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第三章 葉の不思議

第三〇話 芽吹きのはなし

芽覚める春は観察のシーズン

子供たちに、なにげなく草木の話をしてくれる
そんな大人たちが増えることを願う


木の芽には、花芽、葉芽、混芽とがある。いずれも、半年も前の夏から秋のころに形成され、冬が近くなると、りん片におおわれて休眠する。

早春に気温が上昇し、樹液が枝先に昇りつめると、休眠から目が覚め、りん片がパラリとはがれて、中から葉片や花弁が顔を見せるようになる。この現象を指して萌芽(ほうが)、芽生え、芽吹きなどと呼んでいるが、専門的には発芽だ。

発芽像は種類によっていろいろで、3月は観察に最適のシーズンである。桑の発芽を例にとると、まず、りん片がはがれるのを脱包期、葉片がツバメの口のように展開してくるのを燕口期、口が開いてしまう姿を開葉期といっている。

東京・高田馬場の戸山公園を通り抜けたときのこと。予期しない暖冬の年だったせいかもしれないが、落葉低木のユキヤナギのみずみずしい緑の新芽が鮮やかだった。並んで植えられているシモツケの方は対照的に冬のままの姿であった。中高木のシラカバやモミジは脱包期だが、ケヤキ、スズカケノキは固い芽の冬姿だ。こうして木々の芽を注目していると、公園を素通りできなくなった。枯れ芝の広場に親子連れの遠足グループが円陣になって、楽しげに笑い合っている。あの中に一人でも芽のことを子どもたちに話してくれるお母さんがいたら、自然は、植物はもっと身近なものになるはずだと考える。

そういえばヨーロッパでは子供たちに花や木について語ることは家庭で父や母が行う欠かせぬ情操教育のひとつ、と聞いたことがあった。それは、感性豊かな子供たちに音楽や絵画の機会を与えるのと全く同じであるという。

芽の展開は、普通上向きが多いが、たまに下向きのがある。シロダモ、テンダイウヤクなどがそれだ。亜熱帯、熱帯地方の木に多いようにも思える。芽出しの早い木、遅い木を知っておくと、移植するときに役立つ。早いのはヤナギ、ハンノキ、ニワトコなどで2月下旬、遅いのはサルスベリ、アオギリなどで4~5月だ。落葉木の移植は芽出し前であれば、手間ひまかけて根鉢を付けなくてもよく活着する。反対に芽出し後だと完全な根鉢が必要だ。

開花前線などで知られている植物季節は発芽から始まり、開花、紅葉、落葉のパターンで年々歳々繰り返している。動いている芽の展開を身近な植物で観察してみてはいかがだろう。

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