熱帯の気候と植生
〇気候と植物の関係
一口に熱帯といっても気候条件はさまざまです。地球儀で大まかに見ると、五大陸(南北アメリカ、オーストラリア、アフリカ、ヨーロッパ、アジアなど)の「西側」は一般に雨が少ない乾燥地が多く、沙漠またはそれに近い地域となっています。それは大洋上にある亜熱帯高気圧の影響を1年じゅう受けているからとされます。その反対に、大陸の「東側」は、比較的雨の多い気候に恵まれて森林が発達しています。
赤道に近い地域でも気候を左右する要件はさまざまです。緯度や標高差は大きな要件ですが、その他にも海陸の分布状態、海岸からの距離、海流、卓越風、地形、土質、土地の被覆性などが影響します。さらに、湿度、風向き、風速、雨量、雲量、日照などの状況は、全ての場所において微妙に異なります。
これらの影響のうち、植物の生育に及ぼす最大の要件は温度と水分(雨量)です。
熱帯各地における年間気温と降水量の変化
熱帯島嶼
- ①ポナペ:南太平洋に点在する島の代表でしかも赤道に近く(北緯6度くらい)、島の中に比較的高い山をかかえるため年間を通じて多雨。
- ②ホノルル:年間を通して雨量が少なく、半年間は完全な乾季。その他の月も雨量は決して多くない。山で貿易風がさえぎられ山に雨を降らせたあとの空気が吹くため、乾燥する。従ってムシムシすることはなく、暑いわりにすごしやすい。植物を栽培するには人工的な潅水が必要。ワイキキの近くの公園や道路は潅水の設備が整っている。
- ③ヒロ:多雨でその分気温はやや低い。貿易風の当たる側にあることが年中雨が多い理由である。
※ホノルルとヒロは同じハワイ群島にある。
熱帯高地
低地に比べて気温が低い。これは高度差によるものである。緯度としては熱帯圏だが、気温からいうとこれらの場所は、温帯に属する。
- ④アジスアベバ:乾季と雨季の差はかなり鮮明である。雨季は6~9月、乾季は11~1月。
- ⑤クスコ:12、1、2、3月が比較的多雨で(10、11月はやや多い程度)4~9月は乾季である。アンデス高地では10~3月が農耕期。
※アジスアベバとクスコは雨季は約半年ずれている。
〇6つの熱帯植生気候
- 熱帯海洋気候とは
【ポリネシア、ミクロネシア、メラネシアの島々】
ハワイに代表される、周りを海に囲まれた地域です。貿易風に影響されるので、年中あまり変わらない高温が続きます。一般に、降水量が多いのが特徴ですが、貿易風が山でさえぎられる場合、風上側では特に雨が多く、風下側の一部に乾燥地も見られます。隔離された島々では、そこで特殊に分化した種類、固有種が見られます。
ここでの花木の開花パターンは主に《周年開花型》がみられます。
- 熱帯雨林気候とは
【赤道付近。熱帯アジア、アマゾン川流域、アフリカ中部西岸】
年間を通じて強い日射しを受けます。高温で雨量が多いため、樹木は常に生長して、昼なお暗い森林をつくります。樹々にはつる植物、樹幹には多くの着生植物が見られ、いわゆるジャングルと呼ばれる植物景観をつくります。
ここでの花木の開花パターンは主に《周年開花型》が見られます。
- 熱帯モンスーン(Monsoon)気候とは
【インドやミャンマー、タイなどのチークを主とする森林】
赤道から少し遠ざかる、緯度が南北10~20度の間の地域です。季節風(モンスーン)の影響をうけ、雨季と乾季とが交代します。東南アジアの北半球の一部では、5~10月(2~8月)が雨季となり、午後には激しいスコールに見舞われます。乾季には樹々は一斉に落葉します。すると光が林内に射し込み、地表近くの植物が茂ります。いっぽう南半球のマダガスカルやインドネシアなどでは、11~4月が雨季となります。雨季・乾季の交代は地域によって異なるのが普通です。
ここでの花木の開花パターンは、主に《休眠あけ開花型》と《生長期開花型》がみられます。
- 熱帯サバナ(Savanna サバンナ)気候とは
【アフリカ中北部・南部、ブラジル、オーストラリア】
ここは降水量の少ない地域で、低木が混じった疎林や大草原が広がります。やや降雨のある時期には、植物は生長し緑色をしています。乾季になると樹木は落葉し、草は生気を失って枯れたように黄灰色に変わります。このような地帯の植物は、地上部は枯れますが枯死するわけではありません。地下部が肥厚したり、塊茎・球根などの貯蔵組織ができたりして、都合の悪い時季を乗りきる機能を持っています。
ここでの花木の開花パターンは、主に《休眠あけ開花型》がみられます。
- 熱帯沙漠気候とは
【サハラ、アラビア、メキシコ、オーストラリア】
極端に雨の少ない地域です。気温の昼夜間の較差が大きく、日中には50℃以上あった気温は、夜間は0℃近くまで下がることも珍しくありません。ここでは岩石の風化が激しく、土は塩類濃度が高く、アルカリ土壌になりがちです。植物は、地上部の乾燥と地下部の生理的乾燥とに耐えるために、多肉の貯水組織をもつものが目立ちます。また、トゲ植物も多く見られます。これは茎や葉が刺状に変化したものです。これらの植物は相当な高温にも、また、乾燥条件の下ではかなりの低温にも耐えることができます。
ここでの花木の開花パターンは、主に《休眠あけ開花型》が見られます。
- 熱帯高地気候とは
【インドネシア、ニューギニア、アンデス、メキシコ、東アフリカの高地】
地理的には熱帯ですが、高山帯の特殊気候です。一般に、標高が約150m上るごとに気温は1℃低下して、標高が高くなるにつれ、大気が冷えて霧が発生しやすくなります。低地は熱帯林ですが、標高1000m位になると湿度が高く、雲霧林を形成します。ここの樹々の幹には、低木を含め、ランやシダ、コケ地衣類などが着生します。更に標高1500mを越えると暖温帯的な植物が多くなります。 1500~2000mの地帯では年間を通じて10~25℃が続き、そこでは温帯性の野菜や花の栽培が行われます。
2000~2500mを越える高地では、さらに気温が下がり熱帯高地気候となります。ここでは、日中は日射しが強く気温が上がるので、昼夜の温度較差はかなりあります。ですが、全般的に一年を通じて比較的低い気温が続くため、温度の年較差は少ないという特殊性があります。
標高3000~3500m辺りが森林限界で、それ以上の高地では樹木はほとんど育ちません。強風や低温あるいは積雪に耐える特殊に発達した丈の低い、あるいはクッションを形成する植物などが分布します。また、隔離されている海洋島と同じように特殊な固有種もみられます。
ここでの花木の開花パターンは、はっきりした乾季雨季がある所ない所など異なる諸条件のために《さまざまな開花型》が見られます。
坂嵜信之 編著
尾崎 章・香月茂樹・清水秀男・橋本梧郎・花城良廣・毛藤圀彦 共著
B5判 / 上製 / 1,224頁 / 定価64,900円(本体59,000+税)/ ISBN4-900358-44-4
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