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第二章 種子の不思議

第二二話 変り種子のはなし

一粒万倍

テッポウウリの種子は新幹線より速く
イチゴの種子はあの黒いツブツブ、ミカンは種子の付属物


花が咲くと、花粉の働きで受精が行われ、子房がふくらんでくる。それが果実。その果実の中には胚珠があり、熟したものが種子。種子の中には芽となる胚とその芽を養う胚乳とがあり、芽生えのエネルギー源となる。種子と一口にいうが、一粒万倍とか、一粒のたね死なずばとことわざにあるように、種子は無限の生命力を感じさせ、私達に生きる力を与えてくれる。

種子は果実の中にあるのが普通だが、例外もある。松かさ(マツボックリ)がそれで、特別に毬果という。毬果はりん片が集ったもので、いわば果実の代わり。りん片の付け根に種子がある。つまり、裸の種子なので裸子植物といって、子房という衣を着ている被子植物と区別している。スギ、ヒノキ、イチョウなどがその仲間だ。ところが、ここにも例外がある。庭にあるごく普通のジャノヒゲやヤブラン。被子植物だから果実の中に種子があるはずなのに、裸である。理由は、受精後に子房の壁がとれ、代わりに種皮がふくらんだから。果実だと思ってだまされないように。

果実にはいろいろな種類がある。1個の子房からのは単果といい、いくつもの子房からのは複果(集合果)と呼んでいる。モモ、カキ、ミカン、スイカ、ウリは単果で、しかもみずみずしいので肉果。アサガオ、ホウセンカ、エンドウマメなどは単果でぱさぱさとしているので乾果。実の堅いカシ、カヤは堅果。一方複果の方はパイナップルやクワの実が知られている。種子が土中にできるものもある。ナンキンマメやシクラメンは花が咲き終わると下に伸びて地中で果実ができる変わりものだ。

話題を変えよう。果実でも日常食べている部分がなにかを意外と知らない人が多い。イチゴは花托で種子はまわりの小さいつぶつぶ、リンゴの食べている部分は花托とがくで芯(しん)が本当の果実。ミカンは種子の付属物、パイナップルは小さい花の花托がたくさんあり、それが一つになったものというわけだ。

バナナに種子は? と聞かれて、ある、と答える人は少ない。本当はある、が正解で、野生バナナにはある。

種子のない果実もある。種子なしブドウやスイカだ。ブドウはジベレリンという薬品を若い花房につけ、スイカはコルヒチンという薬品を使って三倍体にして人工的に作り上げられたもの。売られているバナナも品種改良されたものだ。自然界での種子の伝播もきわめて興味深い。カタバミやホウセンカの実にふれると、パチッと種子が飛び出すのは誰もが経験していよう。堅くて金づちでたたいても割れないフジの実は、空中で乾きが極限に達するとパシッと割れて簡単に種子が飛び出る。

もっと驚くことがある。南ヨーロッパ産のテッポウウリは2cm内外の小さい果実だが、中にある水といっしょに15~16粒の堅い種子を10m近くも目にも留まらぬスピードで飛ばす。一瞬のことなので時速に換算すると新幹線より速いかもしれない。熱帯アフリカ産のバクダンウリはつる性で大きさはやはり2cm内外、外皮にたくさんの角があり、熟すと四方八方に5m近くも偏平な種子を吹き飛ばし、傍らにいる人をびっくりさせる。どちらもこの現象からの名が付けられている。

世界は狭い、とよくいわれる。しかし、自然界は広大で私達が気が付かない生命の神秘がたくさんあり、その営みの一つひとつには、私などただただ頭の下がる思いだ。

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