二、三年生株と幼苗の移植実験
しかし、三年または四年生の苗木の場合では、裸苗で移植して活着良好なやり方がある。私の実験結果にもとづいて紹介しておこう。
深さ二〇センチメートル程度に土を掘りだし、底を平坦にならして、ここに少し厚手のビニールを二枚、合わせめを一〇センチメートル以上にして敷く。合わせめには、ほんの少しの土をばら播きにして、排水できるようにしておく。
この場合に、一年または二年生の裸苗では、一本あたりの面積は、縦を二〇センチメートル、横を三〇センチメートルとする。ビニールの大きさは、穴のなかに土を埋めもどしたときに、その端の部分が地表に出るくらいのものを、あらかじめ選んでおいて用いる。
要するに、重箱ほどのビニールのなかに苗を植えこむような格好になる。この方法による幼苗は、まるで頭髪のように細根が出るし、掘りだすときにも根が切れないので、移植をしても絶対に枯れることはない。このやり方は色々な木の大事な苗木を間違なく活着させる場合に応用できる。
つぎに、稚苗の移植について、結論から先に述べると、「活着率は、ユリノキが地上に芽生え、子葉が完全に開いて、子葉のあいだから本葉が出はじめるころが最良の適期であり、さらに、幼根の先端部一センチメートルほどを切りとって移植した場合が、最も高い」ということになる。
ところで、私は苗畑での長年の実験で、発芽率が極端に低いユリノキの種子を用いて、マッチ箱の大きさの面積(約三×四センチメートル=一二平方センチメートル)に一本ずつの割合で苗立ちさせる方法をつきとめて、学会に発表した。
この内容については次項に詳しく述べるが、ユリノキの種子を播きつけした苗畑面積を、発芽した本数で割った数値が一二平方センチメートルなのだから、実際には、寄り集まって出たり、ややまばらに出たりする場所が、部分的にできる。
そのままの状態にしておくと、苗の生育がみだれて、ふぞろいな苗になってしまう。そこで、移植に最も強い「子葉開張・本葉の出初め」の状態のときに、適正に間引きをして、これを他の苗畑に移し、約一ヵ月の間、簀の子の下で灌水しながら本葉三枚ぐらいになるまで保育する。
なお、株間一五センチメートル、畦間二五センチメートルに間引きして苗床に残しておいた苗は、その秋の落葉期までに三〇センチメートル以上に伸びるし、年によっては五〇センチメートルを超すこともあった。
これに引きかえて、稚苗で移植した苗のほうは、移植間隔に関係なく、よく育っても二〇センチメートルどまりに終るのが普通である。だから、移植苗は、株間一〇センチメートル、畦間一五センチメートル植えにして、苗畑の利用を考え合わせながら、二〇センチメートルものの苗木に育てあげている。
もし筆者が一学究でなく種苗業者だったら、スギやマツなどの山行苗と同じ密度で、ユリノキの苗木が生産できるこの苗畑づくりの方法を、企業機密としてここに紹介することを避けたにちがいない。
ユリノキのある近くを散歩していて、そのすばらしさに見ほれてしばし立ち去りがたく、木のまわりをさまようとき、ふと雑草のなかに、ユリノキの自然下種による淡緑色の稚苗を見つけることがある。
実は、幼いユリノキにとっては、このときが移植に最適の時期であるから、この命ある小さな苗をていねいに掘りだして、陽光のあたる場所に移しかえてやりたいものだ。もちろん十分に活着するまでは、半日陰の状態にしてやることを忘れてはならない。
毛藤勤治 著 / 四手井綱英・村井貞允・指田 豊・毛藤圀彦 寄稿
四六判 / 並製 / 304頁(カラー24頁) / 定価1,885円(本体1,714+税)/
ISBN4-900358-23-1
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