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第八章 花観察の旅

第一〇七話 小さな花園のはなし

野生のシクラメン満開

花文化をささえるイギリスのフランク夫妻


イングランド南部のワーリンガムに、ある老夫婦を訪ねた。古い友人で花好きのフランク夫妻である。

ご主人のローランド・フランク氏は、もの静かな英国紳士。キューガーデンにいる私を迎えに来て、バタフライ通りにある自宅に案内してくれた。地名の通り、チョウチョウが飛び交うような林の小道を入ると、斜面を切り開いた小さな家に着いた。玄関前には日差しを受けて野生のシクラメンが芽生えていた。

シクラメンの種子を見たことのある人は少ないと思う。鉛筆の芯の先ほどの大きさで、淡褐色。まいて、1、2ヵ月で芽生えるが、双子葉植物なのに子葉が1枚しか出ない。もう一つの子葉は地下で種皮の中にある。胚芽発根とともに、胚乳の養分が種子中に残された子葉を通って胚軸の発達を促し、小さな白色の塊茎となり地上に押し出てくる。

応接室からの眺望はイギリスの自然風景がパノラマのよう。奥さんのエルナさんが案内してくれた庭には秋咲きの野生シクラメンが満開。

20年以上も前に野生のミニ・シクラメンに魅せられて収集栽培をはじめ、今や専門家並み。

クロッカス、コルチカム、ネリネも手作りの石組みや小道沿いに咲き競い、ビニール温室には、鉢栽培種が無数に並べられていた。

書棚には、キューガーデンで著した野生シクラメンのモノグラフ(科、属の分類学的研究をまとめたもの)やロシア語の文献まである。

この次はフリチラリア(クロユリ、バイモ属)を集めたいという。それでいて「ホビー(趣味)ですよ」とさらりと言う。

学者、研究者ではないけれど、欧米にはフランクさんのような人がまだいるとすると、日本の花文化はまだまだ道遠し、の感じだ。

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