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第六章 植物生理の不思議

第七九話 植物と寒さのはなし

寒さに育つ植物と冬の管理

北に育つ大きなアキタブキは、寒さに強いのでしょうか?


植物は冬の寒さをしのぐため物理的な準備をする。一口でいうと、植物体内に糖などの貯蔵物質を蓄積し、細胞液の濃度を濃くして生活防衛する。そういうこともあって冬の管理は、必要最小限の水分と根まわりの水はけを良好にすることが大事だ。きびしい寒さ、低温に対応するための知恵ともいえよう。

いつも思うことだが、北にあって寒いのに、どうしてアキタブキは、普通のフキに比べ何倍もの大きさに育つのであろうか。北海道では高さが1.2~2mにもなり、葉の大きさも径1~1.5mになる。秋田、岩手にもあるが、北へ行くほど大きくなるのはなぜか。北の国は冬が長いので、休眠のための養分を蓄える量が多いから、春から夏にかけての生長はほかよりずっと盛んだからとか、また北海道、樺太、千島は夏の日照時間が長いということなどがいえるであろう。

南米南部にアリノトウグサ科のグンネラという、アキタブキに似た姿をした植物がある。現地では高さ3~4m、葉の大きさ2m前後になる。〝巨草〟だ。北半球の北海道と同じように赤道から遠く離れた極地に近いブラジル南部に自生する。イギリス、ドイツをはじめ、ヨーロッパでは庭に植えて観賞する。私もかつてハンブルグで見たが、はじめての人なら誰でもびっくりする。

これらの地方を暖かさの示数でいうと、北海道と同じ45度の地域である。暖かさの示数というのは、植物生育ゾーンの温度の指標。その求め方は、まず月間平均気温が摂氏5度以上の月をひろいだす。そしてそれぞれの月の平均気温から5度を引いた数字を合計する。

その結果、寒帯は15度以下、亜寒帯は15~45度、冷温帯は45~85度、暖温帯は85~180度、熱帯・亜熱帯が180度以上ということだ。ちなみに仙台85度、東京110度、鹿児島140度、ロンドン45度、パリ70度ぐらい。グンネラはアキタブキと同じ示数だ。

関連して耐寒性ということばがある。寒さに耐える性質ということで、冒頭に書いたように寒地の植物ほど耐寒性が大。アメリカでは全米の耐寒性温度地図(Hardiness Map)をつくり、学会、民間での共通の指標として活用している。この地図と暖かさの示数とを読めば、木や草花の越冬の可能性を知ることになり有用である。日本でも、これからの花と緑の発展のためにぜひ欲しいデータである。

樹氷は、木々の枝にとりついた雨や雪などが凍り、氷の華となった冬景色。ところが、草の氷の華もある。枯れた茎の地際に見事な氷の結晶ができて、そのためにシモバシラ(霜柱)と名付けられたシソ科の草がそれだ。冷えこんだ朝、雑木林や原野を散歩すると、このシモバシラについて氷の華を見ることができる。そんなとき、どうしてこの草に限ってこんなにも見事に氷が結晶するのかと感心する。あわせて、自然の造化の妙に畏敬の念すらおこるはずだ。はじめての発見者、明治時代の植物学者伊藤圭介の名を付けたKeiskea japonicaが学名であり、別名ユキヨセソウともいう。

窓の外に目を向けると、ソテツやマンリョウのワラの霜よけがある。ところが、ハナショウブの枯れ葉を四角くたたんで、石だたみのようにした庭景色はあまり見られなくなった。昔の人は冬の芽を保護すること、しかも美しく飾るということに積極的だった。

以上、寒さにちなんであれこれ紹介したが、もの言わぬ植物の魅力に理解を示して欲しいと思うことしきりである。

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