ユリノキと私のつきあいも
とうとう二〇年をこえてしまった。
つまるところ、私にとってユリノキは
種を播いて発芽させ、移植するという
もっとも初歩からしか始まりようがなく、
したがって、終りようもない関係であった。
一、移植
モクレン科( Magnoliaceae )に属する植物の根の性質は、直根性といって、主根を地下深く、まっすぐに伸ばすものが多い。
なかでもユリノキはその最たるもので、いわゆるゴボウ根である。若い苗木でもよくわかるように、ユリノキの主根はさまたげるものがないかぎり、ほとんど側根を出さないまま、ひたむきに地中深く貫入してゆく。主根が深層まで達して、かたい岩石層などに突きあたると、はじめて多数の側根を力強く簇出して広い範囲に根を張りだすのである。しかもこの側根は、ラン科の根のように太くて柔軟で弾力性に富み、ここから多数の白い細根、つまり吸収根を密生する。
しかし、この強烈な直根性は長期的なものではなく、壮齢木に達する過程でしだいに弱まり、やがて地表の近くにも太い側根を出して広く四方に根を張ることで、雄大な地上部とのバランスをはかってゆく。
とくに単木、つまり孤立して一本だけで生長するユリノキでは、樹形があたかもピラミッドによく似た枝張りとなって地上部を支えるため、枝張りの直径の増大に比例して、根張りの直径も大きくなる。
この性質は、およそ巨大木といわれる樹木にほぼ共通した特性なのだが、ユリノキの根の場合は、それがきわめて明らかであるというわけだ。もっとも生長迅速の木であることからしても、理解に難くないものと思う。したがって、ユリノキは成木の移植がむずかしい木だと言われる理由も、以上の性質を知ってもらえば、おのずから納得していただけるであろう。
○成木移植はむずかしい
ユリノキの成木の移植は、二年も前からその準備にとりかかり、根まわしなどによって側根の発生をうながして、さらに移植のときには、細い根を切らないように、大量の土が付着したかたちで運ばなければならない。
種苗商のあいだで、引っぱたき苗、引き出し苗と言っているが、これは苗木のまわりを掘って幹を引きあげ、なお、土に入っている根を切って引き抜くやり方で、土がすっかりこぼれおちた苗木のことをいう。これを、裸苗とも呼ぶが、ユリノキの場合では、根元の近くの幹が直径四センチメートルを超した裸苗では、移植に成功した例をあまり聞かない。
生長した樹木の移植は、根まわしとか根切りといって、移植の前年あたりから根の周囲を大きく深く掘り、太い根を切断して側根の発生をうながしておくのが、一般的なやり方である。また、たとえ幼木の場合でも、床替えといって、若い苗木を移植して根ぎわからたくさんの細い根を出させる方法をとる。ユリノキの移植にはぜひ心がけてほしい方法だ。
それでも苗が一年か二年でまだ小さいうちは、裸苗でもけっこう活着するから、いったん植えたあとで変更しない場所を最初に選ぶことだ。
毛藤勤治 著 / 四手井綱英・村井貞允・指田 豊・毛藤圀彦 寄稿
四六判 / 並製 / 304頁(カラー24頁) / 定価1,885円(本体1,714+税)/
ISBN4-900358-23-1
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