第四九話 巨木のはなし
巨木の風格持つ世界爺
カウリの木は、1本で家が40軒建ちます
このたくましい生命力はどこからくるのでしょうか
人間に巨人がいるように木にも巨木がある。「巨」は大きい意で、巨体、巨岩、巨船、巨砲、巨乳とか経済の巨額、巨財、巨利とか皆同じだ。巨木(巨樹)とはいったいどのくらいの大きさの木をいうのだろう。
テレビのコマーシャルで、〝この木なんの木……〟の木を初めて見た人は誰しもびっくりしたと思う。熱帯木の雨の木、レインツリー(サマネア・サマン)だ。枝が横に数十mに広がる大きな木である。巨木と呼ばれる基準に高さがある。記録に残る日本一は、宮崎県椎葉村のスギで、72.7mあったという。世界一はオーストラリアのユーカリ樹の153mだ。巨木として世界の人が認めているのは、北米のセコイアであろう。「世界爺」と書いて学名のセコイアにあてている。ヨセミテ国立公園にある木は胴をくりぬいて車が通れるほど、巨大だ。同公園最大のセコイアメスギ(セコイア・センペルビレンス)は高さ90mになりセコイアオスギ(セコイアデンドロン・ギガンテウム)は82.9mという。まさに世界の巨木に値する。記録では120m以上のものもあったという。だから、世界各国の植物園で早くから、展示植栽して市民の目を楽しませている。ロンドンのキューガーデンの樹木園の中には何本も植えられており、壮観であった。
ドイツのハンブルク大学植物園では約10年間で30本近い苗木を列植し、5~10mに生育中である。数十年後にはキューガーデンとは違った展示効果を発揮するにちがいない。日本ではどうか。気候風上がなじまないため、セコイアオスギの生育はきわめて困難。メスギはなんとかなりそうだが、大木はまだまだ少ない。
巨漢というイメージの巨木もある。つまり、胴まわりの大きな木を紹介しよう。
ニュージーランド自生のカウリ(アガティス・オーストラリス)は大人20人以上が手をつないでも囲みきれないというものだ。高さではセコイアには及ばないが、太さ、材質では世界の巨木として恥ずかしくない。例えば樹高が40mの場合、地上から10mでも20mでも太さは10mとほとんどずん胴型。一本の木で家が40軒も建つという。
巨木たちは、根からの根圧と葉からの水の蒸散という生理的エネルギーの循環システムによって生きているが、それ以上に若々しくもたくましい生命力や年老いた風格に誰しも頭が下がるものと思う。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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