第一一話 受粉のはなし
種なし果実のナゾ
果実栽培のタネあかし!!
種子を包む部分が成熟することを結果といいます
種子植物の花にはおしべとめしべとがある。おしべには花粉を入れている器官の葯がある。簡単にいうと花粉袋だ。いっぽう、めしべの先端には柱頭があり、そこには花粉が付きやすいように、粘着性の物質があったり、分裂したりしている。この柱頭に花粉が付くことを受粉(pollination)という。受粉されると花粉管が伸びて子房に至り、胚珠の珠孔を経て胚嚢に達し、管の先が破れて精子と卵子が結合して種子ができる。つまり受精である。
よく結実と結果を混同していうが、結実は種子のできることを指し、結果は種子を包む部分が成熟することをいう。
受粉の方法はさまざま。自家受粉と他家受粉とがある。路傍でよく見る野草、オオイヌノフグリは、犬の性器に似た面白い果実が付くが、ここで花を観察して欲しい。ブルーのかなり美しい色合いの花をよく見ると、日中のおしべとめしべは離れているのに、夕方にはおしべが動いて葯がめしべの柱頭に近付く。自家受粉の典型である。本能のからくりには改めて驚かされる。
蝶が舞うナノハナや夏の花のアサガオは、風や昆虫などの助けを借りて受粉する他家受粉の代表といっていい。前項で紹介した北米、中米産の花木ユッカの2種は、現地にしかいないユッカ蛾によって受粉結実する他家受粉の特殊な例だ。日本ではユッカ蛾がいないので実が付かない。しかし、人工受粉、つまり人為的に花粉を柱頭に付けてやれば結実する。
初夏、果樹生産地ではリンゴ、ナシ、ブドウなどが花ざかりだが、人工受粉が大仕事。よくタネナシブドウのことを聞かれるが、これは結実と結果で述べたように結実はしないが結果だけしたという好例。花粉、花粉管のホルモン作用や、それに似た化学薬品によって果実だけが成熟するためで、ブドウの場合、ジベレリン100ppm液に花房を浸漬するだけでタネナシブドウが成熟する。専門用語では単為結果という。バナナやミカンにもこの傾向が多く、花さえ咲けば果実ができる。
タネナシスイカも同じだが、プロセスがかなり異なる。普通の二倍体のスイカをコルヒチンという薬品で処理して四倍体スイカを作り、これを再び二倍体スイカと交配すると、三倍体植物であるタネナシスイカの種子がとれ、この種子をまけば種子のないスイカができるということだ。受粉にちなんで身近に関心のある野草、果物などを紹介してみた。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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