第三九話 茎針・葉針のはなし
長い年月をかけてできた刺や針
外敵を防ぎ、光合成も行う重要な器官
今では手入れのしやすいソーンレスのバラがたくさんあります
植物の茎や葉が刺状に変化すると、それぞれ茎針(ステムスパイン)、葉針(リーフスパイン)という。英語のスパインは針を意味するが、バラの刺はソーンといい、茎の表皮が変化して刺状の突起になったものだ。剌はとがった針状の突起物で、多くは枝が変化したもの。葉柄、托葉やその他の部分から作られることもある。バラに刺がなかったらバラではないという人もいるが、ソーンレスと呼ばれる刺のないバラもたくさんある。例えば修景用ローズの〝春風〟は濃いピンクの八重バラだが、刺がないので手入れする人には喜ばれる。カラタチやボケの刺も鋭い。いずれも茎が刺に化けたもの。ボケは腋芽が針状になり、茎に変形したとされている。カラタチはこの腋芽の第一葉がなったといい、葉針という説もある。
葉針で有名なのはサボテン。球形か偏平になった多肉の茎のまわりは、葉が針状になった刺で囲まれている。まさに動物のハリネズミのようだ。
緑色の茎の表面は光合成をしているが、この針は単に外敵防御という役目だけでなく、動物や人間に踏みつぶされるのを防ぐなどの役割がある。植物自体が生き残るために役立っているのが、刺や針だ。
ハリエニシダというヨーロッパ産のマメ科の花木は、黄色いマメの花が美しい。欧米の庭や公園によく植えられている。この花木はほとんどが茎針と葉針ばかりで、全身が刺だらけ。緑色をしているから、自身で光合成をし、養分を生み出している面白い植物である。刺も針も意味は同じだが、習慣的に区別して呼んでいる場合がある。ちなみに手元の園芸大辞典の索引を見ると、名前に「刺」とついているのはトゲクジャクヤシ、トゲハアザミなど15種あり、「針」のほうはハリアカシア、ハリエニシダ、ハリエンジュ、ハリグワなど13種あった。もちろん、刺や針の名がなくても、刺や針のある植物はたくさんある。カラタチ、ボケ、メギ、ウコギ、ユズ、ミカン、サンショウ、ピラカンサ、バラ、サンザシ、アリアカシアなどだ。
この際、どれが茎針か葉針か探るのも面白いだろう。メキシコに自生するアリアカシア(葉針)のように、刺の中が空洞になっていて、特別なアリを住まわせ、害敵のアリを殺させる役目を果たしている刺もある。刺や針は単に痛いだけでなく、植物にとっての生活の重要な器官であることが分かると思う。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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