第三話 花の誕生のはなし①
花の定義とは?
葉の変形した苞が、美しく変化する
つまり花というのは葉の変形といっても過言ではありません
花はHana、英語ではフラワーflower、ドイツ語ではブルーメ、フランス語ではフルールだ。どれをとっても耳に入ってくる音感はすばらしい。中でも私はブルーメが好きだ。ぱっとはなやいだというよりも、なんとなく落ち着いた開花を感じさせるからだ。花は植物の魅力を一目にして語る。しかし、その役割や定義づけは簡単ではない。
花は、植物体の短枝の先が極端に短くなったところの花托(花の根もと)に、花葉と呼ばれる生殖に関係する特殊な仕組みをつけた器官といわれる。花葉というのは、がく、花弁、雄ずい(おしべ)、心皮のことで、心皮とは簡単にいうと雌ずい(めしべ)のことだ。このほかに苞(ほう)という葉の変形したものがあり、これが花弁のように美しくなる種類のものがたくさんある。例えば鉢花のポインセチア、花木のハナミズキ、薬草のドクダミ、熱帯木のブーゲンビレアなど。
がくも同じことがいえる。本来は緑色で、葉より小さく、花弁やおしべ、めしべを保護しているが、ガクアジサイのように美しくめかしこんでしまうものもある。このように苞葉やがくが美しく化けると、肝心の花弁は役立たずで退化していくケースが多いのも面白い。花弁もよく観察していると興味をそそられる。例えば、チューリップの中には外側の花弁が葉のように緑色になったのがある。梅の緑萼梅、桜の御衣黄などは似たようなものだ。さらに、おしべだって花弁や葉に化けることがある。そればかりか生殖に関係して花粉をばらまくという役目のほかに、花糸(葯が保持する柄)が赤、オレンジ、白に美しく色づいて人目を引くものもある。オーストラリア産のカリステモン(ブラッシノキ)がそれだ。また、キクやサクラなどの八重の花は、おしべが花弁化したものだ。
ここまで紹介すると、どうして花葉というかがかすかに理解できたのではないかと思う。つまり、花というのは葉の化けたものだといっても過言ではない。そこで、改めて花とは何だということを考えてみよう。
多くの人々は目に入るごく当たり前のきれいな花をイメージとして持っているに違いない。花を付ける植物の総称を顕花植物といった。花が目立つ(顕花)という意味で、よくいい当てていると思う。しかし、今は花が咲いて種子(たね)をつくることから種子植物という。より正確な表現になったというべきだろう。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
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