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岳麓花暦

正月の室内会で、山草の開花日数の話をしたところ、川村幹事から「MAKINO」に掲載したいので原稿にしてほしいと望まれたので、軽い気持で引き受けた。

国立科学博物館を定年退職して二年後、八ヶ岳の南麓、小海線甲斐小泉駅の南約1 kmの所に10アールばかりの土地を求め、ウサギ小屋を作り、岳麓の四季に親しむことにした。山を眺めたり、植物を観察したり、写真を撮ったり、頼まれ原稿を書いたりして、三月末から十二月初旬まで月の大半を過した。観察もいろいろあるが、草の開花期間だけは忘れずに記録したので、そのあらましを報告する次第である。

観察の場は、私の仮寓を中心とした東西約1km、南北約1 km、標高約950m、南には甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山、はるかに富士山、西には茅ケ岳、北には八ヶ岳連峰の南端の三ツ頭、編笠山が見える南向きのなだらかな斜面である。この辺り、大部分は戦後に開拓されたが、若者が都会に出ていったため放棄された荒蕪地で、ヒメジョオン、アレチマツヨイグサ、カモガヤ、チモシーなどが生い茂っていて(私の求めた土地は岩石が多いため開墾をまぬかれ、在来の野草が多少残った所)、付近にカラマツの植林が点在している。

ここに野生する種子植物はざっと60科、230種、そのうち樹木は30種ばかり、常緑樹はアカマツとネズミサシだけである。斜面で目につくものは、ハンノキ、オニグルミ、コナラ、コブシ、クロツバラ、ヤマグワ、ヌルデ、ズミ、ニシキギなどである。東側と西側には小さな流れがあり、ミズキ、ケヤキ、オニグルミ、コブシ、ハンノキ、ウワミズザクラなどの高木、その下にバッコヤナギ、ウツギ、ダンコウバイ、ツノハシバミなどの低木があり、フジ、アケビ、スイカズラなどがからみつき、林床にはサクラソウ、イカリソウ、ヤマトリカブト、マムシグサ、ヒナスミレ、ヒトリシズカなどが見られる。

植物の開花期間、つまり、花がいつ開いていつ終るかを調べることは案外むずかしいのである。花が高い所につく樹木類は観察しにくいので草本類に重点をおいたが、それでも見逃しやすいことに変りはない。その理由はいろいろある。

一個の花の命に限りがあるのは当然である。朝開いて夕方に終るものもあれば、夕方開いて翌朝終るものもある。数日間開きっ放しのものもあれば、陽が当れば開き陽がかげれば閉じ、これをくり返すものもある。一株に一個の花がつく種類なら観察は容易であるが、こんなものは稀である。ふつうは、一株に数個から多数の花がつく。しかもこれらの花が一斉に開くのではなく、次から次へ開いていくので、その株としての開花期間は長くなるわけである。株数が多くなれば、各株の開花の遅速があるから、その種類の開花期間はさらに延びることになる。

花が開いたことははっきりわかるが、いつ終ったかを見極めるのは苦しい。花弁が散るものでは、その時を終ったとする。花弁が散らないものでは、花弁がしおれ、あるものはしばらくしてすぽっとぬけ落ちるものもあり、いつまでもしがみついているものもあるのでいつ終ったかの判定はむずかしいが、いずれにしても、しおれたときを終ったと考えた。

約200種の草本の開花期間を三月末から十二月初旬まで観察し、約十年間記録した。花の多いのは七~十月で、七月には約65種、八月と九月にはそれぞれ約75種、十月には約45種の花を見ることができる。

ここに60種の開花期間を別表にまとめた。表中、例えば、ウマノアシガタは四月十三日に開花し、七月二十三日に終花したとあるが、これは毎年四月十三日に開き七月二十三日に終ったということではなく、十年間のうちに最も早く開いたのが四月十三日であり、最も遅く終ったのが七月二十三日であったという意味で、他の種類についても同様である。開花期、終花期の遅速、開花期間の長短はその年の気候条件に左右されるのは当然であるが十日も二十日も狂うことはなく、大体は一週間以内におさまるようである。従って、この表に示された各種の開花日にプラス1~7日、終花日からマイナス1~7日が各年の実情となるわけである。なお、カキドウシ、イヌナズナ、コハコベの開花日は三月二十七日になっているが、実際はそれ以前に開花したに違いないが、その日から観察をはじめたことを意味している。

開花期間の最も短いのがフデリンドウの7日、最も長いのはコハコベの231日である。

20日前後のものはキジムシロ、アカネスミレ、ノイバラ、ノハナショウブなど、30日前後のものはホタルカズラ、アヤメ、ヤブケマン、ヤマラッキョウ、ツルボ、コバギボウシなど、40日前後のものはメナモミ、チダケサシ、アキノノゲシ、オカトラノオ、ユウガギクなど、50日前後のものはノニガナ、イタチササゲ、リンドウ、タムラソウ、ツリフネソウ、コシオガマなど、60日前後のものはカセンソウ、キツリフネ、キキョウ、ワレモコウなど、70日前後のものはイヌタデ、クサフジ、ウマノアシガタ、カキドウシ、ツユクサなど、80日前後のものはユウスゲ、オミナエシ、ヤマオダマキ、ヤマトリカブト、キバナアキギリなど、90日前後のものはヤマハギ、モリアザミ、エゾタンポポ、タチフウロ、イヌナズナ、フシグロセンノウなど、100日以上のものはジシバリ、ナンテンハギ、ヤマホタルブクロ、ウツボグサ、ヤマタツナミソウ、ノハラアザミ、カワラナデシコ、オオダイコンソウなどである。

興味をひくのはエゾタンポポである。四月十四日から六月七日まで開花し、七・八・九月は休み、十月十七日から十一月十六日まで再び開花する。所謂返り咲きで、毎年のようにくりかえす。ジシバリ(イワニガナ)も同じ現象を見せるが毎年ではない。

開花期と終花期、従って開花期間の長短は植物の種類に特有な形質で、属には全く関係がないのである。表により、スミレとアカネスミレ、ツリフネソウとキツリフネ、クサフジとナンテンハギを見れば一目瞭然である。

(『MAKINO』牧野植物同好会誌・一九八三年第三号)

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