第一〇八話 ダーレム植物園のはなし
ドイツのベルリン植物園
日本の植物を覚えるには、ベルリン植物園の日本区へ
ドイツのベルリン植物園は、所在地で呼ぶダーレム植物園の名称で、ドイツ人には古くから親しまれている。ベルリン大学に所属し、18世紀から続く歴史と伝統がある。
広さは約43ha。アカデミックで花いっぱいの植物園だ。前項でも書いたが、どうしてドイツの植物園は花があふれているのか。市民との深い絆があるのだろうと、自問自答してしまう。
ダーレム植物園は、ベルリン大学教授で植物分類地理学の権威だった故アドルフ・エングレル園長とともに世界に知られている。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、熱帯など地域別に展示しているのが特徴。アジア地域の日本区はサクラ、カエデ、コブシ、バラ、ギボウシ、ユリなどがそろい、あたかも日本の山野にいるようだ。樹皮を煎じて洗眼薬にするので有名なカエデ科のメグスリノキが何本も植えられ、秋には紅葉が楽しめる。「日本の植物を覚えるには、ベルリン植物園の日本区へ行け」とは先達がよく言う言葉でもある。
そこにはドイツだけではない世界の人々、市民へのサービスがある。それはエングレルの哲学でもあったのだろう。熱帯植物の収集でも世界一と自慢する温室も同様だ。学術水準の高さと市民サービスが共存しているといっていい。広さ1千8百平方m、高さ25mの大温室は、ユニークな構造になっている。屋根の鉄骨は全部外に露出し、滴下する露が植物の葉上や人に害を及ぼさない設計が好例だ。
大きな空間にマダガスカル原産の世界一大きな竹、デンドロカラムス・ギガンテウスが繁茂し、他の熱帯植物を睥睨しているのが圧巻だった。巨人竹は原産地では最大直径が30cm、高さ30m以上になるという。
大温室の隣にある新温室は漸新なデザインで中世の教会建築に由来しているという。西インド諸島バーミューダ島などの植物が展示されている。
植物博物館ではエジプトのファラオの花展を催していた。人形をおいて時代を分かりやすく解説した大木の年輪展示、学名の始祖リンネの数的分類の展示など、小学生でも分かりやすく、植物を好きになるきっかけがいっぱいだ。
植物園が立派なことは、その国の文化のバロメーターだとよく言われる。日本の国立大学の植物園もそうでありたいものだと思う。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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