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小石川植物園に渡来した植物たち

著者:元:小石川植物園 下園 文雄

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1.ユリノキ

小石川植物園のユリノキ
ユリノキの花
左:小石川植物園のユリノキ
右:ユリノキの花

小石川植物園(東京大学大学院理学系研究科附属植物園)は歴史が古く、徳川幕府の御薬園にはじまり、明治8年、日本で最初に造られた植物園です。園内には薬園時代からこれまで由緒ある多くの植物が集められてきました。それらの木々の来歴やエピソードなどについて紹介したいと思います。

園内中央奥の樹木林の中にひと際大木のユリノキが聳え立っています。この木の導入された年がまちまちです。植物園の看板には「明治初年、伊藤圭介によって日本で最初に導入された」とあります。伊藤圭介は新政府の招きで来日中のアメリカのデービット・モレー博士からユリノキの種子を貰い受け、東京の自宅で播種・育成したといいます。モレー博士が来日したのは明治6年であることからユリノキが導入されたのはおそらくこの年であると思われます。伊藤圭介はのちの小石川植物園の員外教授で『小石川植物園草木図説』を編んだ人で、この他いろいろの植物を導入しています。

ユリノキの和名について小石川植物園には大正天皇が命名したという言い伝えがありました。図鑑などには属名(Liriodendron)の直訳となっています。調べてみると東京帝国大学学術大観に「明治23年11月30日皇太子殿下行啓あらせられ、イテフ、ユリノキ・・・をお手植えあらせられ、 Liriodendron tulipifera を爾今ユリノキとせよと仰せらる。」とあります。それまで、図書や標本にはハンテンボクやチューリップノキなどが使われており、ユリノキの名前が見られるのは明治28年以降のことです。

2.サンシュユ

小石川植物園植栽の古木
サンシュユの花
サンシュユの果実
早春の花木サンシュユ
左:小石川植物園植栽の古木
右上:サンシュユの花
右下:サンシュユの果実

小石川植物園には日本で最初に海外から導入された植物が多く残されている。サンシュユもそのうちの一つ。サンシュユは、中国と朝鮮半島が原産でハナミズキなどに近いミズキ科の植物。日本に渡来したのは1722年(享保7年)、徳川吉宗の時代である。朝鮮半島から長崎経由で苗木と種子が導入され、小石川御薬園(小石川植物園の前身)と駒場御薬園に植えられたのが最初である。小石川植物園には当時からの株と考えられる古木が、園内奥のカリン林の近くに半分朽ちて、今なお、元気に花を咲かせている。

古い時代に海外から輸入された植物は、ほとんどが薬用植物である。殊に中国や朝鮮、台湾など東アジアさんのものが多くみられる。近年、公園などに花木として多く植えられているサンシュユも例外ではない。薬草図鑑によれば、10月ごろ、赤く熟した果実から種子を取り除いて乾燥させたものを煎じて服用すると滋養、強壮、強精剤、夜尿症、腰痛などに効果があるという。

和名のサンシュユは漢名の山茱萸からとされるが、牧野富太郎博士は、中国では茱萸を賦した詩は何れもゴシュユでサンシュユではないという。享保7年に御薬園に導入されたとき、山茱萸と誤認されたものであろうとして、新たに「ハルコガネバナ」の和名を与えたが、しかし、その真偽のほどは分からないまま、現在は最初に付けられた「サンシュユ」の名前が一般化している。


〔植物名入門〕各著者(50音順)プロフィールとこれまでのエッセイ

芦田 潔(社団法人日本おもと協会理事)
プロフィール伝統園芸植物「オモト」の銘を考える

岩佐 吉純(岩佐園芸研究室主宰)
プロフィール園芸植物の命名考

荻巣 樹徳(ナチュラリスト):準備中

乙益 正隆(ナチュラリスト・植物方言研究家)
プロフィール植物方言採集秘話

金井 弘夫(国立科学博物館名誉館員)
プロフィール植物の名前を考える

管野 邦夫(仙台市野草園名誉園長)
プロフィール花の名前にご用心

北山 武征(財団法人公園緑地管理財団副理事長)
プロフィール緑・花試験うらばなし

許田 倉園(元:玉川大学教授)
プロフィール植物名に現れた台湾の固有名詞

坂嵜 信之(植物プランナー)
プロフィール謎の植物誌

佐竹 元吉(お茶の水女子大学 生活環境研究センター)
プロフィール生薬名の混乱

下園 文雄(元:小石川植物園)
プロフィール小石川植物園に渡来した植物たち

杉井 明美(園芸家)
プロフィール気になる園芸品種

立松 和平(作家)
プロフィール花の名前

辻井 達一(北海道環境財団理事長)
プロフィールアイヌ語起源の植物名

豊田 武司(小笠原野生生物研究会)
プロフィール小笠原の植物

中村 恒雄(造園植物研究家)
プロフィール園芸樹木の変わりものたち

福屋 正修(ナチュラリスト)
プロフィール植物名学入門

藤本 時男(編集者・翻訳家)
プロフィール「聖書の植物」名称翻訳考

三上 常夫(編集者・翻訳家)
プロフィール造園植物の名前の混乱

水野 瑞夫(岐阜薬科大学名誉教授):準備中

山本 紀久(ランドスケープアーキテクト)
プロフィール実と名が違う造園植物

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