第三三話 紅葉のはなし
どうして紅くなる?
最低気温が8度以下になると色づきはじめ
糖分を蓄え厳冬に耐える
紅葉は英語で、「レッドカラーリング・オブ・リーブス」とか「オータムカラー・オブ・リーブス」という。後者の方が黄葉も含まれるのでいい呼び方だと思う。
日本ばかりか、外国でも秋の紅葉はすばらしい。かつてベルリン・ダーレムの植物園でみたモミジバフウ(マンサク科)の紅葉はすばらしかった。ヨーロッパでは秋になると、カシやブナなどの黄葉が多いが、黄色の中での赤色はひときわ目立つ。
北米にも紅葉がきれいな木が多い。とりわけ私が好きなのはニッサ・シルバティカ(ニッサ科)とオキシデンドルム・アルボレウム(ツツジ科)。どちらも緋赤の見事な紅葉を見せてくれる。栽培して日本の公園や家庭などに普及する価値は十分あるだろう。
よくある問いに、「どうして紅葉するの」というのがある。秋になって低温になると、葉緑素(クロロフィル)の活動が鈍り、糖の蓄積が多くなる。このため、葉になる黄色素フラボノールが赤色素のアントシアンに化学変化する。また葉緑素が分解しかかってできた黄色のカロチノイド系色素もあらわれてくるためなどと答えている。さらに、葉の付け根にできる離層は落葉の準備のためできるが、葉内の糖の蓄積を助長する。最低気温が8度以下になると色づき始め、5度前後になると促進される。しかも、晴天が続いて、昼と夜の温度差が大きいと、適当な湿気が大気中にあるところで最高級の紅葉が見られる。しかし、まだまだ、「神秘な自然現象」と説明するのが一番しっくりする。
平地の都会よりは、山間部の渓流沿いや谷間などの紅葉の方がすばらしいことは確かだ。群馬県宝川の山小屋でのことだ。外は薄暮れなのに、窓ごしに入る燃えるようなヤマモミジの紅葉の明るさは、目がくらむほどだった。紅葉の条件がそろうとこうも鮮やかになるのかと感動を覚えた。
紅葉にちなんで春もみじ、草もみじを紹介しよう。
春もみじは、春から初夏に紅葉することをいう。モミジの仲間、新出猩々、野村は有名。ほかにカナメモチ、オオカナメモチの〝レッドロビン〟は町中でごく普通にみられる。よく見れば、アセビ、クスノキなども着色された若葉だ。原因は秋の紅葉と同じように、葉の細胞液中にアントシアンが生成されたためだ。軟弱な新葉の葉緑体が、強い光線の射入によってダメージを受けるのを防ぐのが目的だ。
草もみじは、チガヤ、ヨウシュヤマゴボウ、アカザなどのことで、郊外を散策すると見かける風物詩。種類はたくさんあるからメモしたり、俳句を作ったりして楽しむとよい。
春秋の紅葉以外にも、風などによる外傷や、虫害でも紅葉することがある。広く紅葉を楽しんで欲しい。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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