オモトの愛好栽培が始まった江戸時代後期、たとえば、文政十年(1827)に種樹家金太(うえきやきんた;繁亭増田金太郎)が著した『草木奇品家雅見』(そうもくきひんかがみ)の中に、オモトをその特徴によって「縞、覆輪、鼈甲、青葉、蘭葉、小万年青」の類に分類し、その「縞」の類には「永島出、明石出」とか「北沢、筑前、仙台」といった所持者、産出地など出所を示したものや、あるいはまた、「しかみじま(顰縞)、ふくりんしま(覆輪縞)、千寿じ(千筋)」といった見所だけを示したもののあるなかで、「真鶴、鍬形、片男波、山鳥、大太刀、七変化、黄八丈、十文字、金鶏、残雪」など、他のオモトとの違いを明らかにした名前、すなわち「銘」が付けられたものが掲載されています。
その後、文政十二年(1829)に幕臣水野忠暁が、自著『草木錦葉集』(そうもくきんようしゅう)の中に多数のオモトを紹介し、さらに天保二年(1831)には『萬年青銘集録』[筆者の仮称]というべきものを出して、「大橋ゑんひ(燕尾)」とか「明石折津る(折鶴)」など、品種名と出所、持ち主を明らかにしました。
では、オモトに「銘」の付けられた園芸品種がどれだけあるのかと申しますと、さきに例示しましたような江戸時代には名品であったであろう多くの品種はすでに無くなっていますが、昭和九年(1934)に日本萬年青連合会が出しました『萬年青銘鑑』第1号以来、平成十六年(2004)に社団法人日本おもと協会が出しました『羅紗萬年青銘鑑』と『薄葉萬年青銘鑑』の第69号および『大葉萬年青銘鑑』の第40号までの掲載品種の総数は1017点あります。
このうち今年の『羅紗萬年青銘鑑』には241品種、『薄葉萬年青銘鑑』には181品種、そして『大葉萬年青銘鑑』には125品種が掲載されていて、その総計は547品種ですから70年の間に半数近い470品種が絶滅したり淘汰されたりしたことになります。
さて、次回は、その「銘」にはどのようなものがあるのか見てみましょう。
俳句の季語ではありませんが、「時候」「天文」「地理」「生活」「行事」「動物」「植物」など広範囲に及んでいます。
〔植物名入門〕各著者(50音順)プロフィールとこれまでのエッセイ
芦田 潔(社団法人日本おもと協会理事)
プロフィール伝統園芸植物「オモト」の銘を考える
岩佐 吉純(岩佐園芸研究室主宰)
プロフィール園芸植物の命名考
荻巣 樹徳(ナチュラリスト):準備中
乙益 正隆(ナチュラリスト・植物方言研究家)
プロフィール植物方言採集秘話
金井 弘夫(国立科学博物館名誉館員)
プロフィール植物の名前を考える
管野 邦夫(仙台市野草園名誉園長)
プロフィール花の名前にご用心
北山 武征(財団法人公園緑地管理財団副理事長)
プロフィール緑・花試験うらばなし
許田 倉園(元:玉川大学教授)
プロフィール植物名に現れた台湾の固有名詞
佐竹 元吉(お茶の水女子大学 生活環境研究センター)
プロフィール生薬名の混乱
下園 文雄(元:小石川植物園)
プロフィール小石川植物園に渡来した植物たち
辻井 達一(北海道環境財団理事長)
プロフィールアイヌ語起源の植物名
豊田 武司(小笠原野生生物研究会)
プロフィール小笠原の植物
中村 恒雄(造園植物研究家)
プロフィール園芸樹木の変わりものたち
藤本 時男(編集者・翻訳家)
プロフィール「聖書の植物」名称翻訳考
三上 常夫(編集者・翻訳家)
プロフィール造園植物の名前の混乱
水野 瑞夫(岐阜薬科大学名誉教授):準備中
山本 紀久(ランドスケープアーキテクト)
プロフィール実と名が違う造園植物