第四八話 相同のはなし
サボテンの刺は葉
同じ器官が長い年月をかけて、形を変える
芋は芋でも、ジャガイモは茎、サツマイモは根
植物の形態は長い間に変わるものだ。サボテンの刺は外敵から身を守るために、葉が変形して刺になった。おかげで種の保存が図られている。乾燥地帯は食料不足で、刺がなければたちまちにして動物のえさとなる。だから刺になったともいえる。スイートピーやエンドウの巻きひげは、葉が変化したもので、上手にほかの物にからまるためだ。長い間の生活の知恵といっていいだろう。
相同はホモロジー(homology)。動物でいうと、人の手、鳥の翅、クジラのヒレなど、いずれももとは前肢(足)、互いに形は違うが、足に対して相同である。身近な植物にもいっぱいある。カラタチの刺、ブドウの巻きづるは、もとは茎で相同。ヤマノイモの肉芽とオニユリのりん芽はともに葉が肥大したもの。ジャガイモとシクラメンは外形は異なるが、どちらも茎が地下で肥大したもの。タマネギは茎が短縮して肉質のりん片葉に包まれたもの。メギ、ハリエンジュの刺とサボテンの刺は葉の変身で相同(ハリエンジュは茎も刺となる)。ナワシログミ、ボケの刺は腋芽に相当する部分が刺に変わったもので、明らかに茎の変身。サンショウの刺も同じく相同だ。
ところが形は同じでも、もとは異なるというのが相似(アナロジーanalogy)という。いい例がジャガイモとサツマイモで、外形が芋で類似しているが、器官としては根本的に異なり、ジャガイモは茎の肥大したもの、サツマイモは根が肥大したものである。切り花店でよくみかけるカンキチクは、葉のように見える偏平体が葉と相似で、茎と相同ということになる。本当の葉は偏平体の節に小さく退化してある。
このように植物の器官を観察する場合、相同と相似という見方があり、興味がつきない。だが器官の異同を見るのは簡単ではないので、注意深い観察が必要。大きくなり成形化したものより、変化を受けにくい幼植物を調べることを勧めたい。あるいは細胞や組織は変わりにくいので、内部構造から原形を調べるという方法もある。
植物(動物も)には環境に対する適応性があり、適応形質という変身を葉、茎、根などで行っている。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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