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第十八話 両陛下をお迎えして

私がニューヨーク植物園に勤務した28年間に特別行事とでもいえる大きな出来事が二回あった。そのひとつは、1975年秋の昭和天皇・皇后両陛下のニューヨーク植物園行幸啓であり、もうひとつは、東京・ニューヨーク姉妹都市行事の一環として催された1984年秋の菊花展である。

学者天皇が楽しまれた植物園

1975年10月6日、ニューヨークは両陛下をお迎えするのにふさわしい快晴であった。日の丸の旗を立てたお召しの黒いキャデラックを中心とするパレードは、ニューヨーク植物園のスタッフ一同がお待ちするなかを、定刻どおりにワトソン館の正面玄関に横づけになった。米国人職員は軽く頭を下げ握手をしてお迎えしたが、日本人の私は最敬礼をしてご挨拶した。すると、皇后陛下(現皇太后)がほほえまれて、「小山先生は今でも日本式に……」と、以前にお目にかかったときのことを思い出されたかのように話しかけられ、私が感激を述べると同時に回りが和やかな雰囲気になった。

この日の行幸啓は非公式な日程になっていて、昭和天皇は、生物学者として私どもの研究室で植物の標本をご覧になり、名誉園長のW・C・スティア(Steere)博士や私と、日米にかかわる植物のディスカッションをされた。スティア博士は、コケ植物の権威で、この日は草丈が30センチにもなる超大型の一種を含めた、アラスカ産の珍しいコケ類をお目にかけ、アジアと北米間のコケ類の分布についてお話し申しあげた。

私の研究室に陛下をお迎えするにあたってのテーマは、日本を中心とした極東の植物と北米の東部や西部の植物が非常に似ていることをお話し申しあげることと、1853年ペリーの率いる米国の北太平洋探検隊が伊豆の下田付近で採集した標本をご覧に入れることであった。

極東の植物によく似た植物が北米に分布しており、これは「東亜・北米要素植物群」と呼ばれる。ザゼンソウ、ミズヒキ、ミズタマソウ、ハエドクソウ、ミツバ、チョウセンニンジン、ウリハダカエデなど多くの植物が共通している。

これらは、地球がより温暖だった第三紀、アラスカとシベリアがつながっていた頃にこの地域で分化した種で、氷河期になると、分布域は南下した。ところが北方ではこれらの植物は氷触で失われてしまい、現在の相離れた分布の型ができ、今日に至っていると考えられている。

行幸のとき、ミズヒキとミツバ、チョウセンニンジンは、よい標本が植物園内に生育していたので、お目にかけることができた。しかし、ザゼンソウは秋には休眠している。行幸までに目覚めさせて開花させようと、園芸官が低温処理と高温処理をして開花促進に力を注いだが、蕾をご覧に入れるにとどまった。

その他の植物は乾腊標本を用意し、分布図も作り、これらを前に、学者天皇とまるで討論するかのように話が弾んだ。侍従の方が、「お時間です」と声をかけられると、陛下が一瞬残念そうな表情をされ、ややためらい勝ちにお席を立たれたのが、今でも忘れられない。

下田付近での黒船来航時の採集標本をお目にかけたのは、当時、陛下が下田の須崎の植物誌をご執筆中であり、これらの原標本をご研究になるよい機会だったからである。行幸後、原標本の写真と、エーサ・グレイ教授に関連する論文の複製を献上したところ、『伊豆須崎の植物』の序文でそのことをお書きになられていて、大変恐縮したことであった。

天皇陛下が研究室でご研究中、皇后陛下は小学生の有用植物学の校外授業を参観されておられた。そのあと両陛下は、園内をお車で回られ、種々の樹木についてご下問があった。ニューヨークのもともとの林をよく保存している原生植物園では、お車を降りられて、石灰岩植生のキツネノボタン科、ケシ科などの植物を興味深くご覧になられた。

日本の伝統儀礼を米国人に教育

英国のキュー植物園は王立であるから、エリザベス女王をお迎えすることは当然であろうが、ニューヨーク植物園に一国の皇帝陛下が来られたのは、開園以来のことであった。儀礼上のことがいろいろあって、行幸啓の半年前には私が東京を訪れ、宮内庁や外務省の関係者の方々と細かい打ち合わせをした。また、在ニューヨーク日本国総領事館との折衝にもあたらなくてはならなかった。

王制でない米国の、しかも植物園のすべての人に、儀礼的なことを細かく教育するのは骨の折れる仕事であった。幸いにも同僚の副園長・G・T・プランス博士が生え抜きの英国人だったので、王室に対する儀礼の意義について説明してもらい、スタッフに教育しながら、数回のリハーサルをした。

赤いカーペットが植物園にはなく、これは日本航空の備品を借用した。日本国総領事館、米国特務機関、それに私以外には最後まで極秘にされていた園内の行幸啓ルートを、それとなくチェックして安全を期したりもした。

お召しの車が植物園を無事に去ったあと、私が最初にしたことは、東京の両親に電話をかけて、いっさいが無事成功裡に終了したことを報告することだった。

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