第二〇話 花のいのちのはなし
美花薄命
月下美人はたった1時間、わずかに咲いてしぼみます
サクラは、ぱっと咲いてぱっと散る。ソメイヨシノをはじめ、花のいのちの短い方だ。いのちの短い花はたくさんある。月下美人は夜にわずか1時間咲いてしぼみ、ハンニチバナはその名のとおり半日で終わる。アサガオは、株としては長く花を眺められるが、一つの花はその朝1回だけ。
いっぽう、いのちが長めの花も多い。シンビジウムやコチョウランなどランの仲間やシクラメンがそうだ。熱帯のハイビスカス、ブーゲンビレアなどは1年中咲いている。が、やはり一つひとつの花のいのちはそう長くない。開花の時期が、日照時間の長さで決まる花もある。例えば、秋まきのパンジーやポピーは、冬至に比べて日照時間が3、4時間長い春先が満開だ。アサガオは、夏至を過ぎ日が短くなり始めると、いち早く咲くグループの花だ。
以前大阪で開会された花の博覧会では、本来秋もおそくなって咲くキクを短日処理し、人工的に早く咲くよう仕掛けていた。会場には、どこからでも見えるタワーがあり、名付けて「命の塔」。半年間にわたって咲く色とりどり、2、3百万株の花が訴えるのは、生命の尊さと、人と自然の共生であった。
50年も前のことだ。小学5年生だった私は、原っぱで昆虫捕りに夢中だった。突然友達が「あっ、おばあちゃんの好きな花がある」と叫んで、淡いブルーの花を指した。その花のなんと美しかったことか。花はノコンギクとあとで分かったが、なんともいえない品の良い花のたたずまいと色合いは、鮮烈に脳裏にきざまれ、今でも時々思い出される。私にとって、花の美に開眼した体験といえるかもしれない。
生きている色の美しさの秘密は、赤、黄、青など独特の色素体にある。植物の細胞の大きさは、普通1mmの百分の1程度。まわりは細胞膜で囲まれ、中は細胞質や核などの原形質と呼ばれる。70~80%が水分の原形質に、問題の色素が漂う。原形質には常にエネルギーが出入りしていて、生きている因をなしている。
私の記憶に「淡いブルー」が生き続けているのは、ペンキの色と違って、このように生きている色だったからだろう。一つひとつの花には、いのちが短くても、人の心に長く生き続ける力がある。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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