第八九話 短日植物のはなし①
光にビンカンに反応する花々
暗期の長さに影響されるショートデイ・プランツ
夏は朝4時半ごろから明るくなるが、秋からは6時でも薄暗くなる。人が感じる以上に、植物の開花は敏感だという話をしよう。
昼と夜は、植物学では明期と暗期という。光のリズムに反応することを光周性といい、一定時間以上の暗期を持つ光周期を与えられないと開花しない植物を、短日植物という。キク、アサガオ、コスモス、ダリア、ポインセチアなどだ。
英名はショートデイ・プランツ。日本語の短日と同じ「日が短い」の意味だが、実際には暗期(夜)の長さに大きく影響される。
面白い事例を紹介しよう。筆者の住む千葉県の地元の花の会で、斜面にコスモスを植えた。異常な暑さで、夏の管理は大変だったが、秋には長いスロープが、ピンクのコスモスで飾られ、道行く人の目を楽しませた。
ところが、街灯の下だけが咲かないのに気が付いた。この場所の花が咲いたのは、1ヵ月後のことだ。開花を遅らせた犯人は街灯。暗期が短いか、あるいはほとんどなかったために、花芽が付かなかったということが分かる。
愛知県の知多半島などで、晩夏からキクを電照栽培して開花を遅らせ、冬の需要にこたえているのは、光周期を積極的に逆利用した例と言えよう。
前述したが、短日植物とは逆に、明期(昼)が長くなっていく季節に花を付ける長日植物もある。チューリップ、キンギョソウ、フヨウ、ユリなどがそれだ。
短日植物のこの項のしめくくりに、最近街でやたらにみかけるイルミネーションの功罪について。イルミネーションとは国語辞典を引くと「たくさんの電灯で建物や船を飾ること。電飾。」とある。この電飾は植物の短日性を有効活用する術と異なり、人間の側からの一方的な装飾物だ。植物側からは睡眠や休息を奪われる迷惑千万な代物で罪ばかりで功はない。せめて、クリスマスやフェスティバルの一期間中に限ってはと念ずるのは、私ばかりではないだろう。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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