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第六章 植物生理の不思議

第八〇話 耐寒性のはなし①

耐寒訓練で冬を乗り越える

寒入りより寒明けが大切です
冬越しのポイントは、枝葉を切りつめ水を少なくすること


人間の世界には耐寒訓練とか寒中水泳などがあって、鍛えあげれば、きびしい寒さも平気になるという。植物も耐寒性を備えて、冬に対処する生き方がある。自然には晩秋になると、体内の樹液に糖分などを蓄えて濃くする働きが始まる。シラカバ、ブナノキ、カエデなど北半球の多くの木がそうだ。寒さに弱い草は、いち早く茎葉を枯らして根の方に養分を送りこみ、じっと春を待つ。

植物を育てるのに、昔から寒入りよりも寒明けがこわいという。寒明けのころは地面もかなり深くまで凍り、悪いことに同時進行でぼつぼつ樹液の上昇が始まるからだ。突然の寒波がくると植物はたちまち凍害を受けてしまう。そう、凍害の原因は急激な低温。細胞間隙の水が凍ると、細胞の水がとられて水不足になり、一種の乾燥害を生じ凍るというパターンが多い。

俗に枝割れという霜割れ現象は、寒さの影響を受ける枝の表面と受けにくい芯部の細胞組織の緊張の差によるものといわれている。私の勤務先がある千葉県八千代市でもオオムラサキ(暖地ツツジ)にしばしば見られる。

植物で耐寒性が強いのは寒、亜寒帯に生きている木や草、ひどく弱いのは熱帯の植物、これは常識。しかし、中間の暖温帯、亜熱帯の植物は鍛え方によっては、樹種にもよるが耐寒性が備わる。例えば、寒がりのヤシの中でもココス・ヤタイやフェニックス・カナリエンシスなどは、小さな苗の時代に寒さよけをしてやる。すると環境に少しずつ慣れて、高さ2、3mになると東京付近では越冬するだけの耐寒力がつく。

逆に都市環境の変化によって得している風景が都心にある。プラタナスやヤナギの冬景色だ。ともに本来は落葉樹なのに〝都市気候〟による気温の上昇で葉を付けたまま冬を越す。落葉期間はほんの1~2ヵ月だから半常緑というところであろう。

反対の例もある。地被植物で人気のロニセラ・ニティダは暖地では常緑だが、寒地では半常緑になる。また、ハイビスカスはハワイでは常緑だが、日本では落葉樹並みに扱うといい。枝葉を半分くらいに切りつめ、水も少なくすると冬越しする。ちょっとした工夫で耐寒力がつく。暖かい南国生まれの植物が寒さにめげず緑の葉をなんとか付けてくれているのはうれしいものである。

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