標本貼付 植物研究雑誌47:120-121 金井弘夫 1974 おし葉標本の新しい貼付方 植物研究雑誌40:89-93 金井弘夫 1974 新しいおしば貼付用具ラミントンについて 植物採集ニュース(75):35-36 金井弘夫 1985 おしばを貼るはなし 国立科学博物館ニュース(198):3-4 金井弘夫 1998 おしば標本貼り付け用ヒートシールテープの自作法 植物研究雑誌73:52-53
▼ Tab.1. 種々のテープの強度 Tape (5mm in breadth) Thickness (mm) Strength (kg) 1 ラミントンテープ(ジャビロンPC5-1715) 0.04 0.9 2 ジャビロンPC5-1415 0.03 0.7 3 リソグラフマスターステンシル(ROA3-GR) 0.02 0.8 4 讃岐ひやむぎ結束テープ(石丸製麺製) 0.05 1.9 5 おし場用糊つきテープ(市販品) 0.08 0.8 6 製図用テープ 0.06 2.7 [植物研究雑誌76(1):54-56(2001)]
元・国立科学博物館 金井弘夫 著
菊判 / 上製 / 904頁/ 定価15,715円(本体14,286+税)/ ISBN978-4-900358-62-1
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