本資料は金井が私費で制作したものである。Index Kewensisが植物分類学の研究機関に必備の文献であることはいうまでもないが、何分巻数が多いため、植物名出典の探索には不便を感ずる。外国のHerbariumを訪れたときに、製本されたIndex Kewensis展開版が、常時閲覧できるよう全分冊を開いたまま机上に並べてある一室があるのを見た。わが国ではまだ展開版さえ作られておらず、かねてその必要を感じていたので、製作に踏み切ったものである。本資料の製作には、原本2部を必要とすることは容易に理解できるだろうが、Index Kewensisの表紙の厚紙がいかに頑丈なものであるかを知るのは、私くらいだろう。
本資料は私の勤務先であり、かつ日本の自然史研究センターとしての役割をもつ、国立科学博物館に寄贈する心積もりでいた。
1982年に就任した諸澤正道館長(前文部事務次官)は、図書課を廃止したうえ、「使用頻度の低い図書は廃棄せよ」との命令を発し、これは実行された。「やたらにものを集めないで、情報化したら捨ててしまえ」という言葉も聞かされた。また『開かれた博物館をめざして』(諸澤正道編著 1991年)の関係者によれば、共同利用研究機関としての自然史研究センターへの当館の方向づけを記した文章は、「現実的でない」との理由で、編著者の指示で削除されたということである。さらに「国立科学博物館規定集」にあった自然史研究センターの条項はとり除かれた。
国立科学博物館の自然史研究部門が、今後もわが国の自然史研究の一中心となるであろうことは疑いないが、このような館長の就任する可能性のある機関では、私個人が重要であると信ずる資料をまかせる気にはならない。以上のいきさつの結果、私は本資料の寄贈先を、国立科学博物館以外の研究機関に変更することにしたものである。
1993年8月になってCD版Index Kewensisが刊行された結果、本資料の存在価値は著しく希薄になった。本資料は情報化時代における「廃棄すべき資料」の見本となることだろう。私費をもって制作したことは、幸いであった。さもなければ「税金の無駄遣い」と非難されることになったろう。私個人にとっても、実に壮大な「無駄遣い」だった。
1994年3月
This material was prepared, by my private expense, to facilitate reference works on botanical names, with the intention to donate to Natural History Institute, National Science Museum, Tokyo to which I devoted myself for twenty years.
When Masamichi Morosawa, former vice-minister of Education Ministry, was assigned to the director-general of the Museum, he abolished library section of the Museum and ordered to throw away 'useless' or `less utilized` literatures. He denied the role of the Museum as the Research Center of Natural History in Japan.
The events led my mind to decide that this material should not be placed such institution liable to have a director who is ignorant of natural history. This is why I am leaving such `less utilized` material as this in any institution other than the National Science Museum, Tokyo.
This material became 'useless' after August 1993 when publication of " Index Kewensis on Compact Disc " was announced.
March 1994
※この文は東北大学津田記念標本館に寄贈したIndex Kewensis展開版に記されている。
元・国立科学博物館 金井弘夫 著
菊判 / 上製 / 904頁/ 定価15,715円(本体14,286+税)/ ISBN978-4-900358-62-1
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