生育の状態と潅水・施肥
〇たくさんの花を咲かせるには
生育に良好な環境を与えられれば、その植物は自然の状態よりもずっと大きく育ち、たくさんの花をつけることができます。
たくさんの花を咲かせるには、普通、よく日に当てることが必要です。日当りの悪いところでは、枝や葉のみが伸びて満足な花を見ることはできません。さらに、風通しをよくするために、密植を避ける必要があります。植えた樹をどれくらい大きくさせるかを考えて、あらかじめ植え込みの間隔を上手にとることが大切です。また、年間を通じて花をつけるような種類や品種改良によってできた多花性の品種などは、栄養の消耗も激しいので適当な養分の補給が必要です。それには野菜や果樹などの栽培技術が参考になります。栄養不良ではせっかくの「熱帯花木」もその魅力を発揮できません。
〇葉の大きい植物を育てるコツ
葉が広い植物、葉がやわらかい植物は、たいてい多くの水分を必要とします。
葉の表面積が大きいので、水分の蒸発が盛んなためです。概して、薄暗く、湿度の高い場所では、葉は大きく広がり、枝も長く伸びる傾向があります。これらの植物は、強い光や過乾燥が苦手で、こんな環境にあうと葉焼けを起こしひどく傷みます。
植物は、生長期には水と肥料分を必要とします。しかし、あまりに生育が早い場合は、強風や暑さ寒さなど厳しい環境に対する抵抗性が弱まってしまいます。反対に、休眠状態の時には、水分や肥料分は必要としないのが普通です。したがって、休眠期には乾燥気味に保つことで耐寒性を強くし、寒さから防いでやることがコツです。休眠状態での過剰な潅水や施肥はかえって害となります。
〇潮風との関係
沿岸地帯では、潮風によるダメージが問題となります。
潮風の害は、強風によって受けた葉の表面の傷などから海水のしぶきに含まれる塩分が組織の中に浸み込んで、組織を殺してしまいます。したがって、潮風が直接当たらない所に植えて風を防ぐことが、第一の潮風被害対策といえます。
さらに、雨が少ない風台風が来襲し、潮風をともなう場合は、台風が通過した後、翌朝の太陽が照る前になるべく早く真水を葉面に散布してやるのが効果的です。葉の表面の塩分を流し、あるいは塩分濃度が薄まって被害を軽減することができるからです。
植栽上注意すべきことは、強い潮風や台風の到来のタイミングです。通常の年では樹はすくすくとよく伸びますが、10年ぐらいを周期に日本列島を強い潮風台風が襲います。この時はそれまで順調に生育した樹々も1日にして枯れてしまうことがあります。
その好例としてはユーカリの立ち枯れがあります。シマナンヨウスギは、元来、潮風には強いのですが、苗木の時はやや弱いので、潮風の当たらないところの方がよく生育します。
潮風に耐える花木としては、もともと海岸に原産する種類で、沖縄県の海に囲まれた地で育っているものがその好例ですから、参考になるでしょう。そのほか、乾燥地帯に適応した種類があげられます。スペインなどの原産であるコルクガシも乾燥や潮風には強い種類といえます。この樹は花木ではありませんが庭木や街路樹に、樹皮のコルクは蘭の植込材料ともなり、また椎茸の榾木として利用できます。海岸地方の空き地を利用して植栽する価値がありそうです。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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