第二一話 ハンカチノキのはなし
生きた化石
プラントハンター史上、最大級の植物
4月末の連休前にハンカチノキの満開の姿を見るため、仲間と東京・東大植物園を訪れた。ハンカチノキは中国の四川、貴州、湖北などに分布するダビディア科の一科一属一種の非常に珍しい落葉高木。「第三世紀の植物」また「生きた化石」ともいわれている。花の形が白いハンカチの端をつまんでつった形に似ているため、英名もハンカチーフ・ツリーという。1862~1874年まで中国に滞在したフランス人神父アルマン・ダビットの発見。現地では20mにもなっていたという。
ダビット神父は1869年、四川省のムーピン(現在の宝興)で多くの植物と共にこの木を発見する。その珍貴な形態にたちまちヨーロッパの植物界は騒然となり、その後、この植物の生品を求めて、多くの採集家が中国の辺境の地にむかう。ハンカチノキはプラントハンター史上最大級の植物となり、数々のドラマを生み出すのである。ダビット氏の名にちなんで学名はダビディア・インボルクラータ。インボルクラータは、総苞のあることを意味し、花弁状の苞のこと。大小2枚の苞が数百枚も風に揺られている姿は美しく、人の心にさわやかさを感じさせる。
ハンカチノキは現在、ヨーロッパの庭園や公園にはよく植えられているが、日本ではまだ珍しい。大きな木になって花が見られるのは、先述の東大植物園、それに横浜の広瀬農園、茨城県牛久の確実園の樹木園など数本である。中国との友好関係が実って、一般でも苗木が入手しやすくなったのはごくごく最近のことだ。ヨーロッパに遅れること実に百年のへだたりがある。
『中国高等植物図鑑』(中国科学院編)第二巻にこのハンカチノキの精細な図が記されている。また、最新の中国の園芸書『中国花経』には、種子の発芽率30%、まいて2年目で発芽する、とある。
ダビット氏はジャイアント・パンダを発見した人でもある。パンダは希少でかわいいと巨費をかけて保護されているが、ハンカチノキはなにより少ない経費でも多くの人々に豊かな安らぎを与えている。
中国の植物がヨーロッパ人に与えたインパクトがいかに大きかったか、このハンカチノキには教えられることが多い。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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