米国のペリー提督 (Commodore Perry)の率いる「黒船」の日本来航が,1857年(安政4年)の下田条約の調印から日本の開国につながる事は一般によく知られた事実であるが,黒船が日本へ来た目的の中に上記の日米修好条約の締結,米国西海岸から日本・中国に至る航路の開発,米国の捕鯨船団の極東における基地の確保の他に,日本での植物採集が含められていた事はほとんど知られていない.
黒船艦隊は,「米国北太平洋遠征隊」の名の下に,前後2回にわたり,植物学者と植物採集家を遠征隊のメンバーに加えて,琉球,小笠原,鹿児島湾,薩南諸島,伊豆下田,浦賀,横浜,函館(当時は「箱館」と書いた)を中心とする北海道等で,かなり大がかりな日本植物の採集を行い,その標本を米国に持ち帰った.これらの植物標本は,後に詳述するように米国のハーバード大学にもたらされ,当時の植物学の教授であったエイサ・グレイ博士(Prof. Asa Gray)により研究されたので,同大学の植物標本館に保存されていることは知られていたが,私が米国ニューヨーク植物園在勤中に,そのほぼ完全な1セットが,同植物園にも保管されていて,しかもこのニューヨークのセットは標本の品質と保存状態が非常に良いことを発見した.このニューヨーク植物園の黒船の標本は,折しも昭和50(1975)年の秋に昭和天皇・同皇后両陛下がニューヨーク植物園に行幸啓の際に,昭和天皇の御高覧の栄を得たものである.私はハーバード大学所蔵の標本セットを参考にしながら,ニューヨーク植物園の黒船標本の同定に従事したので,今回はニューヨーク植物園の標本セットを中心として,これらの標本の目録を作ることになった.本研究のために当該標本の借用と関係資料研究の便を計られた米国ニューヨーク植物園およびハーバード大学植物標本館の方々の御協力を深く感謝する次第である.
小山鐵夫 著
B5判 / 上製 / 98頁(オールカラー) /
定価1,572円(本体1,429+税)/
ISBN4-900358-41-X
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