寒さや暑さにどれだけ耐えられるか
〇寒さによる障害
お目当ての植物が、どの程度の寒さに耐えられるかについて考えてみます。
熱帯・亜熱帯地方の植物は、寒さに対して無防備です。寒さのくる地方の樹々は、その環境に耐えるいろいろな生活方法を備えています。
熱帯・亜熱帯の植物達は寒い季節を知らないので、葉をつけたまま生長を続けようとします。その結果、これらの植物は低温で痛めつけられ、程度の差はあれ、枯れこみます。
低温によって受ける熱帯植物の被害のパターンは、例えば、沖縄本島の北部で、低温に弱いゴバンノアシに見られます。ゴバンノアシは寒さに当たると、葉脈の間がやや日焼けしたように褐変します。葉は全体に緑を残したまま生枯れの状態でいっせいに落葉し、さらに低温が続くと頂芽付近から枝が枯れ始めます。毎年のように枯れ下がりが繰り返されて樹形は次第に小さくなり、いずれは枯死に至ります。
ホウガンノキ、ムユウジュ、ムッサエンダ・フィリッピカ、オウムカズラムクナ・ベネッティーなどは、特に高温が必要な種類で、10℃位に下がると(ゾーン10a)もう生命に危険がおよびます。ジャカランダ、テコマリアのように一時的には零度以下(ゾーン9b)になっても、何とか持ちこたえる種類もあります。
しかし、同じ低温でもそれが1日(一夜)のみで終わるか、2~3日続くかによって、受ける傷害に大きな差がでます。一晩の強い寒さで葉や小枝が傷んでも、大抵は太い枝までは傷害が及びません。しかし、低温の追い打ちをかけられると太い幹まで傷んでしまい、数年間越冬していた種類も、枯れてしまうことがあります。
特に寒さに弱い種類は、霜が当たれば、一夜にして葉が黒変して、葉や芽の部分は枯れてしまう場合もあります。寒さが苦手な植物にとっては、わずかな温度の違いや寒さにさらされる時間の長さなどが生死の分かれ道となるのです。このような植物は、霜の降りにくい場所に植えるとか、根元を、落葉敷き、霜囲い、あるいは軽い不織布などで覆うなど防寒の手だてが有効です。
また、霜のおそれのある茶園などではよく防霜用のファンを回し、若芽を霜から守っています。この方法も参考になるでしょう。
〇建物周辺は好条件
建物などの構造物は、防寒、防霜の役目を果たします。
建物の南面は特に、冬は日当りもよく、暖かいのがふつうです。南面でなくとも、壁面が昼間貯えた熱を夜間も保持します。これは、風の当たる壁面でも表面のわずかな空間は無風状態に近いため、熱を奪われることが少ない結果です。また、暖房の効いた建物や温室の周囲に植えた植物が、霜の害を逃れて順調に育っていることがよくあります。これは輻射熱によるものです。
このように寒い北風を防ぎ、霜が降りにくく、乾燥気味な建物の南側の軒下では越冬の可能性は大きいのです。
また、同じ気象条件下でも、南面した土手の斜面で地下が砂礫地など排水の良好なところは越冬の好条件を具えていて、耐寒性のやや弱い花木でも育ちます。その反対に、北斜面や建物の陰で日当りの悪い所、冬の季節風が吹きつけるような所は、植物たちには最も厳しい条件となります。
〇葉枯れ状態は赤信号
落葉性の種類は、不都合な環境(乾季)には、落葉して休眠する性質があります。そのため乾燥にはもちろん、寒さにもやや耐えることができます。
落葉性の樹の葉が茶色に枯れて自然に落ちるのは、生理的な現象です。一般にもし葉が枯れても枝についたままで離れず残っているような場合は、その枝の部分も枯れてしまったか、あるいは植物全体が危険な状態であるという赤信号なのです。
多肉植物は、休眠期に乾燥状態にすると比較的寒さに耐えます。反対に多湿条件下では、根腐れをおこし易く、寒さにずっと弱くなることを強調しておきましょう。
〇夏の高温多湿による障害
熱帯、亜熱帯の高地あるいは乾燥地に育つ花木は、高温・多湿に弱く、徐々にあるいは急に枯死してしまう傾向があります。
フクシアやカンツア、ネッタイシャクナゲなど、熱帯の高冷地に分布する種類は暑さには耐えられません。特に、高温多湿な日本の暑い夏を越すことは容易ではありません。ここでは生育が止まって落葉し、また葉の緑色がぬけて白くなるなどの高温傷害をおこして、枯死に至ります。また、真夏を過ぎた秋口に突然パタッと枯れてしまうのもよくあることです。
これらの種類は、耐暑性のあるごく少数の園芸品種を除き、一般に熱帯では1000m以上の高冷地、いわゆる避暑地などでの植栽に適します。植物園などでは夏期には冷房のある部屋で栽培します。日本では、北国や高冷地での夏越しは困難とは思われませんが、関東以南の高温多湿は大敵です。
オーストラリア産のユーカリやグレヴィレアなど乾燥地の種類では、ときに立ち枯れを見ます。その大きな原因は多湿に弱い種類であるため、根が窒息死してしまったのです。透水性の悪い土壌、長雨によって地下に水が停滞することなど、地中の多湿は要注意で、植物に対するダメージは強烈なのです。この場合、見えにくい地下の状態にも注意を払い、排水をよくする必要があります。
〇気候の温暖化について-特に都市空間では-
最近、地球の温暖化が強調されるようになりました。
大都市域の、いわゆるヒートアイランドと呼ばれる都市空間では、気温の下降は緩やかで霜も少ないため、意外と思える種類が生き残って冬を越し、生育する例も少なくありません。
本書巻頭「日本ハーディネスゾーンマップ」をご覧ください。自生状況では、ゾーン10a以南で生育するハマオモト(ハマユウ)はゾーン9aに属する関東、中部、関西、北九州の大都市では冬にひどく傷んで葉は枯れてしまうのが普通ですが、最近これらの都市部では冬期にあまり傷まず、葉も緑のままで越冬するのを見かけます。軒下や建物の南側など好条件の所では、特に、丈の低い熱帯性落葉花木であれば、かなりの種類が栽培の可能性があるといえましょう。
最近の東京や大阪の例では、ランタナをはじめブルンフェルシア、アブティロン、ゴクラクチョウカ、ルリマツリ、ベンガルヤハズカズラなどは条件のよい所では冬を越します。ゾーンナンバーは、9a→9bときには→10aにさえランクアップしたと考えてよいのです。ただし、数年に一度の寒波がきたときにはそれらは枯死する危険性があります。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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