子供相手の教室をもたされたので、たまたまそこにあったパウチ器具を用いておしばのカードを作ったら、子供たちが面白がっていたので紹介する。パウチというのは運転免許証のように、プラスチックシートになにかをはさんで熱溶着したもので、最近は家庭用の小型機も売り出されている。大きい文具店やデパートなどでも、やってくれるところがある。
カードの仕上がりは、ハガキのサイズとした。これ以上大きいと、カードボックスで整理できないので、扱いにくいだろう。おしばを直接はさみ込むより、記事を書き込んだ方が有用なので、台紙としてカード紙を用意した。この紙は別に厚いことは必要ではないので、ノート用紙でもかまわない。大きさはハガキの寸法より周囲1cmほど小型にした。
まずおしばを作る。「おしば」というとすぐ「花や実から根まで具わっていなければいけない」と杓子定規にきめつける人がいるが、ものの役に立つならどんなものでもよかろう。それにこの寸法では立派な「おしば」は無理にきまっている。山へ連れていって、葉っば1枚をとらせた。これが結構難物で、サンショウやシロツメクサやネムノキやコニシキソウは、どれが、あるいはどこからどこまでが1枚の葉かわからせなければならなかった。夏の高尾だから花は無理だし、この次にまた作ればよい。
教室では虫めがねと実体顕微鏡を使って、見たことを何でもいから描かせた。植物の名前と自分の名前と取った場所と年月日もいっしょである。色を使ってよいと言ったら、女の子などは6色も使って、写生よりも色鉛筆の選択に忙しかった。これらは全部カードの片面を使い、反対面は白とした。
おしばを作るにはアイロンを使わせた。親の見学は断ったので気楽だったが、火傷をした子が何人かいた。力を入れすぎて手をすべらすのである。新聞紙5・6枚の上に葉を置き、上に1枚のせて、その上からアイロンをかける。ピンと立つまでにはかなり手数が必要だが、とにかくすぐにおしばになるので子供は退屈しない。ただし2人に1台のアイロンがいる。驚いたのは、こういうやり方ではうまくゆかない植物があったことである。ムラサキカタバミはとろけてしまった。ドクダミも薄くなりすぎて、こわれてしまうことが多かった。
乾いたらいよいよパウチであるが、これはシートにカードとおしばをはさんで、機械に通せばよいので簡単である。おしばはカードの白い面にのせる。つまりおしばのある面には人為情報が何もないようにした。通過速度は遅い方がよい。あまり見栄えのしなかったおしばが、パウチされるとすごく立派になって出てくるので、みんな歓声をあげる。自分の筆跡も、パウチされると額縁に入ったように良くみえる。
教室の機械は大型で、8枚のカードが一度にパウチされるので、写真用カッターで切り離した。子供にやらせたが、刃を勢いよくドカンと切りおろすので、指を切らないかとビクビクしたが、幸いだれもけがをしなかった。使いかたが乱暴だから、カッターは古物がよい。切ったカードは角が鋭いので丸める必要があるが、わざと鋏を使わずに、コンクリートの床でゴシゴシこすらせたら、面白がってやっていた。
さてこのカードをどう使うかだが、4日かけたがこちらの要領が悪くて、そこまで時間がなかった。ためしにカルタのように取らせてみた。おしばの面を上にして散らし、植物名をとなえたら該当するカードを取るというやり方である。文字はないのだから、植物を知っていないと取れない。しかしゲームとなると結構みんなよくおぼえ、夢中になってくれた。こういう使い方をするには、すべてが具わったおしばでは、情報が多くて面白くないだろう。葉のカードと花のカードを別にして、神経衰弱のように合わせていくという遊び方もできる。高級な遊び方としては「ブナ科を取れ」というようにも使える。文字面を上にした場合では、「複葉」、「黄色の花」、「さく果」などのカードを取らせることもできよう。大学の一般教養の実習なら、記事面をかくして、「同じグループと思うものをまとめよ」という課題を与えるのもよかろう。タンポポとフクジュソウの区別もつかない初心者に、セイヨウタンポポとカントウタンポポの区別を教えることに私は疑問を持っており(そんなのはタンポポでよいではないか!)むしろ科を直感的に当てることができるような指導ができないものかと思っているので、こういうカードをそろえておけば役立ちそうな気がする。
おしばを作る前後に直示秤で重さをはかれば、含水量を知ることができる。ただしこれは、何枚かの葉を一度に計量しないとうまくゆかない。
こういうおしばカードをひと通りそろえておけば、提示用教材としてくり返し使えるし、生徒に少々チョロマカされても惜しくはないだろう。むしろ生徒の作品を氏名入りで使ってやれば、大事にしてくれるのではなかろうか。夏休みの宿題に大きなおしばを作らせて、提出したらあとはゴミとなるよりはるかにマシである。校庭の植物調べなどには手頃と思う。類似植物の比較などにも使える。ふつうのおしばを作る人なら、そのついでにカード用に1・2枚の葉を取り出しておけばよいのだから、作る苦労はほとんどあるまい。とはいうものの、きれいに平らにできたおしばを得るのは、そう簡単ではない。カードより大きいホウノキだのススキなどは、なにか一工夫しないとカードにならないが、やっているうちによい智慧がうかぶだろう。カードの記事を書き足すことができないが、紙の部分だけ切り取れば中身を取り出すことができるから、もう一度パウチすればよい。
この類のものとして信濃教育会出版部(電話0262-28-8513)から、植物のカルタが5種類刊行されている。絵札と字札にわかれていて、絵札はもちろん絵である。字札の文句は七五調の文人趣味で、私にはちょっとなじめない。また50音に合わせて植物を選択しているので、とりあげ方に無理がある。青森県の木村啓氏も植物カルタを工夫されたということだ。カラー写真を花札のサイズに仕立て、字札にシャレたコピーを考えて遊んでいる学生グループもあるそうだ。しかしこれらは人工物なので、実物のパウチカードとは比較すベくもない。
植物のパウチカードを作ってみて、かなり使いでがありそうなので、おすすめする次第である。
[野草55(431):68-70(1987)]
元・国立科学博物館 金井弘夫 著
菊判 / 上製 / 904頁/ 定価15,715円(本体14,286+税)/ ISBN978-4-900358-62-1
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