第一〇六話 植物園のはなし
アメリカには2百を超える植物園が
東大植物園は精子発見の大イチョウで世界に貢献
植物を一堂に集め、研究、展示している所が植物園。日本の植物園は、大きくいって、純正科学的な大学植物園、市民に公開している国公立の植物園、熱帯植物やラン、サボテン、バラなど観賞植物を集めた私立園、薬学研究のための薬草園などの種類がある。こうした植物園は、全国に120園ほどある。
世界に目を向けると、まずアメリカにはニューヨーク植物園、アーノルド樹木園など大小合わせて2百以上の園がある。イギリスのキューガーデン(英国王立キュー植物園)は、世界一の研究と収集数の実績がある。ドイツのベルリン植物園は、世界のすみずみまでの植物を記載した植物の大事典、エングラーのプランツェンファミリエンや、膨大な標本がある。
ラマルクをはじめ著名な植物学者を輩出したパリ植物園、熱帯アジアのボゴール植物園、シンガポール植物園、南米のリオデジャネイロ植物園、オーストラリアのシドニー植物園も有名だ。旧ソ連のモスクワ、サンクトペテルブルク、クリミアの植物園は、作物、薬用などの資源植物の収集研究をしている。紀元一世紀にはローマに薬草園があり、現在でもローマ近郊のパドア植物園は世界で最も古い植物園といわれている。
では、植物園はどんな社会的貢献をしてきたのか、二、三の例をあげてみよう。東大植物園に、精子が発見された大イチョウ(高さ約25m)がある。この木は雌の木だが、明治29年に植物学助手の平瀬作五郎が動く精子を発見し、世界の学会に大きな貢献をした。
また、かつて、オランダのアムステルダム大学植物園で、ド・フリース教授が行なったオオツキミソウの突然変異の研究は、生物の進化の研究の新機軸となり、社会科学上の植物園の存在価値を高めた。イギリスのキューガーデンが、長い歴史の中で果たした植物学、園芸学、農学などへの貢献は、世界に冠たるものといって過言でない。
この初夏に訪れたミュンヘン大学植物園のすばらしさには、はっきり言って、日本との差を見せつけられた思いだった。関係者はもちろん、国をあげて植物園の整備を緊急に進める必要がある。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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