第四〇話 りん片葉のはなし
寒さから身を守る〝うろこ〟
まだ小さな葉の芽や花の芽を、寒さや雪から保護
だから熱帯の木にはりん片葉がありません
りん片葉は英語でスケイリー・リーフ。形が魚の鱗に似ているところから名付けられた植物用語。地上茎の基部や地下茎に付くりん片状の葉、冬芽を包む芽りんなどの総称。多肉化したタマネギやユリのりん片葉は日常よく目にする。
秋が深まり、紅葉、そして落葉のあと、木々の枝には冬芽が残る。冬のきびしい低温から芽の中の葉、花の幼い原基を保護するのがりん片葉だ。べっとりと蜜汁が塗られて、念が入っているのはトチノキの冬芽。ヨーロッパのトチノキ(マロニエ)には蜜汁がないから、かんたんな判別にも役立つ。毛布のように柔毛が生えているのがコブシというように、同じりん片葉でもいろいろな外形がある。また、寒さの心配のない熱帯の木には、りん片葉がないのが普通だ。
冬芽と違い、地下茎である球根のりん片葉は、形も役割も異る。例えばユリの球根は、養分が蓄積されて多肉化している。りん片の基部は短縮茎で、1枚から芽が出てくる。だから、りん片1枚を育てあげて、花を咲かせることができる。オニユリ、カノコユリで30枚前後もあるから、大量増殖が容易といえよう。ちなみに、ユリの球根が芽生えると、地中で茎の下部に上根(Stem root)が多数生えて、養分を吸収する。下根(Basal root)は収縮根になり、地上部の安定をつかさどり、2年位で枯死する。
昭和62年のこと、妻と山登り大会に参加した。宿泊先の埼玉県寄居町の古い旅館で、夕食に出たユリキントンは美味だった。苦味があまりなかったから、多分ヤマユリであろう。ヤマユリのりん片葉の先端は、ピンクの細かい点々があり、陽光にあたると、全体がピンクになる。長生きする種類で球根も大きい。
やはり球根が大きくなるカノコユリ(鹿の子百合)は、白花と赤花とがあり、白花はりん片葉が黄色で苦味が少ない。いっぽう、赤花のそれは橙赤色で苦味が強い。同じ種類でも、花色によって味が違うところが面白い。また、オニユリのりん片葉の色あいは黄白色。苦味は少ない方だ。
ユリはりん片で増えるばかりか、種子でもよく増える。台湾の高砂族にちなんだタカサゴユリは、野生の丈夫な白ユリ。種子でどんどん増える。
先日、三宅島の知人が、このタカサゴユリの実生したばかりの苗をたくさん送って来た。葉の付け根に、小さな球根が一人前にできていて、早くもりん片葉がある。夏、公共空き地の法面などに、野草と共にタカサゴユリの白い花を咲かせると楽しい。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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