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第3章 概説篇《植栽設計のための基礎知識》:Ⅱ 熱帯花木を育てる

温・暖帯域での栽培

熱帯のエキゾチックな植物の栽培を楽しむことは、植物を愛する人たちの究極の世界ともいえます。しかし、我が国で最も多くの人々が住む本州の太平洋岸は、前述のように9a、9bのゾーンに属します。

即ち、熱帯・亜熱帯花木の越冬には極めて厳しい気候です。

いっぽう、我が国の6~9月の初夏から初秋までは熱帯に劣らぬ暖かい~暑い日々が続きます。これは熱帯花木にとってなかなか居心地のよい環境です。従って、この時期に熱帯花木を楽しむことは決して難しいことではありません。いや、極めて易しいことなのです。問題は冬をどうするか?です。これについて少し考えてみましょう。

鉢植えでの栽培

冬の間、寒い地域で「熱帯花木」を育てるには、鉢植えが便利です。鉢仕立ての特徴は「盆栽」に見られるように、植木鉢の狭い空間に根を張らせて、比較的小さい姿で花や果実をつけさせることが可能です。例えば、鉢の水やりを加減することによって、植物には容易に雨季や乾季という環境を与えることができます。また、水溶性の肥料をコントロールする手法によって、なかなか花をつけ難い種類に、巧く花をつけさせ、さらに見やすい高さで鑑賞することも可能です。

さらに、寒い季節は暖かい部屋・サンルーム・ビニールハウスなどに入れて育て、暑い季節は、戸外に出すことも容易です。すなわち、自然では一度生えてしまえばほとんど移動することのない植物たちを、痛めずに必要な環境に移動させられるというように、コントロールがしやすいのです。日差しが強すぎるときは日陰に、暑すぎるときは涼しい場所に鉢を移動します。このようにすれば、本来生育に不都合な地域でも育てることが可能になります。

もう一つ、我々の祖先が開発した、理にかなった絶妙な方法が大変参考となります。それは「盆栽」と似た「山草栽培」の技術です。これは、高原や高山に生育する植物を平地で育てる昔ながらの技術です。今日と違い、冷房なしに高山の気温を平地に再現する方法です。基本的には、

  1. ①植栽用土は水はけの良い細礫や荒砂を主体とする。
  2. ②容積の割に表面積の広い平鉢を使う。
  3. ③鉢の表面からの蒸発の多い細孔のある素焼き鉢を使う。
  4. ④涼しい風通しの良い棚などに並べる。

これら①~④の方法を組み合わせれば、頻繁に潅水を行っても根腐れの心配は少なくなります。また水分の蒸発が盛んなために気化熱が奪われて、鉢やそれを取り巻く環境の温度は下がります。そのため、高山の植物たちも酷暑を乗り切って命を全うできる訳です。これは熱帯高山の植物たちの栽培にも利用できる手法です。

温室・アトリウムでの栽培

古くから熱帯~亜熱帯の花や果実に魅せられた人々は、ガラス温室を建て、熱帯の桃源郷を再現してきました。

それは大変な贅沢でもあったのです。しかし、ガラスの使用が一般化し、より身近なものとなった今日ではさらにビニールやポリエチレンなどさまざまなフィルム素材も使われています。

ガラス(ビニール)室では、冬には窓を閉めて寒気を防ぎ、さらに暖房を行って温度を上げます。夏には気温が上がり過ぎないよう、換気をはかることが重要です。

冬の間、熱帯花木をガラス室などに保護すれば、冷たい風に直接あたるのを防ぎ、霜から守ることができるので、加熱をしなくてもかなりの種類が越冬可能です。

また、ビルの室内空間を利用したアトリウムが盛んに造られるようになりました。アトリウムでの植栽も基本的には温室栽培技術の応用です。最近の施設では、温度や湿度をコンピュータで制御できるようになりました。補助光も取り入れられていますが、太陽光に比べるとまだまだ問題になりません。

このようにアトリウムの中では、日照不足のために、植物は徒長し易く、花つきも悪いなどの不都合が起きがちです。特に、強い直射日光を必要とする種類は、花をつけない「熱帯花木」となってしまいます。従って、アトリウムには強い日差しを必要としない種類を選ぶ必要があります。例えば、熱帯の樹林の下に生育するアルピニアやアフェランドラなどがその候補となるでしょう。

また、アトリウムの中は風通しが悪く、病虫害が起こりやすいことにも注意が必要です。すなわち、アトリウムを造り、いい加減に選定した種類をまぜこぜに植え、コンピュータ任せにした場合は、惨めな結果を招来することになるでしょう。そこにも専門の技術者の頭脳と腕が必要ということです。

戸外での栽培

初夏から秋にかけて戸外で「熱帯花木」を熱帯のように育て楽しむ方法を二つ紹介しましょう。この方法の利点は、根付いてしまえば鉢栽培に比べて水やりの手間などが格段に少なくて済むことです。

第1は、春も田植えの終わった頃、地面に穴を掘って、夏の間は「熱帯花木」を植木鉢のまま生け込む方法です。植木鉢は少し深めに地に埋めるようにします。夏の間、元気よく生育し、根は鉢の底や縁からはみ出して伸びます。秋も段々と寒くなる11月ごろになったら植木鉢ごと掘り上げて、技と根とを切り縮め、寒さを避けて部屋に入れます。そして乾燥気味に保ち、休眠に近い状態で冬を越させます。

第2は、あらかじめ暖かいところで鉢植えにて育てておいた「熱帯花木」の新しい苗を、晩春の霜の心配の無くなった頃、鉢から抜き、戸外に植える方法です。前の方法に比べて植物にとっては植木鉢という邪魔者がないだけもっと元気に育ちます。しかし、秋になって掘り上げる際には根と土がバラバラになってひどく痛めつけられてしまいます。仕方のないことですが、その植物を越冬させるのをあきらめます。次の春には別の材料を用意します。

最も手軽な方法は、春~初夏にガーデンセンターなどで入手した鉢植えの「熱帯花木」を上述の手法で庭に植え込むことです。そして、霜が降りる迄花を楽しめれば、後は寒さで枯れても、それで良しと割り切ることです。

『日本で育つ熱帯花木植栽事典』コンテンツ一覧▼ 目次(青字)をクリックすると、各文をご覧いただけます

はじめに/謝辞

第3章 概説篇《植栽設計のための基礎知識》

Ⅰ 熱帯花木を観察する
熱帯とは
  • 熱帯とは何処でしょう
  • 亜熱帯とは何処でしょう
  • 熱帯の花は何時咲く?
  • 雨季と乾季のある一年
  • 暖帯の中の9a、9b地帯
熱帯の気候と植生
  • 気候と植物の関係
  • 6つの熱帯植生気候
熱帯の景観を構成する樹々
  • “この木なんの木”の正体
  • マストツリーやジャックフルーツの樹とは
熱帯花木の代表樹
  • ジャカランダやカエンボクなど
ローカルな熱帯花木
  • アンサナやギョボクの樹を知っていますか
  • ハワイの名花、オヒアレフア
日本の熱帯花木
  • ゲッキツやサンタンカが咲く島・沖縄
  • タコノキ、マルハチの生える島・小笠原
Ⅱ 熱帯花木を育てる
植物の分布や成育状態と適応性
  • どんな目安をつければよいか
  • インベーダーに注意-栽培分布-
寒さや暑さにどれだけ耐えられるか
  • 寒さによる障害
  • 建物周辺は好条件
  • 葉枯れ状態は赤信号
  • 夏の高温多湿による障害
  • 気候の温暖化について-特に都市空間では-
植物の年齢による違い
  • 接木・挿木苗はすぐに咲く?
  • 大きな株は寒さに強い
開花習性とその調節
  • 「日長」による開花のちがい
  • 花をつけない・咲かないのはなぜ
  • 返り咲き
地下部の環境
  • 赤い土、ラテライト
  • よい土地の条件
  • どうしたら地温を保てるか
  • 防寒対策として
生育の状態と潅水・施肥
  • たくさんの花を咲かせるには
  • 葉の大きい植物を育てるコツ
  • 潮風との関係
繁殖について
  • 種子から育てる
  • 挿木で繁殖した壷植物は膨れない
温・暖帯域での栽培
  • 鉢植えでの栽培
  • 温室・アトリウムでの栽培
  • 戸外での栽培
Ⅲ 熱帯花木を選ぶ
沖縄の県木、デイコも帰化植物
沖縄とシンガポール
沖縄に雪や霰が降った時の話
一番の曲者は季節風
デイコ 落葉・開花はいつ
アメリカデイコ 1年じゅう花が咲く
落葉性の熱帯花木は寒さに強い
ハイビスカス 真夏の東京はハワイより暑い
フヨウ 低木から多年草に変化

第4章 植栽設計資料篇

Ⅳ 熱帯花木関連の植物導入年表(江戸末期まで)
解説
Ⅴ 熱帯花木が見られる世界の植物園ガイド
熱帯花木が見られる世界の植物園・地図索引
(001~116)
A●アフリカ
  • エジプト
  • カナリア諸島(スペイン)
  • ケニア
  • セーシェル
  • マダガスカル
  • モーリシャス
  • 南アフリカ共和国
B●アジア
  • インド
  • インドネシア
  • シンガポール
  • スリランカ
  • タイ
  • ネパール
  • パキスタン
  • フィリピン
  • マレーシア
  • ミャンマー
  • 台湾
  • 中国
C●オーストラリア
  • オーストラリア
  • ニュージーランド
D●ヨーロッパ
  • スペイン
  • モナコ
E●北アメリカ
  • アメリカ
F●ハワイ
  • ハワイ
G●オセアニア
  • サイパン島
  • タヒチ島(フランス領)
  • ニューカレドニア島(フランス領)
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H●中米・カリブ海
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