第二三話 飛ぶ種子のはなし
飛行機の原点はここにあり
タンポポはがくがさけた落下傘になり
風に乗って飛んでゆきます
鳥は空を飛ぶ。それを見て人は飛行機を発明した。ライト兄弟はパイオニアである。植物にも翼のある種子が多くある。翼果、翅果といい、ドイツ語ではフリューゲルフルヒト(Flugelfruchit)。ずばり翼の果実の意味だ。
モミジの種子に2枚の羽根がついていることは誰でも知っている。庭や山のトネリコ、ツクバネ、クロマツ、アオギリ、アキニレ、ハルニレ、シラカバなども羽つき種子を持つ。なぜ羽がついているか理由は簡単。種子を広めるためだ。そのために、造化の神は、果皮、種皮、苞を翼に変えたのであろう。
ドイツのミュンヘンにあるドイツ博物館を訪ねた。私がもっとも感銘を受けたのは、植物の種子の飛ぶ姿、原理を科学的に分かりやすく解説、展示してあったことだ。そこには、モミジ、ツクバネはもちろん、タンポポや熱帯産のフタバガキ科の羽根のついた種子の、空中を飛ぶ姿が写真とイラストで見られ、魅力あふれるコーナーだった。
NHKテレビで、木の実、草の実をテーマにした自然誌特集を興味深く見たことがある。ツクバネは、秒速1.77m、アオギリは1.35mで飛ぶなどと映像で紹介していた。動物にばかり興味を持つ人にも、植物の面白さが分かったと思う。学者や専門家だけが独占している科学ではなくて、市民生活にいかに科学が定着するかが来世紀の大きな課題であろう。
タンポポの種子は翼ではない。がくが細かく裂けてできた落下傘状の毛だ。幼児が小さい囗で吹いただけで空中に飛んで行く。毛で飛ぶ植物もたくさんある。ヤナギ、アカバナ、テイカカズラ、ワタ、ヤナギラン、キョウチクトウ、トウワタなどは種子に、タンポポ、バラモンジン、オキナグサ、センニンソウなどは果実に毛があって飛んでいく。
苞も翼の役割をする。東大植物園にボダイジュの並木がある。6月ごろ咲く花の香りもいいが、花の後に、花序(花全体)のもとについている実が、舌状の苞を翼がわりにして、ひらりひらりと右に左にと空中を舞い落ちる姿もユニークだ。植物のライフサイクルに、もっと関心と興味を持ってほしい。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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