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第六章 植物生理の不思議

第七一話 雌雄のはなし

難しい苗木の判別

雌木はふっくら、雄木はほっそり
人と共通するものがある興味つきない雌雄の観察です


植物で実のなる木を雌木、ならない木を雄木という。そしてこのように同種の植物で雌木(株)と雄木(株)の区別のあるのを雌雄異株と専門的にはいう。

雌雄異株の身近な木をあげてみよう。アオキ、モチノキ、イイギリ、ユズリバ、イチョウ、ウメモドキ、ソテツ、ツルウメモドキなど数多い。

都会の公園などでイイギリ(ナンテンギリ)の実がよくなる。ムクドリの大群に一粒残らず食いあらされる野鳥をよぶ木として有用。

イイギリの雌雄は葉の形で分かるという。実のなる雌木の葉は葉柄の付け根の葉身の形がふくらんでいて心形という。雄木の方は、ふくらみのない直線の切形だ。ところが、よく見ると雄木の方にも心形がある。一枚だけでは区別出来ず、数多く全体を見た場合の傾向と思う。

むしろ、枝先の伸長ぐあいを見た方がよく分かる。雌木の頂芽は、枯死して伸長せず、腋芽が横に伸長する。加えて、たわわに実がついた重みで当然横広がりになるから、全体としての木の姿が横幅のある樹形になるのが特徴。

雄木はいわばほっそり形だ。

イイギリだけではない。ポプラも雌木は箒状の細い樹形だが、雌木は豊満形だ。

イチョウも同じことがいえる。なにげなく見ているだけでは気が付かないだろうが、意識的に観察すると興味がつきない。

今から150年前の嘉永年間に出された『草木撰種録』を見ると、植物の男女之図があり、男大根、女大根、男サトイモ、女サトイモ、男ゴボウ、女ゴボウなど盛りだくさんに描かれていて、どれをとっても男はほっそり、女はふっくらな形をしている。

人も植物も共通する何かがあると思わずにはいられない。

植物の女性を見分けることができれば、とくに農業では収量に大差が出るので、昔からその見分けには熱心だったことがうかがえる。

ところが、いい話ばかりとは限らない。先日、国会議事堂のイチョウ並木を歩いて感じたことがある。

踏みつぶされた銀杏が黄色く汚れているのはまさに雌木の下だ。苗木を植えるときに雌雄の別が葉の形、木の形で判別できればこんなことはないはずだ。銀杏の黄汁は皮膚の弱い人はかぶれるからなお始末が悪い。

雄木の下の路面は清潔そのものであることはいうまでもない。都市緑化の面からみればイチョウは雄木の方が歓迎されるだろう。

しかし、小鳥を呼ぶ木となると話は別だ。結実するには雌木がどうしても必要になってくる。

私かいいたいのは、どちらにせよ若い苗のときに雌雄の判別が簡単に可能ならば、ということである。残念だが、今の科学では無理なこととされているが、将来、取り組みがいのある仕事であることは間違いない。その点、昔の人は数多くの経験知によって目安をつけていたようだ。観察眼に敬服、刺激されることが多い。(1996年9月の夏、東京大学理学部植物園では、イチョウの精子発見の100年祭の式典を行った)

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