F1化によって世界をリードする切花となったEustoma[=Lisianthus]はアメリカから欧州に1804年にもたらされた。日本には『園藝大辭典』(石井勇義編)では昭和10年坂田商会で輸入、トルコ桔梗はその頃の命名となっている。しかし奈良高田町(現・大和郡山市)山下二幸園の昭和8年(1933)の春季カタログに最新種リシアンサスとして販売されている。坂田商会(現・株式会社サカタのタネ)『園の泉・趣味号』昭和9年(1934)春季号に、「とるこ桔梗・リシアンサス」として初めてカタログに発表された。その説明では「右図の如き花、桔梗科の植物で性質は強く乾燥に耐えます。花は美しい濃紫色で、底部の蕊は黄黒色をなし、直径約2寸[約6cm]位あります。春光路地に蒔けば、其年の七月頃から咲き出します。鉢植とする場合は一度摘心すると宣し、切花として、水揚良く花持宣し、温室栽培も出来ます。」と説明されている。
当時のカタログの編集者、また原稿の段階でリンドウ科をキキョウ科の植物と間違えた事、トルコ人の帽子と花が酷似していて「とるこ桔梗」とつけた、と私は考えている。昭和10年(1935)の大和農園(現・花の大和)『草花の種子』花号には「リシアンサス・ルセリアナス」として、前述の山下二幸園のカタログと同じ写真を掲載している。ちなみにF1品種は昭和57年(1982)より販売された。
〔植物名入門〕各著者(50音順)プロフィールとこれまでのエッセイ
芦田 潔(社団法人日本おもと協会理事)
プロフィール伝統園芸植物「オモト」の銘を考える
岩佐 吉純(岩佐園芸研究室主宰)
プロフィール園芸植物の命名考
荻巣 樹徳(ナチュラリスト):準備中
乙益 正隆(ナチュラリスト・植物方言研究家)
プロフィール植物方言採集秘話
金井 弘夫(国立科学博物館名誉館員)
プロフィール植物の名前を考える
管野 邦夫(仙台市野草園名誉園長)
プロフィール花の名前にご用心
北山 武征(財団法人公園緑地管理財団副理事長)
プロフィール緑・花試験うらばなし
許田 倉園(元:玉川大学教授)
プロフィール植物名に現れた台湾の固有名詞
佐竹 元吉(お茶の水女子大学 生活環境研究センター)
プロフィール生薬名の混乱
下園 文雄(元:小石川植物園)
プロフィール小石川植物園に渡来した植物たち
辻井 達一(北海道環境財団理事長)
プロフィールアイヌ語起源の植物名
豊田 武司(小笠原野生生物研究会)
プロフィール小笠原の植物
中村 恒雄(造園植物研究家)
プロフィール園芸樹木の変わりものたち
藤本 時男(編集者・翻訳家)
プロフィール「聖書の植物」名称翻訳考
三上 常夫(編集者・翻訳家)
プロフィール造園植物の名前の混乱
水野 瑞夫(岐阜薬科大学名誉教授):準備中
山本 紀久(ランドスケープアーキテクト)
プロフィール実と名が違う造園植物