第三一話 新緑の色のはなし
目にまぶしい七色の新緑
黄色の新緑が鮮やかなのはニレケヤキ、ニセアカシヤ、フリージア
赤い新緑はチャンチン(香椿)
目には青葉山ほととぎす初鰹 山口素堂
東京・神宮外苑のイチョウ、プラタナス、ケヤキの新緑はさわやかだ。冒頭の句には、緑の字はないが、新緑のまぶしい情景をほうふつとさせる。
新緑の色は緑が主体で、浅緑、深緑、その中間、白緑、黄緑、茶緑などさまざまだ。例えば、本郷の東大構内にあるクスノキの新緑は単色でないだけに見ごたえがある。
微妙な緑の表現はむずかしいが、財団法人・日本色彩研究所の「修正マンセル記号」でいうと、ゴールド2.5Y7/10、金茶9YR6.5/11、オリーブイェロー10Y6.5/10などが、クスノキの新緑の色だ。都バスの車窓からでもゆっくり見られるのも楽しい。モクセイ、ウバメガシ、チャノキなど、今ではだいぶ葉緑体が多くて緑っぽいが、出始めはオリーブ5.5Y4/4からオリーブイェロー5.5Y6/8であった。いわば飴色とでもいうのであろう。すばらしいのは赤い新緑だ。出猩々(カエデの品種)は茜色4R3.5/10だ。ヨーロッパでは、美しいジャパニーズメイプルといって人気がある。
同じ赤でも目のさめるようなのは、センダン科のチャンチン(香椿)。幼葉の赤は燃える火の芽といいたい。東京都墨田区八広三丁目の高崎良子さんのお宅には、都内でも珍しい約50年生のチャンチンがある。葉が展開したピンクが、やがて緑色になるという。板金業の亡き父君が、終戦の焼け野原の庭に植えたものだという。チャンチンの赤い色の秘密は、葉の細胞に赤い色素のアントシアンができたため。おかげで、幼葉は過度の紫外線から組織を守り、赤外線を吸収し、葉温を高めて、光合成の働きを盛んにすることになる。芽だしの赤い木には、カナメモチのレッドロビン、千染モミジ、オオバアカガシワなどがある。
この際、黄色の新緑というのも紹介しよう。千葉県印旛沼の臼井近くをドライブしたときのこと。名物のウナギ屋で庭に目を向けたら、黄色い花の咲いている低木が見えた。思わずきれいな花だねというと、花でなくて葉なんですよと店の者がいう。なるほど、近づいてよく見ると、ニレケヤキの新緑であった。黄色の葉身に緑の葉脈があるものと、ないものがあり、いずれも先の方の葉は葉脈がはっきりしないから全くの黄色で、遠目には花が咲いたように見える。みごと、というよりほかない。
ここで再び冒頭の句に戻ろう。青葉の青は、古語辞典によれば、青、緑、黄緑などの総称という。青はあおで、昔から緑をも含めた色の表示であったといえる。青緑色というのは硫酸銅などが入った色で、コンテリクラマゴケが代表。今ごろの新緑は、あやしいまでに美しい。
新緑と一口にいうが、実はこんなにもバラエティーがあることを知れば、これからの若葉の色の移り変わりや、日を追って生長する形の面白さなどにも興味を持っていただけるのではないかと思う。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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