日本の熱帯花木
日本の中で、熱帯の植物にいちばん近くでふれることができるのは沖縄と小笠原です。もっと正確にいえば、奄美大島からずっと南の八重山諸島まで続く南西諸島(琉球列島)と小笠原諸島になります。
ここは日本では唯一の亜熱帯の島々ですから、熱帯への玄関口といえるでしょう。熱帯植物の北限種や、寒さにも比較的強い数多くの「熱帯花木」を見ることができます。
〇ゲッキツやサンタンカが咲く島・沖縄
南西諸島(琉球列島)の沖縄は、最低気温の時でも水が凍ることはありません。
カンヒザクラは、ここでは短い冬が過ぎた1月に満開となります。ゲッキツは、民家の生垣にたくさん植えてあって、かわいい白い花が良い香りを放ちます。また、フクギは、屋敷を囲む防風垣として広く栽植されていて、台風の通り道にある島の古い民家の風景の一つとなっています。
アダンは海岸地に生えていて、パイナップルに似た果実をつけるタコノキの仲間です。同じく海岸の石灰岩地に多いのは、お馴染みのソテツです。山地で大きな葉を広げて日陰をつくる木性シダの一種ヒカゲヘゴなども、人目を引く沖縄ならではの種類です。
ココヤシは、奄美ではまともな生育はできません。沖縄本島では生育します。しかし、果実の完熟は期待できません。
八重山群島は南西諸島の特に南部に位置し、熱帯に準じた気候です。
ここでは、海岸には立派なマングローブ林が見られます。その中には、天然記念物のニッパヤシが潮干潟に半分水に浸りながら生えています。ゴバンノアシは碁盤の脚そっくりな果実をつけ、やはり海岸の第一線に見られます。八重山群島では、ココヤシはよく生育し、果実も大きく結実します。
沖縄では古くから、中国・朝鮮、そして東南アジアとの交易が行われてきました。
サツマイモは初めリュウキュウイモとよばれ、沖縄から九州に渡ってきたものです。デイコは、原産地の熱帯アジアから中国南部を通ってやってきて、今では「県の花木(県花)」になっています。
トックリキワタやバウヒニアなどは、戦後、特に沖縄出身の方々が、世界の熱帯・亜熱帯から多くの植物を導入したものの種類の代表でしょう。ハイビスカスやブーゲンヴィレア、オウコチョウ、枝を長く伸ばして大きな黄色のラッパ状の花をつけるソランドラや公園に咲くホウオウボク、そして鉢物や切り花としても有名なサンタンカは、沖縄の観光資源として役立っています。
なお、琉球列島では、台風や潮風による被害も大きいので、大きな植物を植える場所は風の通り路を避けるように、充分注意が払われています。
〇タコノキ、マルハチの生える島・小笠原
小笠原諸島の気温は、沖縄本島より南の八重山諸島に近く、熱帯要素を強くもつ島々として知られます。過去に記録された冬の最低温度は8度、通常の年で12度位で、降雨量も一部の島をのぞいて年間1000ミリ前後、あるいはそれ以下となっていて、やや乾燥気味です。
この島は第二次大戦以前に、世界の熱帯各地から有用植物がたくさん収集された歴史をもっています。タガヤサン、パパイヤ、バナナ、ゲットウ、デリスなどがそれに当たります。今日では、これら以外にも当時導入された熱帯性の植物の多くが山間部などに野生化して、生き残っています。
1936(昭和11)年の記録によると、この島には約140種の植物が導入され、開花や結実のテストがされました(『小笠原は楽園』星典著1995アボック社 )。
ギンネム、ランタナ、ヤハズカズラ、ヒギリなどが道沿いや家の周りに花を咲かせています。家々にはハイビスカスやブーゲンヴィレアなどが一年じゅう咲き競い、ランや各種観賞用植物の栽培も盛んに行われています。
ここ小笠原諸島は、植物の固有率が高いことで、ハワイ諸島やガラパゴスと共に世界に知られています。島々は、海洋から隆起した珊瑚礁の古い地形をもち、これまで他の島との陸続きの歴史をもたない、いわゆる海洋島でした。したがって、ここに到達する種類は限られ、こうした隔離された中で、特殊な種の分化が起こってきました。タコノキ、セボレーヤシ、オオハマギキョウ、マルハチなど、約124種が固有の種類として知られています(『小笠原植物図譜』豊田武司編著1981アボック社 )。ヒメツバキやハハジマノボタン、オガサワラクチナシ、ムニンフトモモ、シマギョクシンカなどが花の美しい種類としてあげられます。
これらのいくつかの種は、遠くハワイやポリネシア、あるいは熱帯アジアとのつながりも強いとされていて、熱帯植物の観察地としても興味のつきない島々です。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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