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第四話 もうひとつの顔・・・・・・・・・花壇と並木

ニューヨーク植物園には、イチョウの並木があり、雌雄両方の木があるのでたくさんの銀杏がなる。まだ銀杏の缶詰がアメリカに輸入されていなかった1963年ごろ、ニューヨーク市内の日本料理店「レストラン・ニッポン」では、プロプライエター(社長)の倉岡伸欣氏のアイディアで、ここで拾い集めた銀杏でてんぷらを作り、客を喜ばせていた。

ニューヨーク植物園には、またユリノキの並木もあり、樹齢七十年の巨木は、六月ごろいっせいにモクレン形の花を開く。花の形がユリやチューリップに似ているのでユリノキとか、英名でチューリップ・トゥリーの名があるが、この花は蜜を漏らすので並木の下に駐車していて窓ガラスに蜜がつこうものなら、飴󠄀がついたかのように大変なことになる。

ヨーロッパでも、パリ植物園にはよく茂ったスズカケノキの並木があって、かなりの雨が降っても、門から研究棟まで傘がいらないほどである。

日本には、東海道の松並木、日光街道の杉並木など、道路沿いの並木に立派なものはあるが、植物園の遊歩道に沿った並木という例はないようだ。熱帯地方の植物園はイギリスやオランダの植民地時代に造られたところが多いが、たいてい美しい並木がある。スリランカのペラデニヤ植物園には、キャベツヤシ、オウギヤシ、フタゴヤシ、ナンヨウスギの並木があるし、インドネシアのボゴール植物園のカナリヤノキの並木は、熱帯の強い日差しの日よけの役目をしている。

これらの並木は、それぞれの植物園の名物であり、そこを訪れる人びとを楽しませている。植物園というと、温室のイメージが強いが、温室が植物園のひとつの顔であるとすれば、もうひとつの顔が、このような来園者を楽しませる並木や花壇だといえよう。

噴水はギリシャ時代からの伝統

多くの植物園では正門を入ると、目の前の遊歩道の両側に、対照形の大型の花壇が見られる。その花壇に挟まれたり、囲まれたりして、噴水や女神などの彫像を配した池が見られることが多いが、これはギリシャ時代からずっと引き継がれている伝統である。

花壇の人気者は、なんといっても春のチューリップである。色や形が千差万別で、いっせいに開花したときの美しさはたとえようもない。余談ではあるが、カナダの首都オタワには、湖水に沿ったパークウエーがあり、その両側に幅の広い花壇がある。五月上旬、この延々と続く花壇が無数のチューリップで埋められ、チューリップ祭りが催される。この祭りは、第二次大戦中、戦火を避けてカナダに滞在したオランダの女王が、戦後そのお礼としてチューリップの球根を贈ったことから始まっている。

花壇に多い花卉類としては、パンジー、サルビア、ペチュニア、インパティエンス、コリウス、マリゴールド、ベゴニア、カンナ、デルフィニウムなどがある。草花以外の花壇としては、たいていの植物園にバラ園がある。低木性の植物としては、ツツジ、シャクナゲ、ライラック、コトネアスター、クチナシなどがよく用いられており、イブキビャクシン、ネズなども永久的な花壇の素材としてよく使われている。

来園者を楽しませるさまざまな工夫

入り口にあるこのような花壇のほかにも、いろいろな花壇がある。ロックガーデンとか薬草園などといった特殊な花壇や、温室、苗圃、研究管理棟などの施設の占有する部分を除くと、植物園の敷地はだいたい芝生のなかに作られた種々な花壇と遊歩道と見ることができ、遊歩道に沿って並木が見られる。

芝生というと、日本ではイネ科のシバ類を植えている所が多いが、北米や西欧の温帯ではナガハグサなどのブルーグラスを用い、熱帯では葉の幅の広いアクソノプスを用いることが多い。ヨーロッパの植物園では、芝生に入ることが禁じられている所が多いが、アメリカでは芝生がたいてい開放されていて、日光浴や昼寝、読書を楽しむ人びとの姿が見られる。ガーデナー(庭園師、庭の管理者)の側からすると、芝生の管理は大変で、ちょっと油断していると、メヒシバやハマスゲなどの雑草がすぐに入り込んでしまう。

ニューヨーク植物園では、芝生のなかに、春に開花する球根類がたくさん植え込んである。残雪のなかで花の咲くスノードロップ、青い花のムスカリ、小型のヒアシンス、五月に花の咲く各種のスイセンなどが、芝生で憩う人々の目を楽しませている。

トピアリーというものをご存じだろうか。元来は、鋼線でゾウ、ヒツジ、キリンなどの形を作り、これにアイビーを絡ませて仕上げたもので、ニューヨーク植物園の温室やシンガポール植物園の芝生には、いろいろな形のものが見られる。

ドイツのマイナウ植物園のトピアリーは、鋼線の骨組みに水ゴケやパーライトを埋め込み、そこに草花を植えたもので、日本の菊人形に近いアイデアである。

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