熱帯の景観を構成する樹々
〇“この木なんの木”の正体
熱帯を旅行した人の目に入る植物は、ヤシの類でしょう。海岸を背景として、ココヤシのある風景は、熱帯をもっともよく表徴しています。ナツメヤシの群落や並木などは、沙漠のオアシスをイメージさせます。暖帯南部では、寒さに耐えるカナリーヤシやワシントンヤシ、ヤタイヤシ、それに優美なジョウオウヤシなどが見られます。が、これらヤシ類は、ほとんど植えたものなのです。ヤシ類は、植栽材料としても、きわめて重要なことが分かります。
ヤシの他にも、熱帯景観を象徴する樹々が沢山あります。そのなかでも丈夫で環境圧に耐える緑化樹があります。その代表的ないくつかの種類をあげてみましょう。
レインツリー(熱帯アメリカ原産)は、公園に傘のように大きく枝を広げます。そして日本のネムに似たパフのような花を樹冠いっぱいにつけ、その姿は雨上がりなどの強い光の中によく映えます。この樹がテレビコマーシャルに映し出される「この木なんの木、気になる木」の正体です。
モクマオウは、日本のマツを思わせます。この樹は海岸近くに風よけや目隠しを兼ねて植栽されます。
マンゴーは、本来は東南アジア産の果樹です。大きく丸い樹冠をつくって大きな日陰樹ともなり、そのあちこちに出た新しい枝と葉が赤紫に色づいて人目を引きます。 マホガニーは用材として有名です。風致樹としてもよく植えられます。
ベンガルボダイジュは、観賞用で有名なインドゴムノキの仲間です。無数の気根を降ろすのが特徴で、あたかもたくさんの樹がくっついたような樹形をつくり、人の目を奪います。
インドボダイジュも同じ仲間です。その樹の下でお釈迦様が悟りを開いたというので、東南アジアでは、聖樹として寺院などでよく見かけます。
ガジュマルも樹冠30mにも及ぶ傘状の樹形をつくる立派な緑陰樹です。これらの種類は、遠くからでもよく目立ちます。
〇マストツリーやジャックフルーツの樹とは
樹形に特徴がある樹々をひろってみましょう。
コバテイシは、ポピュラーな海岸樹です。大きく傘状に枝を広げ、古くなった葉が赤く色づいて、どことなくユーモラスな樹です。日陰を求める人々の憩いの場所になります。
マスト・ツリーは、細長く円柱状に立ち上がる樹姿がなんともスマートです。特に列植された並木は力強い緑のアクセントをつくります。この木はヒンドゥー教の聖樹ともされます。
シダノキは、葉が羊歯のように切れ込み、熱帯の街路樹として強い日射しをやわらげてくれます。
タマリンドは、東南アジアでは並木や公園樹として大きく育っています。この樹の豆莢の果肉は、酸味があって、料理の材料として重要です。しかし花は、黄色で小さく、目立ちません。
風変わりな樹としては、花が幹生する植物があります。
ジャックフルーツはその代表でしょう。太い幹から直接花序を出して、大人でも持ちきれないほど大きな果実をつけます。その異様な姿にびっくりさせられます。また、チョコレートの原料として知られているカカオノキ、カタバミ科のビリンビンなども、果実が直接に幹に生じます。当然のこととして花も幹に直接咲きます。
新葉が特に美しく色づく種類は熱帯にもあり、人々の目を引きつけます。
ムユウジュやヨウラクボクは、新芽の葉が美しくて有名です。同様に、ニューギニア産のマニルトアは、東南アジアではハンカチーフツリーと呼ばれ、新芽の白黄色の葉が美しく垂れ下がります。しかし、この樹の花はというと、あまり目立ちません。
コショウボクは可愛くてきれいな果実をつけ、ヤエヤマアオキは変わった形の目立つ果実をたくさんつけるので、庭などにかなり広く植えられています。これらも花が目立たないのが残念です。
以上なかなかおもしろい特徴のある樹を紹介しましたが、いざ植栽するとなると、問題も多いのです。
マンゴーは、熟した実が落ちて汚れるとか、ココヤシの実が落ちてきたら危険だ、などの声があり、現地では種類の選定や安全管理には細心の注意が払われています。ハワイのワイキキの浜辺では、ココヤシの果実は、拳ぐらいの大きさの時に古い葉と共に除かれています。
以上の樹々の多くは、熱帯の風景を象徴する種類ですが、花木とはいい難いので、本書の事典篇では取り上げていません。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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