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第四章 幹の不思議

第五七話 師管のはなし

葉で作られた養分の通路

樹皮をむいて、〝取り木〟や〝花つけ手術〟に利用
器官のはたらきを知っていると身近なところで役に立つ


師管は「しかん」または「ふるいかん」と読む。前項で紹介した道管は水の通り道だが、師管は葉で作られた養分(同化生成物)の通路といえよう。

園芸の質問で、カキの実が付かないがというのがよくあるが、答えの一つとして、環状剥皮という外科手術のような対策がある。表皮、中皮などの皮層部(俗に皮)をぐるりと環状にむいてしまう方法である。およそ仕掛ける枝の太さに相当する幅だけ皮をむくとよい。こうすることによって、師管を通る養分を枝の上方に止め、蓄えて、花付きをよくしようというねらいなのである。

C/N率というのは、植物体内の炭水化物の炭素(C)と根からの窒素化合物の窒素(N)とのバランスを示す指標だが、このような施術をするとのC > Nとなり、花や実が付きやすくなる。師管の存在を利用した園芸技術の一つといってもよいだろう。ただし、この施術をするときに、あまり幅をとりすぎると木や枝が枯れることがあるので注意がいる。

ところが例外もある。スウェーデンを旅していたときのこと、知人のアマチュア植物学者、ベルティル・ヒルメさんの広大な山の庭で、ポプラの一種(Populus tremula・高さ18m、幹目通り径20cm)の幹の皮が、幹の太さの2.5倍の50cmもぐるりと環状にはがされているのに13年も生きつづけ、生長している姿を見たからだ。ヒルメさんも不思議だといって、私にわざわざ見せてくれたのである。生きている植物の生きざまは面白いし興味が尽きないとしみじみ思った。

師管をイメージづける身近な例をあげてみよう。5月は取り木のシーズンである。ゴムノキ、ドラセナ、シャクナゲ、カルミア、フジなど、観葉植物や、花木などたくさんある。取り木は主として、挿し木ができにくいものに対して行う一種の繁殖方法である。この原理が、やはり葉でつくられた養分を蓄積させて適当な湿り気を与えることにより、切り口から根を出させることなのである。方法は環状剥皮と全く同じで、施術後に水を適当に含ませた水ゴケ(大人の握りこぶし大)を傷口に巻いておくだけである。葉からの発根ホルモンが集中して根の原基ができると、茎の途中に根がモジャモジャとでてくるというわけだ。仕掛けて1ヵ月後に、傷口にカルス(癒傷組織)ができれば成功で、やがて発根が始まる。秋には一個の新しい個体が誕生することになる。

植物の体の中には生理的からくりがあるということを知って欲しい。

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