第三二話 春モミジのはなし
春も紅葉を堪能する
強い日差しから幼い芽や葉を守る、これが春紅葉のひみつ
三寒四温を実感したときのこと、4月に入ってからも花冷えや初夏のような陽気が交互に続き、戸惑ってしまった。ところがモミジと言えば秋なのだが、春に紅葉するモミジを楽しんだ。民家の目隠しの塀沿いに、燃えるように鮮やかなモミジの紅葉に出合った。車を止めてよく見ると、園芸品種の出猩々で、周辺の木々の緑に映えて一幅の絵を見ているような感動を覚えた。
春モミジの現象は植物生理上、秋のモミジと同じと言われているが、春は秋と違い、日々気温が上昇する季節に紅葉するので不可解な点も多い。紅葉することで強い日差しから幼い芽や葉を守っているのだろう。この出猩々は欧米でも日本の美しい春モミジとして広く植えられ、愛好されている。同じく低木の枝垂れ性のモミジ・手向山(たむけやま)も海外では好評だ。
春モミジは芽出し、幼葉、成葉と変化する。例えば出猩々は、初夏を過ぎて夏になると緑色になる。モミジだけでなく、オオバベニガシワ、チャンチン、カナメモチ、オオカナメモチ、レッドロビン、ベニバモモ、べニバスモモ、バラなど春の紅葉をたんのうできる植物は多い。
ヨーロッパを旅行すると、街中や郊外の道沿い、公園などにノルウェーカエデのクリムソンキングが鮮やかな赤紫色に染まり、見事な春の紅葉に出合える。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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