熱帯とは
〇熱帯とは何処でしょう
熱帯とは、地理条件的には「赤道を中心に南北の回帰線に挟まれる地域」です。気候条件としては、ここでは「年平均気温が20℃以上で、かつ最寒月の月平均気温が18℃以上の地域」とします。
この地域では、日本の夏に相当する気温が、年間を通して続きます。東京や大阪の6月~9月のような、暑い気候です。目安としてはココヤシが茂り、バナナやイネが一年中育ちます。海岸には大規模なマングローブ林が発達しています。ハワイやバンコク、シンガポール、リオ・デ・ジャネイロなどへ旅行された方は、その地の風景を思い出してみてください。
〇亜熱帯とは何処でしょう
亜熱帯とは、地理上では「回帰線から緯度30度の幅の地域」を指します。気候上はここでは、「年平均気温が18度以上で、最寒月の月平均気温が14度以上の地域」とします。
ここでは、雪や霜を見ることはありません。ココヤシは何とか育ちますが、その実は食べられるまでには成熟しません。マングローブは見られますが、小型の種類に限られるか、又は小型となってしまいます。
亜熱帯には、日本では奄美以南の琉球列島や小笠原諸島が該当します。この地域にお住まいの方は指標となる植物を思い出してみてください。また、この地を旅された方は、そこで見た植物を眼に浮かべてみてください。
熱帯・亜熱帯の地域区分概略図
熱帯・亜熱帯の区分定義
- 熱帯とは
- 年平年気温が20℃以上、最寒月の月平年気温が18℃以上の地域。
地理上では:南北の回帰線に挟まれる地域。- 亜熱帯とは
- 年平年気温が18℃以上、最寒月の月平年気温が14℃以上で、熱帯に属さない地域。
地理上では:熱帯に接し、南北緯度30度迄の地域とされるが、一様に厳密な地理的定義はなく、温帯と熱帯の中間にある地域をいう。一般的には「一年の内で一時的に熱帯的気候を示す地域」の意味や、「熱帯に近い地域」の意味として用いられている。
『熱帯・亜熱帯の地域区分概略図』は、気温以外の要因や細かい高度差を捨象して作成した。植物の生育を決定する大きな制限因子に乾燥があるが、栽培にあたっては潅水を行うことができるため、この因子を省き、気温という因子に絞っている。
熱帯・亜熱帯の区分を表すことは、様々な植栽環境を把握する上で必要であるが、これまでの「オレンジ・イチジク・オリーブなどが生育する暖かい地域は亜熱帯とする」としたヨーロッパでの区分方法は、本州の南半分や四国・九州の地域を亜熱帯でなく暖帯とする日本には当てはまらない。この為、本図は上記の区分定義により、1997年の理科年表の気温データをもとに本書オリジナルとして作図した。〇熱帯の花は何時咲く?
熱帯では春夏秋冬のような四季がありません。雨季と乾季の違いがはっきりしない熱帯降雨林地帯の海岸付近では、ハイビスカスやアラマンダ、ブーゲンヴィレアなどの花木は、ほとんどいつでも花が咲いています。
公園を散策していると、並んで植えてあるホウオウボクやオオバナサルスベリなどの花が、同じ種類でありながら、ある株は満開、その隣は葉が落ちて休眠状態、そのまた隣は緑の葉が青々と茂っている、といった個体差をみます。このような種類は、開花期が決まっていないようにも思えます。
しかし、すべての熱帯の植物が一年中生育し、年中花が咲き、果物が熟しているとは限りません。多くの植物の開花時期はむしろ限られています。そして、それには乾季と雨季の交代が強く影響しています。
また、花芽の分化、開花には日長(太陽の出ている時間の長さ)が強く影響しています。特に、熱帯花木の開花には、短日の条件を必要とする種が多いのです。
〇雨季と乾季のある一年
「熱帯花木」の開花のサイクルは雨季乾季のない《周年開花型》、雨季乾季のはっきりした《休眠あけ開花型》と《生長期開花型》、と大きく3パターンに分けられます。
熱帯雨林のような好条件下では、植物は常に生長に適した気候に恵まれます。そのため葉は常緑になりやすく、一年中生長を続け、開花しつづけます。この地帯の花木は、1番目の《周年開花型》となります。
それとは反対に、雨季と乾季の訪れがはっきりしているような所では、樹々は、乾季の間は落葉して休眠状態になりがちです。つまりここでは多くの樹々は雨季に一気に生長します。そしてその過程で栄養を蓄え、乾季に休眠に入るのです。そして休眠した乾季の明けに一斉に開花し、果実はそれに引き続いて実ります。この地帯の花木は、2番目の《休眠あけ開花型》になります。
また、いくつかの種類では、雨季に生長する過程で花をつけ、引き続き果実を実らせる3番目の《生長期開花型》になります。ただし、このパターンは休眠のない条件下では1番目の周年開花型になります。
沖縄の県花デイコは、休眠あけ開花の典型です。ところが同じ仲間のアメリカデイコは、新しく伸びた枝先に花をつける生長期開花型の代表です。(本書 p.1042参照)
このような現象は、暖帯・温帯地でいえば、冬の期間を休眠して春に花を咲かせる、あるいは、春から夏に枝を伸ばし、その枝先に花をつけ果実をつけるという習性に似ています。そして冬の寒さが乾季と同じような役目をしていると考えられます。
それでは、乾季に葉を落し休眠する植物は、その時期に人手を加えて水をやると、乾季でも生育するのでしょうか。答はイエスです。しかし、この場合は、栄養生長ばかり続けていつまでたっても花をつけないでしょう。なぜならば、これらの植物は本来、休眠を必要とするので、強制的に湿気がある状態に置くと、正常な生育サイクルから外れてしまうからです。
〇暖帯の中の9a、9b地帯
日本列島の多くの地域は温帯に所属します。温帯とは「年平均気温が約0~20℃のところ」です。温帯の南半分は「年平均気温が約13~20℃」の暖帯です。暖帯の植物相は、シイ、カシ、クスノキなどが主木となる常緑広葉樹を中心とする植生です。
暖帯では冬には一般に霜や雪に見舞われます。このため、基本的には熱帯花木の越冬は困難です。しかし、この暖帯の中でも、太平洋に面する海岸地帯は、暖流や地形の影響で、無霜地帯や霜の弱い条件下にあります。この地帯が、日本の中でも熱帯花木、亜熱帯の植物が生育可能な“注目すべき地域”なのです。本書見返しページの「日本ハーディネスゾーンマップ」を見てください。「緑色とオレンジの地域(10a、10b)」はもちろんですが、「空色の地域(9b)」がそれに当たります。また、「赤色の地域(9a)」はこれらの植物にとってはきびしい地帯ですが、種類を選び、何らかの手立てを加えてやればかなり見込のある地帯といえます。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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