公共サイン納品実績全国3.5万件・植物名ラベル納品実績全国500万枚。Abocは『環境サイン®』・樹名板のトップブランドです

公共緑地サインと樹名板のパイオニアメーカー 0467-45-5110 お見積・カタログ請求も 平日8:30-17:00

記載ということ

子供の日記を見ると「朝七時におきた。顔を洗って御飯をたべ、八時に学校に行った。昼の時間に野球をして遊んだ。学校から帰ってN君とフラフープをして遊んだ。夕御飯のあと宿題をして九時に寝た」という毎日判を押したようなことしか書いていない。子供にとってはそれが生活の全部であり、感情的なものはあってもそれはすぐ忘れられて、書くことはできない。ただ行動に現れたことしか書けないのであろう。私もその経験がある。ところが成人して自ら日記を書こうという年になると、感想、批判などについて書くようになる。そうなるときまったスペースのある日記帳ではあきたらなくなり、長短自由のものを使うことになる。しかしさらに年をとると、仕事に追われて、そんなものを書く時間も気力もなくなり、会議、研究会、委員会のメモを記す程度になってしまい、形式的には子供の日記とあまり変らない。

分類学の記載も、考えてみれば子供の日記みたいなものである。分類学上の記載というのは、ある動物、植物のある群(例えば種、属、科)の特徴、形質、近似群との比較などを説明するための一種の文章である。なるべく簡単に、しかもよくその形態を理解させようとして独特の語彙や表現法を用いるので、専門外の人には何のことやら見当のつかないものらしい。

この記載文は、リンネやチュンベリーの十八世紀時代は数行の短いものであったが、十九世紀になるとだんだんくわしくなる。牧野富太郎博士の記載は正確、詳細なことで有名であるが、種類によっては一頁半から二頁にわたるものがあり、読んでいくうちにくたびれて放り出したくなるくらいである。

記載というものは、短くても長くても、適確にその群の特性を表現することはなかなかむずかしいもので、主観的に偏するとセンスのちがう人にはわからないし、事実の羅列はいたずらに無味乾燥になってしまう。手もとにある参考書から一例をひいてみよう。

スイカズラについて、「牧野日本植物図鑑 一九四〇」には《山野に自生する常緑藤本にして右旋蔓を成して長く延ぶ、葉は長楕円形全辺(嫩茎には稀に羽裂葉を生ず)にして対生、葉柄極めて短く、冬を凌で凋まず、故に忍冬の漢名あり。初夏葉腋に花を開き芳香あり、花は個二相比び、下に対生せる葉状苞を伴い、往々枝梢に花穂状を成す。白色或は淡紅色、後も黄色に変じて凋む。故に又金銀花の漢名あり。萼細微、花冠細長、上部五裂して唇形をなす。五雄蕋、一花柱あり、漿果は黒熟、茎葉を薬用とす》(戦後の「牧野新日本植物図鑑 一九六一」ではもっとやさしくなっている)。

「大井日本植物誌 一九五三」には《蔓性灌木にして枝は円く、伸長し、花時開出軟毛著しく生じ、腺毛を混ず、葉は多少の毛あり、広披針形乃至卵状楕円形にして革質、長さ三~八mmの柄と共に三~七cm、幅一~三cm、鋭頭又は鈍頭凸端、基部通常円く、全辺、又は幼植物にては羽状欠刻あり、下面淡緑色、梗は長さ三~一〇mm、苞は葉状にして長さ一~二cm、小苞は離生にして長さ約一mm、毛あり、楕円形。萼筒は無毛、裂片は卵形にして一mm位、毛あり。花冠は長さ三~四cm、外面に軟毛あり、白色にして黄変し、筒部は細く、舷部は筒部と同長にして二唇形。果は藍黒色、径六~七mm、花は五~六月、北海道、本州、四国、九州の丘陵地、山地に普通なり。朝鮮満州、支那に分布、》(これも改訂新版ではやややさしくなっている)。

ある小説に、主人公がある植物について図鑑の説明を見て「これは奇妙不可思議な文章である。図がなければどういう植物か皆目見当がつかない」と歎ずるところがあるのを読んだことがある。なるほどと逆に感心した。

全くの話が、われわれは始終この記載なるものに接しているのでさほど不思議には思わないが、一般の人からみたらおかしな文章(文章といえるかどうかもあやしい)にちがいない。

こういうものにはこういう術語、こういう形にはこういう術語を使うというきまりがあるから、術語と形容詞と簡単な動詞でつづっていくのだから、考えようによっては数字や符号の連続といってもよいわけだ。全く感情というものがはいらない。ドライといえばこれほどドライなものはないであろう。

戦後、むずかしい漢字や歴史的仮名遣いをやめて漢字を制限し、略字で代用させ、新仮名遣いを採用することになった。学術語もこの影響をうけて改めていくという気運に向かい、一部ではすでに実行されている。しかし、古い術語は歴史的のものでなかなか捨てきれず、またそれに代る適当なものがないために一時に古い伝統を破ることは困難である。最近、漢字の国である中国においてさえ、画の多い漢字の代りに略字を使うようになっている。そうなるとわれわれは新らしくその略字なり新術語を覚えなければならないのでつい昔の術語をつかうことになるのである。

以上は漢字や仮名を使う場合の記載であるが、イギリスやアメリカには英語の、ドイツはドイツ語の、フランスにはフランス語の記載があるのはもちろんである。また他の国ではその国の国語の記載があるはずである。いろいろな国が自国語で記載文を書くのは勝手であるが、読む方は大変である。

そこで、植物分類学の記載は、新種、新属その他新しいタクソン(分類群)を命名発表するにはラテン語でしなければならない規約になっている。世界の強国であるアメリカもソビエットも新らしいタクソンの記載はラテン語でしなければ認められない。強国、弱国ということにとらわれずにこのような約束が守られていることは、公平という言葉が国際的にこれほど見事に実行されている例として唯一のものではあるまいか。

(玉川百科大辞典 月報第6号・一九五九年三月)

『花のある風景』コンテンツ一覧▼ 目次(青字)をクリックすると、各文をご覧いただけます


ネイチャーコンテンツのご相談メニュー

営業日カレンダー
Calendar Loading

=休業日

土曜・日曜・祝日・GW休暇・夏季休暇・冬季休暇(年末年始)

  • (一社)日本公園施設業協会会員
  • SP・SPL表示認定企業
  • ISO9001認証取得企業
SPマーク SPLマーク ISO9001 認証取得ロゴ

アボック社は(一社)日本公園施設業協会の審査を経て「公園施設/遊具の安全に関する規準JPFA-SP-S:2024 」に準拠した安全な公園施設の設計・製造・販売・施工・点検・修繕を行う企業として認定されています。

自然学習と安全防災 まちづくり提案
For the happiness of the next generations