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第四章 幹の不思議

第五三話 落葉樹のはなし

都市で進む〝不眠症〟

四季の変化を体いっぱいで表現する木々
近頃は、落葉を忘れた木も街で目につきます


冬は、落葉樹の姿がひときわ目だつ。例えばJR渋谷駅南口のプラタナス。バスに乗ろうとして、緑したたる季節外れの姿に思わず足を止めた。落葉を忘れた緑陰そのままである。一昔前なら、秋に早々と落葉して裸のはずだ。

落葉樹は通常、秋にいっせいに落葉し、冬には冬芽を残して休眠する。「桐一葉落ちて天下の秋を知る」から「冬来たりなば春遠かじ」の季節感を身をもって示しているのが、古来からの落葉樹の姿であろう。ところが、都市部ではだいぶ以前からプラタナスやシダレヤナギなどが落葉、休眠拒絶症にかかっているといっていい。しかし、病気というわけではなさそうだ。都市の気候が大きな要因で、人為的であることは間違いない。落葉樹にとっては、正常な生理なのかアブノーマルなのかは不明といえよう。

暮れになり、東大植物園で、いつになく遅いイロハモミジの紅葉に出合った。鮮やかな色合いを楽しんだが「待てよ、もう12月半ばだな」と複雑な心境であった。イチョウの落葉も遅かったように思う。照葉樹林文化と言われる日本は、ツバキをはじめとする常緑樹で国土を埋め尽くされているかのようだが、ブナやカエデ、ムクノキなど多数の落葉樹があることを忘れてはなるまい。都市部ではイチョウ、プラタナスなど、外来樹種が毎日の市民生活にじかに接している。それはとりもなおさず、とかく常緑樹だけでは暗く陰影が残りがちな国民性に、光や明るさや希望を投げかけてくれていると思う。

プラタナスにちなんだ話を紹介しよう。別名スズカケノキともいい、北米中南部、インド北部、ベトナム、ギリシャなど比較的温暖な地方に分布。ほかにアメリカスズカケノキ、モミジバスズカケノキの3種が知られている。エーゲ海のコス島には、医聖ヒポクラテスのスズカケノキの古木があるので有名だ。この島に生まれた彼は、スズカケノキを植えてその樹陰の下で医学の大著述を書きつづり、弟子に医学を教えたという。落葉樹だからこそ、夏は涼しい日陰に、冬は太陽の光に恵まれた〝青空教室〟だった。今では世界各地に分植されているという。

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