第五二話 常緑樹のはなし
年間通し緑を保つ木
常磐(ときわ)ともいい、古来、長寿と恵みを象徴しています
常緑樹は常に緑を持つ木をいう。英名エバーグリーンツリーも同じ意味で、学問的には「1年以上枯死しない葉をもつ木」ということになる。
ここでは常緑樹の落葉化に触れてみよう。辞書にはあまり載っていないが、半常緑あるいは半落葉という現象がよくある。1年以内に枯死しない葉が多いか少ないかという問題だと思う。例えば、北米東海岸地方からフロリダに分布するヒメタイサンボクは常緑のタイサンボクを小さくした姿だが、一部が落葉する。つまり半常緑というわけだ。また、沖縄や台湾などにあるシマトネリコは東京近辺でも公共スペースに時々使われているが、台湾の植物書には半落葉性高木として記載されている。この種の常緑樹は、とかく暗くなりがちな通常の常緑樹と違い、景観上は人の目に明るいムードをかもしだす。例えば、東京ディズニーランドの中央プラザに植えられたオリーブ。半常緑ではないが、銀緑色の葉が細かく、明るいイメージで半常緑に準じた効果があった。オリーブ原産地の地中海沿岸地方は、夏に雨が少なく冬に多いため、含水量が少ない乾性で小型の葉のオリーブを生んだという。専門的には硬葉樹と呼んでいる。
「常緑樹は落葉するのか」とよく聞かれる。1年中緑したたる常緑樹が、全く落葉しないということはない。東京・本郷通り沿いの東大構内にはクスノキの大木がある。新芽が出てくる5月の新緑は、黄色や茶色が織りなすみごとな絵模様で、新生の息吹を感じる。このとき構内に入ると、根元を中心に一面にバラバラと落葉を始めるクスノキの葉が観察できる。緑の役目を果たした褐色の葉が重なって、褥を敷いているのである。ツバキやシイ、マテバシイ、アカガシ、シラカシ、タブノキなど他の常緑樹も同じ生理現象を果たしていると思っていい。
生きとし生けるものすべてが、年々歳々、新陳代謝を繰り返しているということであろう。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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