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第五話 さまざまな「ガーデンズ」

規模の大きな植物園を、英語ではよくボタニカル・ガーデンズと複数形にする。これは、種々の目的やアイデアで集めた植物を収める個々の植物園が集まったものの意味、と解釈できる。

個々の植物園とは、前回に述べたロックガーデンとかハーブガーデン、あるいは、熱帯雨林を演出したトロピカルガーデン、多肉植物を主体としたカクタスガーデンなどである。今回は、これら「個々の植物園」について、さらに述べてみよう。

薬草園の姿をとどめるハーブガーデン

ニューヨークの住人や訪れた人が立ち寄る場所に、マンハッタン島の北端近く、ハドソン川に面したフォート・トライアン公園があり、そこに、クロイスターという市立美術館の一部がある。クロイスターとは、修道院とか尼寺という意味だが、そこにハーブガーデンがあることはあまり知られていない。

ハーブガーデンは、クロイスターの建物の中庭にある。中庭にはれんがが敷いてあり、そこに、井戸を中心にして、れんがで縁取りして土を盛った四つの方形花壇が置かれ、その外側をさらに数個の矩形の花壇が囲んでいる。極めて古い形式のフォーマルなハーブガーデンで、マルメロ、ウイキョウ、バジル、カミツレ、ニラ、ヨモギなどが植えてある。イタリーやスペイン等の古い教会の中庭は大抵こういう形の庭で薬草園に由来するものである。

ハーブという草は、調理に使う薬味ともいうべき植物で、必ずしも薬用植物とかスパイスを意味するものではない。家庭の主婦がちょっと手をのばして調理用に摘み取ってくる、といった程度の薬味用植物類がハーブガーデンには植えてあり、その種類は多い。ちなみに、日本で初夏に「木の芽」と称して使う若いサンショウの葉も木の葉ではあるがハーブの一種である。

その公園に見られるように、欧米の植物園にはハーブガーデンが設けられていることが多い。日常の食生活でハーブの利用が多く、人びとの関心が高いからである。また、薬草園はもともと修道院に設けられ、植物園の元祖となったのだが、その伝統が今に引き継がれて、薬草よりは身近なハーブを植栽する場所に変ってきたのである。

正方形あるいは三角形や円形の花壇を、噴水や彫像を中心に幾何学的に配し、地面にはれんがを敷きつめる。花壇全体を蔓バラのはう塀または鉄柵で囲み、背景に古い建物を置けば、ローマ時代の薬草園が再現され、その香りがにじみ出ることになる。

ハーブガーデンに植えてある植物は、地中海沿岸から西アジアにかけての半乾燥地に多い種類で、一様に白っぽい緑の葉をもっていて、ハーブガーデンの色調を落ち着いたものにしている。

お花畑を再現するロックガーデン

山登りをして高山帯のお花畑に出合うと、疲れも汗も吹き飛んでしまう。あの夢のように美しいお花畑が身近にあればなあ、という願いは植物好きの人ならだれでも抱くところであろう。まさにその願望を実現しようとするのが、ロックガーデンである。

ヨーロッパの植物園に見られるロックガーデンは、たいていアルプスの高山帯をイメージしてつくられたものだが、イギリスの王立キュー植物園のロックガーデンは、ヒマラヤ山地にもヒントを得ているという。パリの植物園のロックガーデンは小規模だが、中央アジアのコーカサスの高山植物を中心に集め、興味深い。

ロックガーデンは、したがって、雰囲気づくりと植栽する植物がよく育つような特殊な環境づくりの二点に注意が払われている。高山帯をまねてつくることになるので、ロックガーデンの周りには針葉樹を植えて、外界から遮断してあることが多い。日光植物園のロックガーデンは、日光や足尾の山々を借景としており、自然を巧みに利用している例である。

自然の斜面とか築山をつくって、そこに岩を組んであるわけだが、夏の間地面を涼しく保ち、冬は排水をよくするために、砂岩質の岩が選ばれている。また、築山の地下にはれんがや岩を埋め込んで、水はけをよくしている。植物は、岩と岩との間のわずかな土に根を下ろすことになるから、土は肥沃でなければならない。また、排水もよくなくてはならないので、多量の粗い砂が加えてある。

ロックガーデンに植え込む植物の種類や全体の形に特別のルールはない。春から秋まで花が絶えないように植物が選ばれ、岩の間の砂質の土壌を保持するために、根が密生するイネ科植物を植えることも多い。

植生をありのまま保存する自然植物園

高層ビルが林立するニューヨーク市の、樹木の全くない地帯に、ぽっかりと緑の湖となっているのがニューヨーク植物園。その面積の三分の一、30ヘクタールあまりが、ブナやニレ、カバノキ類を主体とする天然の落葉樹林である。ドッグウッドと呼ばれるアメリカハナミズキの原種が多く、毎年五月末には白い花がいっせいに咲く。下草には、黄色い花をつけるカタクリ属の一種や、春一番に白い花の咲くタケニグサに近い種であるブラッドルートなどの珍しい草本類がある。

この一画は、自然植物園と呼ばれ、ニューヨーク植物園が開設された当時そのままの植生を保存している。今では、百年前のニューヨークの自然が見られる唯一の場所であり、貴重な標本、遺伝子プールだといえる。ハワイの太平洋熱帯植物園では、敷地の大部分がハワイの自然植生そのものの保存である。

東京の西部に広がる武蔵野のナラ林は、その下草であるさまざまな草本とともに、情緒豊かであるだけでなく、植物学的にも貴重な資料であった。都市化のために、ほとんどその姿が消えてしまったが、武蔵野の一画を例え30ヘクタールでも、そのまま植物園として保存していたら、と悔やんでももう遅い。植物園の役割のひとつが、植物の保存にあることが、ともすれば忘れられているのである。

植物の類縁関係を示す分類花壇

ミカンとカラタチは、互いに果実や花の形が似ているから、ミカン科という同一の科に属する植物であろうことは、少し植物好きの人ならわかるであろう。しかし、ミカンとサンショウが同じミカン科のものであるとなると、驚く人も多い。人の目には似ていないとうつる植物が、植物分類学的には、類縁関係の深いものであるという例は多い。

「分類花壇」というガーデンのアイデアは、植物を「科」別にまとめて配し、植物の類縁関係を説明しようとする試みである。分類花壇の多くは、コペンハーゲン大学やウプサラ大学の植物園に見られるように、いくつもの区画に区切った花壇を作り、ひとつの区画にひとつの科の、代表的な植物をまとめて植え込んだものである。そして、その区画は、日本の植物図鑑などの配列に一般に用いられているH.G.A.エングラー(1844~1930年)の分類方式などに従って、順序よく並べてある。

パリやベルリンの植物園に作られた優秀な分類花壇をひと巡りすると、まず、ソテツやイチョウなどの生きた化石植物に始まり、マツ、スギなどの裸子植物、続いてススキやタケなどのイネ科植物や、ハラン、アスパラガスなどのユリ科植物を含めた単子葉類が見られる。さらに歩みを進めると、双子葉類で、キンポウゲ科植物などの原始的な離弁花類から、ナス科やキキョウ科植物などの合弁花類に移り、最も進化したキク科植物で終わる。まさに、植物図鑑のページをめくっている感がある。

世界の植物分布を表す植物地理園

世界各地を旅行したとき、景観が異なって見える理由のひとつは、生えている植物が異なっているからである。

ベルリン・ダーレム植物園には、大変立派な植物地理園があり、植物を地域別に植え込んで、いくつかの代表的な植物地理区を演出している。日本から中国中部を経てヒマラヤ山系に至る「日華区系」には、イチョウやカツラの高木の下に、ヒガンザクラ、ツツジ、シャクナゲ類などの低木を植え、岩組みをしてイカリソウ類、ユキノシタ、コウモリソウ、オカメザサなどをあしらい、朱塗りの鳥居や四阿が建ててある。

ベルリンは、比較的寒いところだから、ヤナギ、シラカンバ、針葉樹などを主体とする「シベリア植物区系」、それに、カエデ類の下にエンレイソウ類やフロックスなどのある「北米東部区系」などは作りやすいが、暖帯の植物区系を屋外に設けることはむずかしい。

もし日本の中部以南の植物園で、植物地理園を企画すればベルリン・ダーレム植物園より、いっそう多彩なものができるであろう。

さまざまな植物環境を示す生態園

ニューヨーク植物園の一画に、1ヘクタールあまりの草原がある。そこは、米国中部に広がるプレーリーという草原のミニアチュアで、メリケンカルカヤなどのイネ科植物と、フォーブスと呼ばれるマメ科やキク科の植物などが植えてあり、プレーリーの植物群落の生態をよく表している。

植物の群落は、環境によって異なり、湿原、海岸の砂浜、池や沼、あるいはスコットランドに広がる荒れ地であるヒースなどは、それぞれに特有の植物の集まりで構成されている。これらの特徴のある変わった植物群落を示すガーデンが、植物生態園である。

そして、どこの植物園でも比較的よく見られるのが「沼沢園」である。沼沢園は、地面を60センチほど掘り下げ、底に粘土を敷き、その上に砂利や石を置いてから土を入れ、水を流してある。これに、アヤメ類、ニッコウキスゲ、リュウキンカ、プリムラ、ザゼンソウ、ガマ、ヤナギランなどが植え込まれている。

また、掘り下げた底をセメント張りとし、排水のための配管をして、水がよく流れるようにすると、水生植物群落を作ることができ、コウホネやヒツジグサなどの浮葉植物、フトイ、オモダカなどの挺水植物、フサモ、セキショウモなどの沈水植物が見られる。

シンガポール植物園には大形で矩形の水生植物園があり、ペラデニヤ植物園のそれはスリランカの島の形になっている。共に熱帯なので多くの植物が生育しているが、ニューヨーク植物園やブルックリン植物園は初夏から晩夏にかけて、スイレン科の植物中心に植え込んで夏に美しい水生植物園となっている。

見て楽しめる有用植物園

人間の衣食住に必要な品物の大半の原料は植物だが、エコノミック・プラント・ガーデン、つまり有用植物園には、これらの原料植物が集められている。

主食関係では、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシなどのほか、ジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、それにバナナなどが見られる。野菜類では、キャベツの花や、ダイコンの花などが見られるし、嗜好品類では、カカオノキやコーヒーノキの花や実が見られる。繊維作物では、ワタとアサをはじめ、サイザルやジュートなどの姿が面白い。

有用植物は、熱帯地方を故郷とするものが多いから、温帯地域では有用植物園は温室の中に設けられていることが多い。

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