植物の分布や成育状態と適応性
〇どんな目安をつければよいか
「植えたいと思う場所(地域)でお目当ての植物がうまく育つかどうか」。この適応性の目安を知ることが、植栽を成功させる重要なポイントになります。
植えようとする種類が、近くでうまく育っている例があればしめたものですが、必ずしもそうはいきません。
自然分布は、地球の長い歴史の中で、気候の変化や植物それ自身の進化の過程によって決まってきたと考えられます。しかし、自然界には、分布が極めて限られた種類、逆に広く分布する種類があって、その適応性はまちまちです。山の斜面の向きによって植生ががらっと違うことも少なくありません。日当り、風当り、湿気、そのほかさまざまな気候因子が違うからです。しかし、よくよく観察すれば、植物の分布や生育状態からその植物の適応性を類推することもできます。この本で紹介したたくさんの種類や園芸品種はどれをとっても今後の熱帯植物の利用、開発、普及をはかるためには重要な植物です。
原産地とは異なった環境で「熱帯花木」を育てる目安をつけるには、耐寒性の情報が最も役立ちます。本書事典篇での耐寒指数と「日本ハーディネスゾーンマップ」のデータとを活用して、樹種選定の目安としてください。
〇インベーダーに注意-栽培分布-
植物は人手を加えて保護し、栽培すれば、自然の分布よりも条件の異なる広い範囲で育てることができます。
栽培可能な地域は、自然の分布域より広いのが普通です。園芸品種などの栽培植物の場合には、たくさんの花をつけ、おいしい果実をならせるなど人間が都合のよい性質を備えるように改良したため、基本的にはその生育を助けてやることによって真価を発揮し、生存できます。そうでなければ、自然にある他の植物との競争に負けてしまうものです。
ところが、よその地域に移された種類が、天敵(競争植物や病害虫や食獣)のいない有利な条件を得て、原産地よりもよく育ち、繁殖し、インベーダーとしてやっかいな雑草・雑木になることも珍しくありません。
沖縄のギンネムなどはそれに該当します。戦後、焦土化した沖縄に米軍が緑化のために種子を播いたものです。今後、このようなインベーダーの侵入を防ぐ手だてと植物導入にあたっての慎重さも必要となります。
自生する植物や自然の植生を守るために、海外から植物が入るのを極端に制限している国も少なくありません。わが国でも生きた植物の輸入には厳重な植物検疫を行っています。それは、特に病害虫が持ち込まれるのを防いでいるのです。
また、乱獲、無計画な開発、過放牧などさまざまな理由のため世界的に絶滅に瀕している植物がたくさんあります。植物資源や種の多様性を尊重し、絶滅から植物を守るために、植物の輸出入の制限をするワシントン条約もあります。
皆さんには、充分なご理解とご協力を期待します。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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