(社)日本植物園協会名誉会員・東京ディズニーランドの植栽設計を手がけた植物プランナーであり、植物の耐寒性指数「ハーディネスゾーン・ナンバー」の日本導入に貢献した故・坂嵜信之を偲び、発刊まで15年をかけた著書『日本で育つ・熱帯花木植栽事典』(アボック社 1998年)を特集します。
〔花の美術館編集部/植物名称研究所所長 西原彩子〕
『日本で育つ熱帯花木植栽事典』 アボック社 / 初版 1998年 / B5判 / 1,224頁
毛藤 圀彦様
前略
お元気ですか?
私は先般から、心臓と肺臓のまわりの癌におかされ、此の病院に入っています。
想い出すと、大船植物園にいた脇坂君と僕、脇坂君と貴君という不思議なつながりによって『熱帯花木植栽事典』の本をつくり上げることが出来ました。
幸にして、あの本はよく売れて、大分黒字になったと聞き、僕も責任をはたせて一安心した所です。
私は間もなく死ぬと思いますが、「坂嵜という変な男がいたっけナ」と時々想い出してくださると幸いです。
2020.12.13 坂嵜 信之
1926 - 2021
名古屋市生まれ。京都大学理学部(植物学専攻)卒。
大阪市立大学理工学部附属植物園、京成バラ園芸株式会社八千代農場、(社)日本植物園協会副会長を経て、植物プランナーとして東京ディズニーランドなどの植栽設計に関与。
植物の種類ごとの耐寒性を知るための指数として、世界的に利用されている「ハーディネスゾーン・ナンバー」(Hardiness Zone Number)の日本導入に際し多大の貢献をなしたことで知られる。
(社)日本植物園協会名誉会員。
1998年 5月 発行
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
2012年 国交省都市局 『公園整備の基本的考え方/技術的指針』参考図書
当社追跡本のひとつ。23人の専門家による海外調査15年、日本の屋外で育つ2,236種類を集大成した。鮮明な写真約2,000点と用途目的別・耐寒性リストを初収録。北米カリフォルニアランドスケープ協会ビル・エヴァンス氏が「質の高さ、同定の確かさはどの植物事典よりすぐれている。」と絶賛。本書以降、様々な種類が日本市場に導入された。
主著者 | 坂嵜 信之 | ||||
---|---|---|---|---|---|
共著者 | 尾崎 章 | (有)エクゾティック・プランツ代表 | |||
香月 茂樹 | 国立医藥品食品衛生研究所種子島栽培試験場場長(旧国立衛生試験所) | ||||
清水 秀男 | 熱川バナナ・ワニ園研究員 | ||||
橋本 梧郎 | サンパウロ自然史研究所館長 | ||||
花城 良廣 | (財)海洋博覧会記念公園都市綠化植物園園長 | ||||
毛藤 圀彦 | (株)アボック社代表 | ||||
執筆協力 | 石 弘之 | 元・朝日新聞社編集委員 | |||
泉 宏昌 | 元·東京薬科大学薬用植物園 | ||||
伊藤 義治 | 元・東京大学理学部附属植物園 | ||||
内原 英吉 | (財)海洋博覧会記念公園管理財団 | ||||
木村 智 | 熱川バナナ・ワニ園園長 | ||||
常谷 幸雄 | 東京農業大学名誉教授 | ||||
杉村 明子 | 東京大学理学部 | ||||
高林 成年 | 京都府立植物園園長 | ||||
古里 和夫 | 元・浜松市フラワーパーク公社園長 | ||||
松居 謙次 | 熱帯多肉植物研究家 | ||||
邑田 仁 | 東京都立大学理学部教授 牧野標本館 | ||||
室谷 優二 | (財)尼崎綠化協会・緑相談所所長 | ||||
中山 長秀 | 広島市森林公園昆虫館 | ||||
D. B. スミトラアラッチ | スリランカ・ペラデニア植物園園長 | ||||
B. エバンス | 北米カリフォルニア・ランドスケープ協会 | ||||
W. ウィリアムス | ハワイ・ワイメア植物園園長 |
学名の英読み | 奥 峰子 | |
---|---|---|
谷 友子 | ||
邑田 仁 | ||
耐寒性記録 | 岡村 隼人 | (鹿児島) |
尾崎 章 | (南房総) | |
香月 茂樹 | (種子島) | |
坂嵜 信之 | (総括) | |
清水 秀男 | (南伊豆) | |
花城 良廣 | (沖縄) | |
苗木入手データ | 尾崎 章 | |
小島 裕 | ||
清水 秀男 | ||
植物園ガイド | 武田 和男 | |
矢野 勇 | ||
ほか | ||
有用性索引 | 香月 茂樹 | |
樹形イラスト | 榎本 朝明 | |
チーフエディター | 谷 友子 | |
編集 | 我如古詩子 | |
毛藤 有子 | ||
毛藤満里子 | ||
編集協力 | 安藤 英子 | |
石岡 美枝 | ||
小嶋 明人 | ||
西野 賢 | ||
吉田 千春 | ||
進行 | 碓氷千津子 | |
松島 昴子 |
写真提供 | ABOCフォトライブラリ |
---|---|
安藤 敏夫 | |
石 弘之 | |
泉 宏昌 | |
伊藤 浩二 | |
内原 英吉 | |
岡村 隼人 | |
荻巣 樹徳 | |
尾崎 章 | |
香月 茂樹 | |
喜多川元司 | |
木村 智 | |
輿水 肇 | |
坂嵜 信之 | |
清水 秀男 | |
常谷 幸雄 | |
平良 一男 | |
高林 成年 | |
橘 郁 | |
豊田 武司 | |
成生 裕惠 | |
橋本 梧郎 | |
長谷川哲士 | |
花城 良廣 | |
藤岡作太郎 | |
古里 和夫 | |
本間 啓 | |
松居 謙次 | |
邑田 仁 | |
室谷 優二 | |
山口 邦俊 | |
脇坂 誠 | |
鷲尾 金弥 |
はじめに
熱帯の花は、我が国において長い間、一部の趣味家や愛好家が楽しむものであり、植物園の温室などでしか見られないものでした。
海外旅行が盛んとなった今日、台湾、グアム、ハワイ、香港、シンガポール、バリ島、オーストラリアなどの熱帯各地を訪れ、その地の樹や花に魅せられる人々が増えてきています。同時に花市場が活況化し、全国のどの園芸店にも、さまざまな熱帯産の花や観葉植物が並ぶようになりました。そして日本の寒さにも耐える種類を、栽培の上手な人々は、鉢植えはもちろん、庭でも育てるようになっています。特に、沖縄から日本の暖地にかけては年々、新しい熱帯産の植物が導入されています。日本列島の夏は、熱帯と同じくらいに暑い気候ですから、21世紀は工夫次第で、世界の熱帯の花をもっと身近に楽しめる時代になるでしょう。
熱帯植物の中で、多くの人々の心を魅了するのは花の美しい花木です。この本は、そんな熱帯花木の魅力を一冊にしたものです。世界の熱帯~亜熱帯の広い地域から、花がよく目立つ、きれいな樹をできるだけたくさん拾い出してみました。そして、日本の露地や温室などで、導入が可能と思われる有望種を収容しました。その範囲は294属2,236種類(園芸品種を含む)に及んでいます。
本書の配列は、学名を規準とし、そのアルファベット順としました。属の和名は、適正さに欠けるので、配列の規準とはしませんでした。外国の人達と意見を交換するときに必要なのが万国共通である学名で、分類の大切な手がかりにもなります。今日、日本の園芸界と世界との隔りはなくなってきています。海外の園芸熱のレベルに追いつくことも、もはや時間の問題でしょう。最近では、学名に対する拒否反応もあまり見られなくなりました。みなさんがどんどん学名を使ってくださることを願っています。その読み方はローマ字読みが主体ですが、英語圏の園芸家は英語的発音をする場合が多いので、本書の学名には標準的な「英読み」も併記しました。
この本は4章の構成としました。
第1章「写真篇」。この本の“顔”に当るフォトグラフィックな部分です。現地撮影を中心にして、特に花の形態と植栽状態が判るように、写真サイズを大きく扱いました。撮影しきれなかった種類はボタニカルアートを掲載しました。
第2章「事典篇」。この本の“からだ”に当るエンサイクロペディアの部分です。原則として第1章の写真と対応した属、種(変種、交雑種、園芸品種を含む)について解説しました。そのほか写真篇には登場していない種や最近よく見られる園芸品種も数多く収載しています。解説では、特性、栽培について、特に他種との違いを重視しました。また、日本でまだあまり知られていない種類は、現地情報を取りこむよう心がけました。
第3章「概説〈テキスト〉篇」。ここでは、熱帯の植物の気候条件や生育環境のメカニズムなどを平易に解説し、熱帯花木を沖縄や九州、四国、本州の暖地で、さらに、通常では越冬できないような寒い地方で育てるために参考となる事項をまとめました。
第4章「植栽設計資料〈データ〉篇」。ここでは植栽計画を立てる人々のために、実際役立つ各種のリストをまとめました。たとえば、「熱帯花木の植栽用途目的別リスト」。これは本書に収載した種類を、「香り」「街路や生け垣」といったように植栽プランに必要な用途目的にそってリスト化したものです。また、熱帯植物を観察できる熱帯~亜熱帯圏にある39カ国、合計116の植物園を紹介しました。
この本の中で特にこだわったのは、種の耐寒指数の基準づくりでした。これは本書の事典篇にハーディネスゾーンとゾーンナンバー(Zone No.)で示したもので、その花木の生育可能と思われる北限地を表わしています。このデータはまだ完全なものではありませんが、熱帯性植物の耐寒性記録としては日本初出です。熱帯花木を露地で育てようとする人たち、室内や温室で育てようとする人たち、耐寒性のある品種を作出しようとする意欲のある方々そしてバイオ関係者には参考となるでしょう。
本書で収載した種類は、原則として私たちが実際に目にしてきたものですが、そうでないものもあります。思い違いや誤りもあろうかと思いますが、それらについてはご指導・ご指摘をお願いいたします。
(1998 坂嵜 信之)
謝辞
貴重な原稿や写真をお寄せいただいたスリランカやブラジル、ハワイやカリフォルニアなど、海外の多くの植物研究家や園芸・造園家、さらに協力いただいたジャーナリスト・写真家の皆さんたちに心から感謝します。
この本を企画した15年も前から協力いただいた元・東京農業大学教授の故・本間啓、浜松フラワーパークの故・古里和夫、ブラジル在住の橋本梧郎などの諸先輩、また、今日大いに活躍している熱川バナナワニ園の清水秀男、沖縄海洋博覧会記念公園の花城良廣、エクゾティック・プランツ社の尾崎章、国立衛研種子島薬用植物栽培試験場の香月茂樹などの諸氏をはじめ、多くの方々の惜しみない協力に深く感謝します。こうした多くの方々の力なくして、このような大部な本を作ることはできませんでした。これも、ひとえにアボック社の毛藤圀彦氏の広いつきあいと信頼関係のおかげでした。
この本の最終校正をしていて、自分がいかに植物について知らないかを痛切に感じさせられました。いい年をしてもっともっと勉強をしなければならないことを知りました。
21世紀をむかえ、ますます多くの熱帯の綺麗な花木などに接する機会が増えるでしょう。この本「熱帯花木」を利用していただければ幸いです。またその傍ら、あらためて身近にある日本の植物を振り返り、その魅力、美しさにも想いを馳せてくださることを願います。
この本づくりに当てた10年余は、とても長かったようで、短い充実した年月でした。
(坂嵜 信之)
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
〔花の美術館〕カテゴリリンク