第一九話 夜咲く花のはなし
夜の饗宴
どうして夜に咲いて日中には咲かないのか?
夜明かし組は動物だけでありません
多くの人たちの目にふれている花は日中に咲くのがふつうだ。ところが、目をひろげて花の世界を見ると、夜咲く花がいっぱいあることに気付く。
例えば、多肉植物の〝月下美人〟。広い意味でのサボテンの仲間。中南米に野生化しており、栽培は世界的。真夏の夜の9時頃、暗闇の中で妖しくも美しく花開く。大きな白い花がたくさん咲くからまさに月下の美人、月明かりに映える花のムードは涼感にあふれる。よく、美人には刺ありとかいうが、月下美人には刺がない。また、美人はつんとして食えたものではないともいうが、月下美人は食べられる。終わった花を熱湯にさらしてしょう油で賞味すれば、酒の肴に最高だ。
ただ、どうして彼女が夜に咲いて、日中には咲かないのかということが気がかりになる。月下美人だけではない。夜、花開く種類には、熱帯スイレンの仲間の夜開性グループがある。大体白い花が多い。待宵草、オオマツヨイグサは夕方に開いて夜咲き続け、翌朝、太陽がでるとしぼむ黄色い花。ついでながら、俗にオオマツヨイグサを月見草といっているが、真の月見草は別にあり、夕月にちなんだ白い花、数は少ない。
あらためて、夜咲くのはなぜか。人や動物に夜行性があることは誰でも知っている。コアラやフクロウなど。花開くのとは違うかも知れないが、暗くなると目がパッチリという類である。共通して考えられるのは一種のバイオリズム。長い生活の中で、いつの間にか光、温度、湿度などの環境に慣れ、順応したという見方だ。
植物の花の場合は受粉媒介する小動物、昆虫の協力を待つから、夜の蝶、蛾の跳梁が、夜の生活を定着させているということも考えられる。皮肉な人間との共通性だ。
光も大きな要素といえよう。ふつうの花は日中の光の増大に伴う温度上昇、開花に始まり、夕刻の光減少による凋花というパターンを繰り返している。しかし、夜咲く花は反対で、光減少の結果、花開くという生理現象だ。オオマツヨイグサを材料に調べたある研究報告によると、開花には植物自体の内在リズムがあり、ただ、暗くなっただけで花開くのではなく、ある一定の時間をおいて周期的に咲いたり、閉じたりするのだという。開花可能な一定の条件内にあると花が咲くという説である。
花たちの生活を、夏の夜に観察すると楽しいし、私達人間の生活にも、プラスになるなにかが得られるのではないだろうか。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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