第二話 種のはなし
種と改良品種
バラ、ランなどは全て作られた品種
その原種の美しさを忘れてはいませんか?
種はシュと読み、ダーウィンの「種の起源」の〝種〟でもある。生物を分類する際の基本単位だ。座右の国語辞典をひくと、種はタネとあり生物学でいうのとはだいぶ異なる。生物学では〝種〟は形態学的特徴と特定の分布域を持っている。細胞遺伝学、生態学、生理学から見ても他の種と異なっているというのが通説。
一般的には両者は混同されていて「種類は?」と聞かれて、純正な生物学的〝種〟のほかに、改良された品種も一緒にして数えてしまうことが多い。
〝種〟だけの場合と、品種を入れた場合とでは、数が一けたも二けたも違ってくる。「あなたの国には植物の種類がどのくらいありますか」と聞くときには、国際的に〝種〟(スピーシーズ=Species)を数えるのが普通だ。〝種〟を表現するラテン名は、いつも属名と結びつけて学名として表現される。例えば、パンジーの学名はビオラ・トリコロールで、スミレを意味するビオラという属名に「三色の」という意味の形容詞の種名「トリコロール」を結びつける。
あくまでも〝種〟が基本で、数多くの改良された品種がそれに付随するわけである。
作物のイネ、コムギなどや、草花のダリア、マリーゴールド、サルビア、カーネーション、バラ、ランなどはいずれも人の手によって改良された品種が多い。
例えば、バラはアメリカバラ協会発行の新品種登録のモノグラフ『モダーンローズ』によると、約1万品種もある。ランはそれ以上だ。専門の植物園などでは、〝種〟の数だけを数えるのが基本である。日本植物園協会の入会資格の一つに、生きた植物5百種以上を保存することとなっているのは、かなり厳しい条件だ。
バラでも、ラン、チューリップでもあふれるほどの改良品種を見慣れている私達は、改良品種のもとである〝種〟を忘れていないだろうか。
数年前、スウェーデンのリンネガーデンを訪れた時のこと。分類見本園の中に、マリーゴールドの〝種〟、アフリカンとフレンチが、それぞれ〝Tagetes erecta〟〝Tagetes patula〟とラベルが付けられ咲いていた。
百年以上も前にスウェーデンに渡来したというメキシコ生まれのマリーゴールドの〝種〟そのものの姿であろう。花の美しさを原点に戻って見直さなければと、その時思った。
川上幸男 著
B6変型判 / 並製 / 301頁 / 定価1362円(本体1,238+税)/
ISBN4-900358-40-1
〔花の美術館〕カテゴリリンク